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『妹に婚約者を奪われたのですが、結果的にはそうなってラッキーでした。~おかげでもっと良い人と巡り会えました~』
妹ミナが婚約者ロゼンツを奪った。
「おねーさまぁ! わたくし、ロゼンツ様と婚約することにしましたのぉ!」
彼女からそう言われたのがすべての始まりだった。
「え……」
「あのねぇ? おねーさま、ロゼンツ様ねぇ、おねーさまのことに飽きてきてたんですってぇ」
「何を言っているの? 一体何をそんな急に。しかも勝手に……彼は私の婚約者なのよ?」
「あっはっははぁ! 知りませんのぉ? ロゼンツ様はもうおねーさまとの婚約は破棄すると仰っていますわぁ!」
ミナは私を馬鹿にしたように笑った。
あまりにも酷い……。
どうしてそんなことを……。
そして数日後ロゼンツより婚約破棄を告げられたのだった。
「おねーさまはぁ、だっさぁーいおっさんと結婚すればお似合いですわ!」
その後、言っていた通り、二人は婚約した。
――だがその幸せもそう長くは続かない。
ロゼンツは婚約期間中に職場の後輩と浮気。
それによって大ショックを受けたミナは精神崩壊して路上で暴れ、逮捕された。
そうして二人はあっという間に離れることとなってしまったのだった。
……きっとそれは天罰なのだろう。
人を傷つけて掴んだ関係が良いものであり続けるわけがない。
最後は壊れる。
最後は滅ぶ。
二人の行く先に幸福な日常などなかった。
ちなみに私はというと、あの後気を遣って親が紹介してくれた人と結婚しとても大切にされている。
彼は善良な人だ。
性格が良く、加えて、顔良し職業よし経済面よしときている――こんな素晴らしい人は滅多に出会えない気がする。
◆終わり◆
『二十歳になった春、変態おじさんと婚約させられてしまいました。~こんな運命は絶対に嫌なので走って逃げます~』
生まれながらにしてうなじに特殊な紋章のような痣を持っていた私は親や近しい大人たちからの気味悪がられ冷たい目で見られながら育ってきた。
そして、二十歳になった春、変態おじさんと呼ばれている男性オーポッポポと強制的に婚約させられてしまった。
「かわいいねぇかわいいねぇ、もーぅおじさん、女の子なら誰でもいいよぉー。だって女の子欲しいんだもぉん。いちゃいちゃしたいよぉいちゃいちゃしたいよぉ」
脳が溶けているような粘着質かつ不気味な声を発するオーポッポポは、初めて会った日から、いきなり気持ちの悪いことを言ったり性的な発言を繰り返したりと凄まじかった。
もうとにかく遠慮がない。
欲望に忠実。
本能に忠実。
しかもその欲望というのが彼にとって都合の良い妄想で埋め尽くされた部分が大きい欲望だから、なおさら痛々しいものがある。
もはや変態おじさんなんて域ではない。
ただの、脳が壊れている人だ。
変態おじさんが紳士に見えるレベルである。
こんな人と生きていくのは嫌過ぎる――だから私は屋敷を飛び出した。
どうして私だけがこんな目に遭わなくてはならないの。
どうして私だけが気持ち悪さに耐えなくてはいけないの。
嫌よ! 私だって!
だから私は走って、必死に駆けて、そして。
「あ」
山の中で遭遇した魔物に食べられてしまう。
(ああ、こんなところで死ぬのね私……)
でも魔物の餌になる方がましだった。
逃げたことに悔いはない。魔物に食べられる最期だとしても。オーポッポポにいちゃつくことを強要されるくらいなら、魔物の餌になる最期の方がずっと綺麗だし心地よい。
(さよなら、世界……)
◆
そうして次に気がついた時、私は、輝く日射しが印象的なとても美しい場所にいた。
知らないところだ。
大自然そのもの。
でもなぜかその風景を眺めていると心洗われるような感じがする。
「よく来てくださいましたな!」
風景をぼんやり眺めていたところ、唐突に、蝶のような姿をしたおじさんが現れる。
「え……」
最初は戸惑ったけれど。
「貴女様は我が国のお姫様でございます!」
「あの、えっと……ちょっと、意味が分からないのですが」
「うなじに紋章があられるでしょう?」
「見たのですか!?」
「いえ、使い魔がここへ連れてきたということはそういうことなのです」
「そ、そうですか……」
話しているうちに、この人は悪い人ではない、と思えてきて。
「ようこそ、本来の故郷へ!」
私はそこで生きていくことにした。
あちらの世界に未練はない。
なんせあそこでの記憶は嬉しくないものばかりだった。
捨ててしまいたいのだ、全部。
◆
あれから何年が経っただろう。
私は今もこの美しい世界で幸せに暮らしている。
ちなみにあちらの世界では私は死んだことになったらしく、オーポッポポとの婚約はそれによって自動破棄となったようだった。
オーポッポポは嘆き悲しんでいたらしい。
これからようやくたくさんいちゃついて涎でびちゃびちゃにできると思っていたのに、と。
一体何を言っているのか……。
あのままだったらどうなっていたのか、想像するだけでもどうにかなってしまいそうだ。
そんな彼だが、その後少しして逮捕されたそうだ。
路上で何人もの女性を触ったそうで捕まったと聞いている。
今は毎日鞭で打たれているらしい。もちろん誰かの趣味でではない。そういう刑に処されたから打たれ続ける運命、ということである。彼は死ぬまで永遠に鞭で叩かれ続けるのだ。
◆終わり◆
『今まで放置してきていた婚約者が急に呼び出してきたのですが……?』
「急に呼び出して悪いな」
「いえ……」
婚約者ハーガンに呼ばれて彼のもとへ向かった。
満月のような色をした長い髪、整った顔立ちに凛々しさのある目もと、瞳は絶望のように漆黒で髪色と合わせてそれこそ月夜を表現しているかのよう。
そんな彼だが、これまで、婚約者である私のことはずっと放置していた。
一応婚約はしたがそれはそうしなくてはならないからで私という人間には一切興味がない、というような態度を貫いていた。
「婚約だが、破棄とすることに決めた」
ハーガンはさらりとそんなことを告げてくる。
「え……」
「婚約破棄だ」
そんなに重大なことを唐突にさらりと告げてくるなんて、どういうことだろうか。
その精神。
私には理解できない。
「君と生きていく気はない。なぜなら好きになれそうにないからだ。好きになれない女とずっと一緒にいるなど苦痛でしかない。君だって想像すれば分かるだろう? 好きになれない男と生涯を共にすることになったなら、吐き気がしてくらくらしてくるはずだ」
刹那、扉がバァンと開いて猛獣が入ってきた。
「えっ……!?」
愕然としていると。
「う、う……うわああああっ!!」
噛みつかれるハーガン。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてえええぇぇぇぇー!!」
そうして彼は猛獣の餌となったのだった。
ちなみに私はその後別の男性と結婚。
富豪であるその人といつまでも幸せに暮らした。
◆終わり◆
『 「ずっと一緒に笑い合っていような!」そう言ってくれた彼を信じていたのですが……? 』
「ずっと一緒に笑い合っていような!」
「ええ、そうね。私たちならずっと仲良しでいられるわ。きっと。そう信じてる」
私レイラと幼馴染みの彼ロージンは婚約した。
それは親からの影響もあった。
お互いの両親が私たち二人をくっつけようとしていたのだ。
でも、嫌々婚約したわけではない。
仲良しだったから。共に歩めると信じていた。私はそう思っていたし、彼も同意していた。私たちは幼馴染み、だからこそ互いのことをよく知っている。ゆえに良い未来は確約されている――はずだったのだ。
だが。
「ロージン……これは一体何なの?」
ある日、私は、ばったり遭遇してしまった。
――彼が知らない女性と二人でいちゃつきつつ一緒にいるところに。
「なっ……レイラ、どうしてここに」
私の顔を見てロージンは青ざめる。
彼の隣の女性は戸惑ったような顔をしていた。
「どうして、って、聞きたいのは私よ。貴方一体何してるの? 婚約者がいる身で女性と街を歩いているなんて」
なるべく冷静に対応するよう心がけるが。
「ち、違うんだ!」
「何?」
「誤解だよ! これは浮気じゃない!」
それでも苛立ってしまう部分はあって。
「私まだ浮気だなんて言っていないけれど?」
「あっ……」
けれども極力怒っているところを見せないようには努力した。
「まぁいいわ。いずれにせよ、私たちもう無理ね。終わりにしましょう」
――こうして私たちの関係は終わった。
◆
