29 / 71
学園を卒業する日に想いを告げてきた彼と婚約していたのですが、彼はその誓いを自ら破り捨てました。
しおりを挟む
あれは学園を卒業する日のことだ。
校門を通り過ぎて帰宅しようとしたちょうどそのタイミングで後ろから駆けてきた彼に声をかけられて、そこで。
――実はずっと貴女のことが好きでした。
そんな風に想いを告げられて。
彼のことは知らなかったけれど、その熱量に心奪われた。
彼のことはまだ何も知らない。でも、こんなにも真っ直ぐに誰かを想えることが凄いし、それを言葉にできることも凄いと感じて。自分にないものを持っている彼に対して私はある種の敬意のようなものを抱いた。
そうして私たちの関係は始まった――のだが。
「君にはもう飽きた。だから婚約は破棄する」
その彼アフルレッドは信じられないくらいあっさりと私を切り捨てた。
三日ほど前のこと。
彼はいきなり私を呼び出すと、相談もせず自分一人で勝手に出した決定を告げてきたのである。
あの時はさすがに愕然として言葉が出なかった。
ただ、アフルレッドの意思は固いようだったので、仕方なくではあるがそれを受け入れた。
今の彼には何を言ってもきっと無駄。
そう感じたからである。
身勝手な理由で婚約破棄されるというのは実に残念なことだ。しかし彼の心がそこで定まってしまった以上仕方がない。一度定まった他者の心を変えるなどかなり難しいことだろうし。
それならば、ここはもう諦めて、新しい未来を拓きたい。
その方がずっと有意義だろう。
私はもうアフルレッドには縛られない。
過ぎたものは過ぎたものとして記憶の中に留めておくだけにする。
それでいい。
それだけで。
◆
一度婚約破棄されたという若干不利な点はあったものの、周りからのサポートもあり、無事良い人と結ばれることができた。
おかげで今はとても幸せに暮らせている。
夫は穏やかな人。男性でありながらも暴力的な面や独りよがりなところはない。そして、家柄や仕事の関係もあって金銭的にも満ち足りた人である。
彼に巡り会えて良かった、と、心の底からそう思う。
ちなみにアフルレッドはというと。
あの後一人の美女に惚れて散々追いかけ回してようやくその人を手に入れられたようだが、後に彼女の父親が借金王であることが判明したそう。
そしてアフルレッドは美女の父親の代わりに借金返済させられることとなってしまったそうだ。
彼は今、借金返済という生き地獄を味わっている。
だがそれが彼の選んだ道。人生。だからその道が険しくとも周囲には何の関係もないのだ。
◆終わり◆
校門を通り過ぎて帰宅しようとしたちょうどそのタイミングで後ろから駆けてきた彼に声をかけられて、そこで。
――実はずっと貴女のことが好きでした。
そんな風に想いを告げられて。
彼のことは知らなかったけれど、その熱量に心奪われた。
彼のことはまだ何も知らない。でも、こんなにも真っ直ぐに誰かを想えることが凄いし、それを言葉にできることも凄いと感じて。自分にないものを持っている彼に対して私はある種の敬意のようなものを抱いた。
そうして私たちの関係は始まった――のだが。
「君にはもう飽きた。だから婚約は破棄する」
その彼アフルレッドは信じられないくらいあっさりと私を切り捨てた。
三日ほど前のこと。
彼はいきなり私を呼び出すと、相談もせず自分一人で勝手に出した決定を告げてきたのである。
あの時はさすがに愕然として言葉が出なかった。
ただ、アフルレッドの意思は固いようだったので、仕方なくではあるがそれを受け入れた。
今の彼には何を言ってもきっと無駄。
そう感じたからである。
身勝手な理由で婚約破棄されるというのは実に残念なことだ。しかし彼の心がそこで定まってしまった以上仕方がない。一度定まった他者の心を変えるなどかなり難しいことだろうし。
それならば、ここはもう諦めて、新しい未来を拓きたい。
その方がずっと有意義だろう。
私はもうアフルレッドには縛られない。
過ぎたものは過ぎたものとして記憶の中に留めておくだけにする。
それでいい。
それだけで。
◆
一度婚約破棄されたという若干不利な点はあったものの、周りからのサポートもあり、無事良い人と結ばれることができた。
おかげで今はとても幸せに暮らせている。
夫は穏やかな人。男性でありながらも暴力的な面や独りよがりなところはない。そして、家柄や仕事の関係もあって金銭的にも満ち足りた人である。
彼に巡り会えて良かった、と、心の底からそう思う。
ちなみにアフルレッドはというと。
あの後一人の美女に惚れて散々追いかけ回してようやくその人を手に入れられたようだが、後に彼女の父親が借金王であることが判明したそう。
そしてアフルレッドは美女の父親の代わりに借金返済させられることとなってしまったそうだ。
彼は今、借金返済という生き地獄を味わっている。
だがそれが彼の選んだ道。人生。だからその道が険しくとも周囲には何の関係もないのだ。
◆終わり◆
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました
四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。
だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!
踏み台令嬢はへこたれない
三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。
変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!
utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑)
妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?!
※適宜内容を修正する場合があります
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
死に戻るなら一時間前に
みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」
階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。
「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」
ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。
ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。
「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」
一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる