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『 「悪いな、俺、お前との婚約は破棄して妹さんと結婚することにしたから」ある日突然そんなことを告げられました。 』
「悪いな、俺、お前との婚約は破棄して妹さんと結婚することにしたから」
婚約者アルフレートがそんなことを告げてきたのはある夏の日だった。
信じられないようなことというのはいつも唐突に起こるものだ。
この件についても例外ではなかった。
何の前触れも予感もなかったところにそれは投下された、なので余計に衝撃的であったし心への影響も大きかった。
「ごめんなさいねぇ、お姉さま」
しかも、アルフレートと一緒に私の前に現れた妹は、馬鹿にしたような目でこちらを見てくるし。
「一体どういうことなの?」
「あらぁ怒ってるのかしら」
「だっておかしいじゃない。姉の婚約者を奪うなんて酷いわ。それはちょっとどうかしていると思う」
嫌なこと、不快なこと、そういったものばかりが積み重なってゆく。
「どうかしている、だなんて、お姉さまひどぉい」
「酷いのはそっちじゃないの」
「アルフレートさまがわたしを選んだのはお姉さまに魅力がなかったからでしょ? それなのにわたしのせいにするというの? そんなのは最低最悪な行為よぉ」
妹は私が悪いかのように言ってくる。
加えてアルフレートは頷きながら「嫉妬は見苦しいぞ」などと発言してきた。
身勝手なことをしているのはそちらではないか……。
手順も踏まず。
突然告げてきて。
「お前には幻滅したわ」
「アルフレート! なんてこと言うのよ!」
「妹さんを侮辱するとか最低だな」
「侮辱なんてしていないわ。ただ酷いことをしていると事実を言っただけ。どうしてそうやって妹の味方ばかりするのよ」
一応言い返しはするけれど、無駄なことだとは分かっている。
アルフレートは妹を愛している。そして私のことは愛していない。初めからそうだったかは分からないけれど。少なくとも今は、もう、私への愛なんていうものは欠片ほどもないのだろう。
だから味方するのも妹ばかりなのだ、きっと。
「とにかく! 婚約破棄された女はさっさと消えろ!」
「お姉さまはもう必要ないのよ。だ、か、ら、永遠にさようならぁ」
◆
婚約破棄後、間もなく、私は友人の知り合いだという富豪の男性からアプローチされるようになった。
最初は戸惑いもあった。
そして進むことへの恐れも。
もしかしたらまたあんな風になってしまうのでは、と思う時、どうしても関係を進めることに躊躇いが生まれて。
だが彼は事情を理解しながらゆっくりと寄り添いながら歩んでくれた。
なので徐々に心解けて。
いつからか彼を愛おしく思うようになっていた。
――で、彼と結ばれた。
大金持ちながら優しさのある彼と共に生きられるなら、そんな幸せなことはない。
◆
最近になって聞いたのだが。
アルフレートと妹は結局結婚直前で破局したそうだ。
何でもアルフレートが友人の友人である女性と浮気していたそうで。
それに激怒した妹が婚約破棄を突きつけたらしい。
するとアルフレートは激昂。妹に暴行。正気を失っていた彼は殴ったり蹴ったり棒で叩いたりといった行為を数時間にわたって続けた。
それによって妹は落命。
また、アルフレートも、その件によって逮捕されることとなったようだ。
◆終わり◆
『「おれ、神冒険者目指すんだ!」それは終わりの始まりでした。~裏切り者にはさよならを告げます~』
「おれ、神冒険者目指すんだ!」
婚約者モットリーグはある日突然そんなことを言ってきた。
「え……?」
「冒険者最強目指すから、結婚までの一年間ここで待っててくれ!」
「婚約期間中ずっとどこかへ行っているということ……?」
「ああそうだ! でも必ず戻ってくる。約束するよ。だから! どうか待っててくれ!」
モットリーグは元から自分勝手な青年だった。
だからこういうことを言われても驚きはそれほどない。
でも、さすがに、ここまで勝手だとは……。
「本気なの?」
「ああ!」
相手がいる問題なのに相談もせず決まってから言ってくるなんてどうかしていると思う。
「でも本当になれるの? 冒険者なんて。簡単な道じゃないわよ?」
「それでもいい!」
だが私はモットリーグのことがそんなに好きなわけでもなかったので。
「そう……分かった、じゃあそれでもいいわ」
彼の意思を優先しておくことにした。
「ありがとう! ありがとうありがとありがとう!」
幸い、ずっと一緒にいたい、なんて気持ちはない。
だから離れていても耐えられると思う。
「けど結婚は絶対すること!」
「もちろんだ!」
こうして私は彼の帰りを待つことにした。
想定外の流れではあるけれどこうなってしまった以上は仕方がないのでもうあれこれ言うつもりはない。
取り敢えず彼が返ってくるのを待とう。
◆
モットリーグは浮気していた。
偉大な冒険者を目指すというのはただの名目でしかなかったのだ。
彼はそれを隠れ蓑として浮気するつもりだったのだ。
――絶対に許さない!!
私は怒りを覚えた。
明らかに裏切りだったからである。
だが、私が罰を下すまでもなく、彼には罰が下った。
浮気相手の女性と一緒に冒険に出ていて魔物に襲われ倒された彼は、その巨大な魔物の餌となってしまったのだった。
……それが婚約者を裏切った男の最期。
私と彼の婚約は彼の死によって終わりを迎えた。
◆
モットリーグとの別れから今日でちょうど二年になる。
「この植木鉢、重いのだけど、運んでもらってもいい?」
「オーケイ」
私は今、植物を売る店の店主をしている男性と夫婦になっている。
「そっち頼んでもイーカイ?」
「ええ!」
「じゃ、よろしく頼ムーヨゥ」
「ありがとう」
出身地の影響で喋り方が少々個性的な彼だが、私は夫である彼のことを愛している。
だから仕事にも協力しているのだ。
私は妻として彼を支えてゆきたい。
これからもずっと。
そして、二人で光ある未来を掴みたいのだ。
◆終わり◆
『パーティーの最中に婚約破棄宣言してくるというのはさすがにちょっとどうかと思います。』
「貴様との婚約、破棄とする!!」
隣国の王子アルグレッサがあるパーティーの最中突如そんなことを言い放ってきた。
「え……」
「聞こえなかったのか? 婚約は破棄とする、と言ったのだ」
「本気で仰っている……のですか?」
「当たり前だろう。なぜそんな嘘をつく必要があるというのか。俺はそんなくだらない嘘はつかない」
アルグレッサは婚約破棄宣言だけでは終わらず。
「貴様は一国の王女のくせに運動が好きなどという野蛮な面を持っているだろう。そこが気に食わない。運動好きの女など、どうしても女として見られないのだ。それに一国の頂に立つ男の妻には相応しくない。王妃は上品かつ可憐な女性でなくては」
周りには私たちの様子を見ている人たちがいるというのに好き放題言ってくる。
「だから貴様はこの位置に相応しくないと判断したのだ」
「そう……ですか」
こうして私とアルグレッサの関係は壊れてしまったのだが――その年の末、我が国に攻め込まれたアルグレッサの国は滅亡した。
もちろん王子であるアルグレッサも落命した。
私はこれからもゆったりと歩んでゆく。
生きていれば理不尽なことに出会うこともある。ただそれでも幸せにはなれるのだと、これから、生きて、生きて、証明してゆきたいと思う。それがきっと未来の希望へと変わるはずだから。
たとえ婚約破棄されようとも、そこですべてが終わるわけではない。
――それが私の描いてゆく道だ。
◆終わり◆
『婚約破棄で終わった二人です。~お互い、それぞれの道を歩んでゆきましょう~』
貴方と一緒にいるといつも疲れるの。
どうしてかは分からない。
でも同じ時間を過ごすことは楽しさなんて少しもなかったのよ、それがいつからだったかは定かでないけれど。
だからね、貴方がさよならを告げてくれて良かった。
婚約破棄する、って。
そちらから言ってくれたのはある意味幸運だった、って、少し時が経ったらそう思えるわ。
あの時は悲しかった。
あの時は辛かった。
驚きもしたし、心に何かが突き刺さったみたいで、その傷を癒すことにやたらと時間を使ってしまって――貴方がいない日々に馴染むまではしっくりこない感じもあって。
けれど気づけばすっきりしていたわ。
貴方は私のこと「好きじゃなかった」って言っていたけれど、もしかしたら私もそうだったのかもしれない。
だとしたらお互いさまみたいなものね?
くだらない笑い話だわ。
愛し合っているふりをして愛し合っていなかっただなんて。
そんな二人が結ばれる未来なんてなくて良かった。
貴方もそう思っているのでしょう?