あの後ロージンと女性は慰謝料支払いの件で揉めることとなり、あっという間に破局したそうだ。
二人の関係は非常に浅いものだったようだ。
女性はその後すぐ別の男性のもとへ行ったらしい。
一方でロージンは私のこともその女性のことも忘れられず、一人ぼっちになったことで心を病み、体調を崩していったそう。
ロージンは今、一日中寝込んでいるような状態だそうだ。
……でも可哀想だとは思わない。
だって、すべての原因は彼にあるのだから。
彼が浮気しなければこんなことにはならなかった。今も一緒にいただろうし、きっと明日も明後日も共に歩めていたはずだ。
その未来を壊したのは外の誰でもない彼自身。
だから彼は孤独に苦しむこととなっても自業自得なのである。
ちなみに私はというと、先日、ちょうど良き縁談が舞い込んできたところだ。
私はもう過去には縛られない。
起こったことは変えられないが未来はどうにでも変えられるのだ。
だから前向きに生きてゆく。
◆終わり◆
『婚約破棄の理由を尋ねるととてつもない勢いで激怒されてしまいました……何ですかそれ、面倒臭すぎます。』
婚約者サドールはある日突然告げてくる。
「君との婚約だが、破棄とすることとした」
関係の終わりを告げる言葉。
それはあまりにも無情だ。
まるで頭と胴を切り離すかのような、そんな宣言。
「え……あの、どうしてですか?」
「君を好きにはなれないからだ」
「それが理由なのですか? それが理由なら、なぜ今さら……」
問おうとすると。
「うるさい!」
彼は急に怒り出した。
「うるさいっ、黙れ、うるさいうるさいうるさいうるさいっ! 女ごときがあれこれ言うな! 女はな! 黙って、言いなりになっていればいいんだ! そうだろう! なぁっ! うるさいんだよ理由とか聞きやがって! いちいちいちいちいちいちいちいち、ふざけんなくそ女がっ! 舐めんなよ! うるさいうるさいうるさいっ! うっるさっいうっるさっいうっるさいっうっうっるっるっささささいっ! 黙って言うこと聞けよ!」
凄まじい勢いで言葉を発されて。
「君なんて大嫌いだ! うせろ!」
一方的に切り捨てられる。
それがサドールとの別れとなった。
◆
私はあの後大富豪の家系の男性と結婚でき、裕福に、幸せに生きられることとなった。
ちなみにサドールはというと。
あれから数日が経ったある日の晩、自宅でゴロゴロしていたところ賊に押し入られ、刃物で斬られて死亡したそうだ。
……つまり、彼はもう、とうにこの世にいないのだ。
◆終わり◆
妹ミナが婚約者ロゼンツを奪った。
「おねーさまぁ! わたくし、ロゼンツ様と婚約することにしましたのぉ!」
彼女からそう言われたのがすべての始まりだった。
「え……」
「あのねぇ? おねーさま、ロゼンツ様ねぇ、おねーさまのことに飽きてきてたんですってぇ」
「何を言っているの? 一体何をそんな急に。しかも勝手に……彼は私の婚約者なのよ?」
「あっはっははぁ! 知りませんのぉ? ロゼンツ様はもうおねーさまとの婚約は破棄すると仰っていますわぁ!」
ミナは私を馬鹿にしたように笑った。
あまりにも酷い……。
どうしてそんなことを……。
そして数日後ロゼンツより婚約破棄を告げられたのだった。
「おねーさまはぁ、だっさぁーいおっさんと結婚すればお似合いですわ!」
その後、言っていた通り、二人は婚約した。
――だがその幸せもそう長くは続かない。
ロゼンツは婚約期間中に職場の後輩と浮気。
それによって大ショックを受けたミナは精神崩壊して路上で暴れ、逮捕された。
そうして二人はあっという間に離れることとなってしまったのだった。
……きっとそれは天罰なのだろう。
人を傷つけて掴んだ関係が良いものであり続けるわけがない。
最後は壊れる。
最後は滅ぶ。
二人の行く先に幸福な日常などなかった。
ちなみに私はというと、あの後気を遣って親が紹介してくれた人と結婚しとても大切にされている。
彼は善良な人だ。
性格が良く、加えて、顔良し職業よし経済面よしときている――こんな素晴らしい人は滅多に出会えない気がする。
◆終わり◆
『二十歳になった春、変態おじさんと婚約させられてしまいました。~こんな運命は絶対に嫌なので走って逃げます~』
生まれながらにしてうなじに特殊な紋章のような痣を持っていた私は親や近しい大人たちからの気味悪がられ冷たい目で見られながら育ってきた。
そして、二十歳になった春、変態おじさんと呼ばれている男性オーポッポポと強制的に婚約させられてしまった。
「かわいいねぇかわいいねぇ、もーぅおじさん、女の子なら誰でもいいよぉー。だって女の子欲しいんだもぉん。いちゃいちゃしたいよぉいちゃいちゃしたいよぉ」
脳が溶けているような粘着質かつ不気味な声を発するオーポッポポは、初めて会った日から、いきなり気持ちの悪いことを言ったり性的な発言を繰り返したりと凄まじかった。
もうとにかく遠慮がない。
欲望に忠実。
本能に忠実。
しかもその欲望というのが彼にとって都合の良い妄想で埋め尽くされた部分が大きい欲望だから、なおさら痛々しいものがある。
もはや変態おじさんなんて域ではない。
ただの、脳が壊れている人だ。
変態おじさんが紳士に見えるレベルである。
こんな人と生きていくのは嫌過ぎる――だから私は屋敷を飛び出した。
どうして私だけがこんな目に遭わなくてはならないの。
どうして私だけが気持ち悪さに耐えなくてはいけないの。
嫌よ! 私だって!
