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『あれは三年前の出来事、婚約者がある日突然婚約の破棄を告げてきたのです。』

 あれは三年前の出来事だ。
 当時婚約していた二つ年上の青年リフォードがある日突然告げてきたのだ――婚約破棄を。

 だがそれを告げられた翌日に彼は亡くなった。

 我が家の守護神とされている神に天罰を下されたのだ。

 その日の朝、いつも通り散歩に出掛けたリフォードは、ヤマに近い道で急に体調を崩し倒れ込んだ。意識は辛うじてあったようだが。歩くことはできず、声が出ないので助けを求めることもできず、そのうちに魔獣に襲われて。結果、魔獣の餌となってしまった。

 そうしてリフォードはこの世を去ったのだった。

 その話を聞いた時には。
 ざまぁ、と言う前に、天罰怖い、という言葉が脳内に湧いてきたほどであった。

 それほどに呆気ない最期だったのだ。

 彼には幸せな未来はなかった。

 ――その後私は近隣の国の王子に見初められて結婚した。

 で、今は、王子の妻で未来の王妃。

 人生とは分からないものだと思う。
 何が起こるかなんてその時その瞬間まで目にすることはできないものだ。

 でもこの道を歩む今を後悔はしていない。

 責任は重大で。
 時に押し潰されそうに感じることもあるけれど。

 だが、愛してくれる人と共に在れることはとても嬉しいことなので、この席に座ることへの不満はない。

 私はこれからも永く愛する人と共に生きてゆく。


◆終わり◆


『 「お前さぁ、ホント可愛くねぇからさぁ、婚約破棄するわ」いきなりそんなことを言い出すなんて、どうかしていると思います。 』

「お前さぁ、ホント可愛くねぇからさぁ、婚約破棄するわ」

 婚約者ロガートは金髪に包まれた頭を掻きながらそんなことを言ってくる。

「え……」
「はぁ? 何びっくりしてんの? あっほぉ! お前、自分が可愛くないことにさえ気づいてねぇのかぁ?」
「そういう問題ではありません。婚約を一方的に破棄するなんて、あまりにも身勝手です。問題だと思います」

 しかも、意見を述べると、頬を張られた。

「ッ……」

 ロガートは私が思っているより暴力的な男だった。

「お前なんてなぁ! 要らねぇんだよ! 価値ねぇんだアホ女!」

 怒鳴られて、それで、関係は終わりを迎えた。


 ◆


 あれから三ヶ月。
 ロガートはこの世を去った。

 彼には好きな女性がいたそうなのだが、その女性にやたらと接近し距離を縮めようとしていたところ女性のガラの悪い父親に目をつけられてしまったらしく、ある晩女性を追って歩いていたところいきなり襲いかかられたそうなのだ。

 そうして二十発以上殴られた彼は、気を失って倒れ込み、そのまま落命したそうだ。

 あまりにも呆気ない最期。
 ある意味可哀想にも思えてくるほど。

 けれども私からすれば可哀想だとは感じない。

 なんせ彼は私の頬を張った男だ。
 そんな彼に対して可哀想などという感情を抱くことはないし、もしもそんな感情を抱くとしたらそのこと自体が間違っている。

 彼のような優しさの欠片もない人に思いやりを向ける必要などない。


◆終わり◆
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