上 下
7 / 71

ちょっぴりひとやすみ? 詩のコーナー

しおりを挟む
『抱き締めていたい』

抱き締めていたい
時折思うの
あの頃のように心通わせて
そっと微笑みあえたなら
どんなに良いでしょう
どんなに幸せでしょう
そんなことを思っては
そんなことを繰り返しては
悲しくなるけれど
それもまたわたしの人生なのだと
受け止めている自分もいる

苦しみも悲しみも
短い時間で癒えるものではないし
これから先にも
たまに振り返っては
きっと涙したり
きっと心痛めたり
そういう日もあるのだろうと
思いながらも
考えながらも
それでももうすぐ歩み出そうとしている
この足に
やめろとは言えないこともまた
一つの事実なのでしょう

抱き締めていたい
そう思うのはきっと
今でもどこか
あなたを想っているから

あの頃の温もりを
取り戻せないと知りながら
取り戻したいと足掻いている
惨めなわたしを
切り落としてと頼みたいけれど
それはとても難しいこと

抱き締めていたい
時折願うの
あの頃のように手を重ねて
そっと語りあえたなら
どんなに良いでしょう
どんなに幸せでしょう
そんなことを思っては
そんなことを繰り返しては
悲しくなるけれど
それもまたわたしの人生なのだと
受け止めている自分もいる

抱き締めていたい

時折思うの

ああ

抱き締めていたい



『ありふれた感情』

あの頃は確かに
あなたのことが好きだった

初めて出会ったあの茶会で
体調を崩していたときに
そっと声をかけてくれたあなたの優しさが
あまりにも救いだったから
いつの間にかあなたに惚れていたの

それは
なんてことのない

ありふれた感情

好きと言ってしまえば
極めてシンプルだから
馬鹿みたいだと笑う人もきっといるでしょう
けれどもわたしは
あなたに惹かれて
あなたの優しさに惹かれて
どうしようもなく好きだったから
笑われるくらい構わないと
笑われるくらい平気なのだと
いつもそう思っていた

あの頃は確かに
あなたのことが好きだった

単純すぎるわたしは
あなたのほんの少しの思いやりに触れて
とろけるような心地で
その刹那を繰り返しては
夢をみるように
夢に溺れるように
あなたに想いを馳せる

それは
なんてことのない

ありふれた感情

あなたとはもう会えないけれど
それでもまた愛していることは事実

それは
なんてことのない

ありふれた感情



『手紙を書いてみたい』

手紙を書いてみたい
もう二度と会えないあなたに

そんなことを考えたら
そんなことを口にしたら
愚かだと笑われてしまうかもしれないけれど
でもそれが真実だから
どうしようもないの
馬鹿な女だとしても
それがわたしだから
馬鹿な女と笑われても
それでいいと思うくらいなの

ずっと好きだった

いいえ

ずっと好きなの

今でもそう
想いはきっと
あの頃と少しも変わっていない

ずっと一緒にいるつもりだった
だって婚約者同士だったから
二人の未来は確かなものなのだと
あの頃は当たり前のように信じていて
二人の幸せは永遠に
続いてゆくものだと信じていた

あなたがあんなことを言い出すなんて思わなかった……

手紙を書いてみたい
もう二度と会えないあなたに

今なら書けるかな?

なぜかそんな気がして

手紙を書いてみたい
もう二度と会えないあなたに

今なら書けるかな?

なぜかそんな気がする



『今でも好きって言いたくて』

婚約者同士だった頃
わたしたちは
同じ未来を見ていると思っていた

わたしが二人の未来を想うように
あなたもまた幸せな明日を想っているのだと
信じて疑わなかったあの頃のわたしは
きっとこんな未来が待っているなんて
欠片ほども思わなかったのでしょう

浮気されて
婚約破棄されて

さよならが
こんなにも近くにあるなんて
嘘でしょう
ほんの少しも想像していなかった

あなたのいない今日を
あなたのいないこの時を
あの頃もわたしが知っていたとしたら
どんな風に悲しみ
どんな風に傷ついたのか
それは分からないことだけれど
そんなものは分からないままの方が良いのだと
そう思うから
わざわざ過去に戻って
この定めを告げたいとは思わない

今でも好きって言いたくて

あなたと一緒に歩く道は
いつの間にか見えなくなってしまった

あなたと語り合う言葉は
いつの間にか雨音に掻き消された

それでも想いは潰えたわけではないから
今でももしあの頃に戻れたらと
そう思う夜がないわけじゃない

今でも好きって言いたくて

婚約者同士だった頃
わたしたちは
同じ未来を見ていると信じていた

だってそういうものでしょう?

共に生きると決めた時から
二人同じ道を歩いてゆくのだと
世界に約束したのだから
高い空に誓ったのだから

わたしはあの時と同じ気持ちのまま

今でも好きって言いたくて

言ってもいい?

今でも好きって言いたくて

それくらいなら構わない?