だから私は走って、必死に駆けて、そして。
「あ」
山の中で遭遇した魔物に食べられてしまう。
(ああ、こんなところで死ぬのね私……)
でも魔物の餌になる方がましだった。
逃げたことに悔いはない。魔物に食べられる最期だとしても。オーポッポポにいちゃつくことを強要されるくらいなら、魔物の餌になる最期の方がずっと綺麗だし心地よい。
(さよなら、世界……)
◆
そうして次に気がついた時、私は、輝く日射しが印象的なとても美しい場所にいた。
知らないところだ。
大自然そのもの。
でもなぜかその風景を眺めていると心洗われるような感じがする。
「よく来てくださいましたな!」
風景をぼんやり眺めていたところ、唐突に、蝶のような姿をしたおじさんが現れる。
「え……」
最初は戸惑ったけれど。
「貴女様は我が国のお姫様でございます!」
「あの、えっと……ちょっと、意味が分からないのですが」
「うなじに紋章があられるでしょう?」
「見たのですか!?」
「いえ、使い魔がここへ連れてきたということはそういうことなのです」
「そ、そうですか……」
話しているうちに、この人は悪い人ではない、と思えてきて。
「ようこそ、本来の故郷へ!」
私はそこで生きていくことにした。
あちらの世界に未練はない。
なんせあそこでの記憶は嬉しくないものばかりだった。
捨ててしまいたいのだ、全部。
◆
あれから何年が経っただろう。
私は今もこの美しい世界で幸せに暮らしている。
ちなみにあちらの世界では私は死んだことになったらしく、オーポッポポとの婚約はそれによって自動破棄となったようだった。
オーポッポポは嘆き悲しんでいたらしい。
これからようやくたくさんいちゃついて涎でびちゃびちゃにできると思っていたのに、と。
一体何を言っているのか……。
あのままだったらどうなっていたのか、想像するだけでもどうにかなってしまいそうだ。
そんな彼だが、その後少しして逮捕されたそうだ。
路上で何人もの女性を触ったそうで捕まったと聞いている。
今は毎日鞭で打たれているらしい。もちろん誰かの趣味でではない。そういう刑に処されたから打たれ続ける運命、ということである。彼は死ぬまで永遠に鞭で叩かれ続けるのだ。
◆終わり◆
『今まで放置してきていた婚約者が急に呼び出してきたのですが……?』
「急に呼び出して悪いな」
「いえ……」
婚約者ハーガンに呼ばれて彼のもとへ向かった。
満月のような色をした長い髪、整った顔立ちに凛々しさのある目もと、瞳は絶望のように漆黒で髪色と合わせてそれこそ月夜を表現しているかのよう。
そんな彼だが、これまで、婚約者である私のことはずっと放置していた。
一応婚約はしたがそれはそうしなくてはならないからで私という人間には一切興味がない、というような態度を貫いていた。
「婚約だが、破棄とすることに決めた」
ハーガンはさらりとそんなことを告げてくる。
「え……」
「婚約破棄だ」
そんなに重大なことを唐突にさらりと告げてくるなんて、どういうことだろうか。
その精神。
私には理解できない。
「君と生きていく気はない。なぜなら好きになれそうにないからだ。好きになれない女とずっと一緒にいるなど苦痛でしかない。君だって想像すれば分かるだろう? 好きになれない男と生涯を共にすることになったなら、吐き気がしてくらくらしてくるはずだ」
刹那、扉がバァンと開いて猛獣が入ってきた。
「えっ……!?」
愕然としていると。
「う、う……うわああああっ!!」
噛みつかれるハーガン。
「助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けてえええぇぇぇぇー!!」
そうして彼は猛獣の餌となったのだった。
ちなみに私はその後別の男性と結婚。
富豪であるその人といつまでも幸せに暮らした。
◆終わり◆
『 「ずっと一緒に笑い合っていような!」そう言ってくれた彼を信じていたのですが……? 』
「ずっと一緒に笑い合っていような!」