今こそ本当の意味で通じ合った時なのかもしれないわね。
だから、さよなら。
遅くなってしまったけれど。
今の私はもう何も恐れないわ。
お互い、それぞれの道を歩んでゆきましょう。
きっとそれが幸せへの一歩。
……そう信じているから。
◆終わり◆
『結婚間近だというのに、婚約者が旅に出てしまいました……。』
婚約者アンバレは結婚間近だというのに旅に出てしまった。
何でも人生経験を深めたいとのことで出ていったのだが――実際には人生経験うんぬんなどという話ではなく、ただの浮気旅行であった。
だが旅行先で知人からの目撃情報報告があって、真実はすぐに明るみに出ることとなった。
「アンバレ、ただの浮気旅行だったなんて残念だわ」
「誤解だよ! 彼女とは行った先でたまたま会っただけ! それでちょこっとお茶とかしただけだよ」
「嘘ね」
「どうして信じてくれないんだ!」
「目撃情報があるのよ。だから真実は既に知っているわ。お茶だけだなんて嘘、ずっとお出掛けしたうえいかがわしいところにも行っていたのでしょう」
するとアンバレは急にビンタしてきた。
「うるせえよ!!」
私は即座に人を呼ぶ。
そしてアンバレを拘束させた。
「やったわね、暴力行為。もう許さない。通報します」
そうしてアンバレは逮捕されたのだった。
それによって婚約は破棄に。
浮気者の彼とスムーズに離れることに成功した。
もちろん償いのお金はしっかりと支払ってもらった――九割は本人からではなく彼の両親からだったけれど。
でもないよりはましだ。
貰うべきものを貰えたというだけで少しは心癒される部分がある。
アンバレとの記憶は残念なものとなってしまったけれど、自分の人生が終わるわけではないので、まだまだここから頑張って歩んでゆこうと思う。
必ず、明るい未来を掴んでみせる。
一歩ずつ進もう。
その先にこそ幸せがあると信じて。
◆
あれから三年、私は幸せになれた。
知人の紹介で出会った頭がつるつるな男性と結婚して今は毎日それなりに贅沢しながら生活できている。
贅沢がすべてではない。それは事実だ。貧しくとも幸福の海を泳ぐ者もいることは事実。ただ、暮らしの中に様々な楽しみがあるというのは不快なことではないし、むしろ喜ばしいことだ。楽しみ、喜び、そういったものは確かに未来へ歩んでゆく活力になる。
これからも楽しく生きよう。
それが私の掴んだ幸せだ。
◆終わり◆
「悪いな、俺、お前との婚約は破棄して妹さんと結婚することにしたから」
婚約者アルフレートがそんなことを告げてきたのはある夏の日だった。
信じられないようなことというのはいつも唐突に起こるものだ。
この件についても例外ではなかった。
何の前触れも予感もなかったところにそれは投下された、なので余計に衝撃的であったし心への影響も大きかった。
「ごめんなさいねぇ、お姉さま」
しかも、アルフレートと一緒に私の前に現れた妹は、馬鹿にしたような目でこちらを見てくるし。
「一体どういうことなの?」
「あらぁ怒ってるのかしら」
「だっておかしいじゃない。姉の婚約者を奪うなんて酷いわ。それはちょっとどうかしていると思う」
嫌なこと、不快なこと、そういったものばかりが積み重なってゆく。
「どうかしている、だなんて、お姉さまひどぉい」
「酷いのはそっちじゃないの」
「アルフレートさまがわたしを選んだのはお姉さまに魅力がなかったからでしょ? それなのにわたしのせいにするというの? そんなのは最低最悪な行為よぉ」
妹は私が悪いかのように言ってくる。
加えてアルフレートは頷きながら「嫉妬は見苦しいぞ」などと発言してきた。
身勝手なことをしているのはそちらではないか……。
手順も踏まず。
突然告げてきて。
「お前には幻滅したわ」
「アルフレート! なんてこと言うのよ!」
「妹さんを侮辱するとか最低だな」
「侮辱なんてしていないわ。ただ酷いことをしていると事実を言っただけ。どうしてそうやって妹の味方ばかりするのよ」
一応言い返しはするけれど、無駄なことだとは分かっている。
アルフレートは妹を愛している。そして私のことは愛していない。初めからそうだったかは分からないけれど。少なくとも今は、もう、私への愛なんていうものは欠片ほどもないのだろう。
だから味方するのも妹ばかりなのだ、きっと。
「とにかく! 婚約破棄された女はさっさと消えろ!」
「お姉さまはもう必要ないのよ。だ、か、ら、永遠にさようならぁ」
◆
