上 下
22 / 71

ある夏の日、謎現象によって私は猫になってしまいました。~それでも幸せにはなれるのです~

しおりを挟む
 ある夏の日、謎現象によって私は猫になってしまった。

 なんてことのない普通の女だったのに。あっという間に人であるという事実を失い。意識はあるまま、しかし姿は変わり、人でない存在となってしまったのだった。

 そしてそれによって。

「お前! 猫になるとはどういうことだ!」

 婚約者ロザーンーヌに怒られてしまい。

「日頃の行いが悪いからだろう! そして日頃の生活態度がだらしないからだろうが! だからばちが当たったんだ! 分かるか? ま、お前みたいなだらしなくてダサい女は猫になっても自業自得だがな! はははっ」

 失礼なことを色々言われた、その果てに。

「まぁいい。お前にはもう価値がない。よって! 婚約は破棄とする!」

 関係を終わらせるといった言葉を告げられてしまう。

 私は何も悪いことはしていない。ただ謎の現象によって猫になってしまっただけ。なのにまるで救いようのない女だったかのように言われるなんて、あまりにも理不尽だ。

 ……だが、受け入れる以外の選択肢はなかった。

 それにロザーンーヌが良い人でないことも分かってしまった。

 彼は心ない人だ。
 傷つけるようなことを平気でする。

 ……そんな人と生涯を共にする?

 無理だろう。
 そんなことは不可能。

 なので私は婚約破棄を受け入れることにした。

 ロザーンーヌなどもうどうでもいい。今や彼に愛されたいなんていう想いは少しもなくなった。彼への想いは完全に消え去った。もう彼をそういう対象とは見られない。


 ◆


 あの後、ロザーンーヌは、自宅にいたところを山賊に襲われて亡くなった。

 その日彼は自宅の自室で女性といちゃついていたそうなのだが、突然やって来た山賊に刃物で切り刻まれて、その場でこの世を去ったそうだ。

 物騒なこともあるものだなぁ、なんて思いながらも、可哀想だとは思わなかった。


 ◆


 婚約破棄された後、両親に支えてもらいながら、私は猫として暮らしていた。

 だがある時家の裏を散歩していたところを一人の青年に発見される。
 そして惚れられてしまった。
 というのもその青年は無類の猫好きだったのである。

 彼は資産家の息子であった。

 その人に思わぬ形で見初められた私は、事情を説明し、彼の妻となることになった――猫の姿でありながら人と結婚することに成功したのである。

 以来、溺愛されている。

 彼に巡り会えたのは奇跡だと思う。
 この運命をくれた神様に、そしてすべてを受け入れてくれた彼に、ただ感謝して生きてゆきたい。


◆終わり◆
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

一度は婚約してくれと頼んできておいて、それなのに、そんなことをするのですね

四季
恋愛
ボツニドに頼まれ婚約したアルカだったのだが……。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

くだらない冤罪で投獄されたので呪うことにしました。

音爽(ネソウ)
恋愛
<良くある話ですが凄くバカで下品な話です。> 婚約者と友人に裏切られた、伯爵令嬢。 冤罪で投獄された恨みを晴らしましょう。 「ごめんなさい?私がかけた呪いはとけませんよ」

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...