「ええ、そうね。私たちならずっと仲良しでいられるわ。きっと。そう信じてる」
私レイラと幼馴染みの彼ロージンは婚約した。
それは親からの影響もあった。
お互いの両親が私たち二人をくっつけようとしていたのだ。
でも、嫌々婚約したわけではない。
仲良しだったから。共に歩めると信じていた。私はそう思っていたし、彼も同意していた。私たちは幼馴染み、だからこそ互いのことをよく知っている。ゆえに良い未来は確約されている――はずだったのだ。
だが。
「ロージン……これは一体何なの?」
ある日、私は、ばったり遭遇してしまった。
――彼が知らない女性と二人でいちゃつきつつ一緒にいるところに。
「なっ……レイラ、どうしてここに」
私の顔を見てロージンは青ざめる。
彼の隣の女性は戸惑ったような顔をしていた。
「どうして、って、聞きたいのは私よ。貴方一体何してるの? 婚約者がいる身で女性と街を歩いているなんて」
なるべく冷静に対応するよう心がけるが。
「ち、違うんだ!」
「何?」
「誤解だよ! これは浮気じゃない!」
それでも苛立ってしまう部分はあって。
「私まだ浮気だなんて言っていないけれど?」
「あっ……」
けれども極力怒っているところを見せないようには努力した。
「まぁいいわ。いずれにせよ、私たちもう無理ね。終わりにしましょう」
――こうして私たちの関係は終わった。
◆
あの後ロージンと女性は慰謝料支払いの件で揉めることとなり、あっという間に破局したそうだ。
二人の関係は非常に浅いものだったようだ。
女性はその後すぐ別の男性のもとへ行ったらしい。
一方でロージンは私のこともその女性のことも忘れられず、一人ぼっちになったことで心を病み、体調を崩していったそう。
ロージンは今、一日中寝込んでいるような状態だそうだ。
……でも可哀想だとは思わない。
だって、すべての原因は彼にあるのだから。
彼が浮気しなければこんなことにはならなかった。今も一緒にいただろうし、きっと明日も明後日も共に歩めていたはずだ。
その未来を壊したのは外の誰でもない彼自身。
だから彼は孤独に苦しむこととなっても自業自得なのである。
ちなみに私はというと、先日、ちょうど良き縁談が舞い込んできたところだ。
私はもう過去には縛られない。
起こったことは変えられないが未来はどうにでも変えられるのだ。
だから前向きに生きてゆく。
◆終わり◆
『婚約破棄の理由を尋ねるととてつもない勢いで激怒されてしまいました……何ですかそれ、面倒臭すぎます。』
婚約者サドールはある日突然告げてくる。
「君との婚約だが、破棄とすることとした」
関係の終わりを告げる言葉。
それはあまりにも無情だ。
まるで頭と胴を切り離すかのような、そんな宣言。
「え……あの、どうしてですか?」
「君を好きにはなれないからだ」
「それが理由なのですか? それが理由なら、なぜ今さら……」
問おうとすると。
「うるさい!」
彼は急に怒り出した。
「うるさいっ、黙れ、うるさいうるさいうるさいうるさいっ! 女ごときがあれこれ言うな! 女はな! 黙って、言いなりになっていればいいんだ! そうだろう! なぁっ! うるさいんだよ理由とか聞きやがって! いちいちいちいちいちいちいちいち、ふざけんなくそ女がっ! 舐めんなよ! うるさいうるさいうるさいっ! うっるさっいうっるさっいうっるさいっうっうっるっるっささささいっ! 黙って言うこと聞けよ!」
凄まじい勢いで言葉を発されて。
「君なんて大嫌いだ! うせろ!」
一方的に切り捨てられる。
それがサドールとの別れとなった。
◆
私はあの後大富豪の家系の男性と結婚でき、裕福に、幸せに生きられることとなった。
ちなみにサドールはというと。
あれから数日が経ったある日の晩、自宅でゴロゴロしていたところ賊に押し入られ、刃物で斬られて死亡したそうだ。
……つまり、彼はもう、とうにこの世にいないのだ。
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