婚約破棄後、間もなく、私は友人の知り合いだという富豪の男性からアプローチされるようになった。
最初は戸惑いもあった。
そして進むことへの恐れも。
もしかしたらまたあんな風になってしまうのでは、と思う時、どうしても関係を進めることに躊躇いが生まれて。
だが彼は事情を理解しながらゆっくりと寄り添いながら歩んでくれた。
なので徐々に心解けて。
いつからか彼を愛おしく思うようになっていた。
――で、彼と結ばれた。
大金持ちながら優しさのある彼と共に生きられるなら、そんな幸せなことはない。
◆
最近になって聞いたのだが。
アルフレートと妹は結局結婚直前で破局したそうだ。
何でもアルフレートが友人の友人である女性と浮気していたそうで。
それに激怒した妹が婚約破棄を突きつけたらしい。
するとアルフレートは激昂。妹に暴行。正気を失っていた彼は殴ったり蹴ったり棒で叩いたりといった行為を数時間にわたって続けた。
それによって妹は落命。
また、アルフレートも、その件によって逮捕されることとなったようだ。
◆終わり◆
『「おれ、神冒険者目指すんだ!」それは終わりの始まりでした。~裏切り者にはさよならを告げます~』
「おれ、神冒険者目指すんだ!」
婚約者モットリーグはある日突然そんなことを言ってきた。
「え……?」
「冒険者最強目指すから、結婚までの一年間ここで待っててくれ!」
「婚約期間中ずっとどこかへ行っているということ……?」
「ああそうだ! でも必ず戻ってくる。約束するよ。だから! どうか待っててくれ!」
モットリーグは元から自分勝手な青年だった。
だからこういうことを言われても驚きはそれほどない。
でも、さすがに、ここまで勝手だとは……。
「本気なの?」
「ああ!」
相手がいる問題なのに相談もせず決まってから言ってくるなんてどうかしていると思う。
「でも本当になれるの? 冒険者なんて。簡単な道じゃないわよ?」
「それでもいい!」
だが私はモットリーグのことがそんなに好きなわけでもなかったので。
「そう……分かった、じゃあそれでもいいわ」
彼の意思を優先しておくことにした。
「ありがとう! ありがとうありがとありがとう!」
幸い、ずっと一緒にいたい、なんて気持ちはない。
だから離れていても耐えられると思う。
「けど結婚は絶対すること!」
「もちろんだ!」
こうして私は彼の帰りを待つことにした。
想定外の流れではあるけれどこうなってしまった以上は仕方がないのでもうあれこれ言うつもりはない。
取り敢えず彼が返ってくるのを待とう。
◆
モットリーグは浮気していた。
偉大な冒険者を目指すというのはただの名目でしかなかったのだ。
彼はそれを隠れ蓑として浮気するつもりだったのだ。
――絶対に許さない!!
私は怒りを覚えた。
明らかに裏切りだったからである。
だが、私が罰を下すまでもなく、彼には罰が下った。
浮気相手の女性と一緒に冒険に出ていて魔物に襲われ倒された彼は、その巨大な魔物の餌となってしまったのだった。
……それが婚約者を裏切った男の最期。
私と彼の婚約は彼の死によって終わりを迎えた。
◆
モットリーグとの別れから今日でちょうど二年になる。
「この植木鉢、重いのだけど、運んでもらってもいい?」
「オーケイ」
私は今、植物を売る店の店主をしている男性と夫婦になっている。
「そっち頼んでもイーカイ?」
「ええ!」
「じゃ、よろしく頼ムーヨゥ」
「ありがとう」
出身地の影響で喋り方が少々個性的な彼だが、私は夫である彼のことを愛している。
だから仕事にも協力しているのだ。
私は妻として彼を支えてゆきたい。
これからもずっと。
そして、二人で光ある未来を掴みたいのだ。
◆終わり◆
『パーティーの最中に婚約破棄宣言してくるというのはさすがにちょっとどうかと思います。』
「貴様との婚約、破棄とする!!」
隣国の王子アルグレッサがあるパーティーの最中突如そんなことを言い放ってきた。
「え……」
「聞こえなかったのか? 婚約は破棄とする、と言ったのだ」
「本気で仰っている……のですか?」
「当たり前だろう。なぜそんな嘘をつく必要があるというのか。俺はそんなくだらない嘘はつかない」
アルグレッサは婚約破棄宣言だけでは終わらず。
「貴様は一国の王女のくせに運動が好きなどという野蛮な面を持っているだろう。そこが気に食わない。運動好きの女など、どうしても女として見られないのだ。それに一国の頂に立つ男の妻には相応しくない。王妃は上品かつ可憐な女性でなくては」