今でも好きって言いたくて



『チョコレートは今日も甘いわ』

チョコレートは今日も甘いわ
そしてあなたとの記憶もそれと同じ
とても甘くて
けれども溶けてなくなってしまった
美味しくて魅力的なチョコレートほど
淡い雪のように
口の中で溶けるものでしょう?
ふわりほろりと
何の前触れもなく溶けてなくなってしまう
あなたとの日々もそれと同じで
愛おしさに舌で触れるほどに
その輪郭は曖昧になって
いつしか姿を消してしまう
さよならも言わないまま

そうねきっと
幸せとはそういうものなのでしょう
それは永遠のようで
そうよ一瞬でしかない
それがきっと
幸せというものの姿なのでしょう

グラスからこぼれるチョコレートを舐めるように
あの日々から溢れた愛を舐めとってしまえば
きっと愛しさが口の中を満たして
その時だけは幸福の中にいられるの

そうねきっと
幸せとはそういうものなのでしょう
それは永遠のようで
そうよ一瞬でしかない
それがきっと
幸せというものの姿なのでしょう

とろけるそれを
指ですくって
その先についたものに
舌で触れれば
嘘みたいに甘い匂いが
胸の内に満たしてゆく
溢れ出す愛は
その甘さに似ている

チョコレートは今日も甘いわ
そしてあなたとの記憶もそれと同じ
とても甘くて
けれども溶けてなくなってしまった
美味しくて魅力的なチョコレートほど
淡い雪のように
口の中で溶けるものでしょう?



『心と空と』

悲しいことがあったとき
辛いことがあったとき
つまづいて転んで
今にも泣き出してしまいそうな日に
あの高い空から降り注ぐ雨はまるで
わたしの涙ぐむ心を
あの大きな鏡が映し出しているかのよう

思えばそうだった
あなたとの婚約が破棄になると
決まり告げられたあの日も
帰り道泣き出しそうになって
鼻の奥の痛みを感じていたら
晴れていたのに突然雨が降り出した

不思議なものだと思う
心と空が重なり合うなんて
魔法でも使ったかのようね
でもそういうわけではなくて

だってわたしは普通の人間で
だってわたしは普通の女だから
魔法なんて
使えるわけもなくて
心と空を繋げるすべなど
何一つとして持ってはいない

悲しいことがあったとき
辛いことがあったとき
つまづいて転んで
今にも泣き出してしまいそうな日に
あの高い空から降り注ぐ雨はまるで
わたしの涙ぐむ心を
あの大きな鏡が映し出しているかのよう
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……思わぬ方向へ進んでしまうこととなってしまったようです。

四季
恋愛
継母は実娘のため私の婚約を強制的に破棄させましたが……。

父が再婚してから酷い目に遭いましたが、最終的に皆罪人にして差し上げました

四季
恋愛
母親が亡くなり、父親に新しい妻が来てからというもの、私はいじめられ続けた。 だが、ただいじめられただけで終わる私ではない……!

踏み台令嬢はへこたれない

三屋城衣智子
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

変態婚約者を無事妹に奪わせて婚約破棄されたので気ままな城下町ライフを送っていたらなぜだか王太子に溺愛されることになってしまいました?!

utsugi
恋愛
私、こんなにも婚約者として貴方に尽くしてまいりましたのにひどすぎますわ!(笑) 妹に婚約者を奪われ婚約破棄された令嬢マリアベルは悲しみのあまり(?)生家を抜け出し城下町で庶民として気ままな生活を送ることになった。身分を隠して自由に生きようと思っていたのにひょんなことから光魔法の能力が開花し半強制的に魔法学校に入学させられることに。そのうちなぜか王太子から溺愛されるようになったけれど王太子にはなにやら秘密がありそうで……?! ※適宜内容を修正する場合があります

朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。……これは一体どういうことですか!?

四季
恋愛
朝起きたら同じ部屋にいた婚約者が見知らぬ女と抱き合いながら寝ていました。

冤罪を受けたため、隣国へ亡命します

しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」 呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。 「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」 突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。 友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。 冤罪を晴らすため、奮闘していく。 同名主人公にて様々な話を書いています。 立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。 サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。 変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。 ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます! 小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

死に戻るなら一時間前に

みねバイヤーン
恋愛
「ああ、これが走馬灯なのね」  階段から落ちていく一瞬で、ルルは十七年の人生を思い出した。侯爵家に生まれ、なに不自由なく育ち、幸せな日々だった。素敵な婚約者と出会い、これからが楽しみだった矢先に。 「神様、もし死に戻るなら、一時間前がいいです」  ダメ元で祈ってみる。もし、ルルが主人公特性を持っているなら、死に戻れるかもしれない。  ピカッと光って、一瞬目をつぶって、また目を開くと、目の前には笑顔の婚約者クラウス第三王子。 「クラウス様、聞いてください。私、一時間後に殺されます」 一時間前に死に戻ったルルは、クラウスと共に犯人を追い詰める──。

処理中です...