周りには私たちの様子を見ている人たちがいるというのに好き放題言ってくる。
「だから貴様はこの位置に相応しくないと判断したのだ」
「そう……ですか」
こうして私とアルグレッサの関係は壊れてしまったのだが――その年の末、我が国に攻め込まれたアルグレッサの国は滅亡した。
もちろん王子であるアルグレッサも落命した。
私はこれからもゆったりと歩んでゆく。
生きていれば理不尽なことに出会うこともある。ただそれでも幸せにはなれるのだと、これから、生きて、生きて、証明してゆきたいと思う。それがきっと未来の希望へと変わるはずだから。
たとえ婚約破棄されようとも、そこですべてが終わるわけではない。
――それが私の描いてゆく道だ。
◆終わり◆
『婚約破棄で終わった二人です。~お互い、それぞれの道を歩んでゆきましょう~』
貴方と一緒にいるといつも疲れるの。
どうしてかは分からない。
でも同じ時間を過ごすことは楽しさなんて少しもなかったのよ、それがいつからだったかは定かでないけれど。
だからね、貴方がさよならを告げてくれて良かった。
婚約破棄する、って。
そちらから言ってくれたのはある意味幸運だった、って、少し時が経ったらそう思えるわ。
あの時は悲しかった。
あの時は辛かった。
驚きもしたし、心に何かが突き刺さったみたいで、その傷を癒すことにやたらと時間を使ってしまって――貴方がいない日々に馴染むまではしっくりこない感じもあって。
けれど気づけばすっきりしていたわ。
貴方は私のこと「好きじゃなかった」って言っていたけれど、もしかしたら私もそうだったのかもしれない。
だとしたらお互いさまみたいなものね?
くだらない笑い話だわ。
愛し合っているふりをして愛し合っていなかっただなんて。
そんな二人が結ばれる未来なんてなくて良かった。
貴方もそう思っているのでしょう?
今こそ本当の意味で通じ合った時なのかもしれないわね。
だから、さよなら。
遅くなってしまったけれど。
今の私はもう何も恐れないわ。
お互い、それぞれの道を歩んでゆきましょう。
きっとそれが幸せへの一歩。
……そう信じているから。
◆終わり◆
『結婚間近だというのに、婚約者が旅に出てしまいました……。』
婚約者アンバレは結婚間近だというのに旅に出てしまった。
何でも人生経験を深めたいとのことで出ていったのだが――実際には人生経験うんぬんなどという話ではなく、ただの浮気旅行であった。
だが旅行先で知人からの目撃情報報告があって、真実はすぐに明るみに出ることとなった。
「アンバレ、ただの浮気旅行だったなんて残念だわ」
「誤解だよ! 彼女とは行った先でたまたま会っただけ! それでちょこっとお茶とかしただけだよ」
「嘘ね」
「どうして信じてくれないんだ!」
「目撃情報があるのよ。だから真実は既に知っているわ。お茶だけだなんて嘘、ずっとお出掛けしたうえいかがわしいところにも行っていたのでしょう」
するとアンバレは急にビンタしてきた。
「うるせえよ!!」
私は即座に人を呼ぶ。
そしてアンバレを拘束させた。
「やったわね、暴力行為。もう許さない。通報します」
そうしてアンバレは逮捕されたのだった。
それによって婚約は破棄に。
浮気者の彼とスムーズに離れることに成功した。
もちろん償いのお金はしっかりと支払ってもらった――九割は本人からではなく彼の両親からだったけれど。
でもないよりはましだ。
貰うべきものを貰えたというだけで少しは心癒される部分がある。
アンバレとの記憶は残念なものとなってしまったけれど、自分の人生が終わるわけではないので、まだまだここから頑張って歩んでゆこうと思う。
必ず、明るい未来を掴んでみせる。
一歩ずつ進もう。
その先にこそ幸せがあると信じて。
◆
あれから三年、私は幸せになれた。
知人の紹介で出会った頭がつるつるな男性と結婚して今は毎日それなりに贅沢しながら生活できている。
贅沢がすべてではない。それは事実だ。貧しくとも幸福の海を泳ぐ者もいることは事実。ただ、暮らしの中に様々な楽しみがあるというのは不快なことではないし、むしろ喜ばしいことだ。楽しみ、喜び、そういったものは確かに未来へ歩んでゆく活力になる。
これからも楽しく生きよう。
それが私の掴んだ幸せだ。
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