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『婚約者がいるのに何人もの女と深い仲になる男なんて、あり得ません! ~彼がどんな目に遭おうとも自業自得ですよ~』

 かつて私には婚約者がいた。

 その人物の名はオッペリオス。
 美男子だがプライドが高すぎて扱いづらくどうしようもないくらい正確に難のある人であった。

 彼は何人もの女と深い仲になっていた。

 婚約者がいるにもかかわらず、である。

 しかしそういう自分の行いを悪いとはまったくもって思っていないようで。婚約者である私に対しても隠そうとさえせず。婚約者の目前であっても堂々と他の女といちゃつき肌を触れ合わせるほどであった。

 で、ある時耐え切れなくなりそのことについて意見を言ったのだが、それによって激怒した彼は一方的に婚約破棄を言いわたしてきた。

 彼はどうしてあんな人間になってしまったのだろう?

 今でも不思議に思う瞬間がある。

 考えても答えは出ないのだけれど。
 彼があんな風になったのには何か理由があるはずだが私の脳ではその理由は導き出せない。

 甘やかされて育ったから?
 美男子で女が寄ってくるから?

 ……考えてみても答えなんて出るはずもなく。

 でももう意味のないことだ、彼について考えるのは――だって彼はもうこの世を去っているから。

 そう、オッペリオスは死んだのだ。

 そこに至った経緯を簡単に説明すると。

 オッペリオスは私との婚約を破棄した直後酒場で一人の巨乳かつ美しい女性と出会った。で、一瞬で惚れてしまった彼は、すぐにその女性へのアプローチを開始する。女性はつれなかったがそれでも諦めず追い掛け回し続けた。

 しかしその女性の父親がマフィアのボスだったことで、オッペリオスは地獄へ堕とされることとなる。

 オッペリオスがあまりにしつこいので、女性は父親に「男に追い掛け回されて困っている」と話をした。それによって父親は激怒。マフィアのボスである父親に目をつけられたオッペリオスは、ある晩酒場を出たところで拘束され、そのまま誘拐されてしまった。

 捕らえられたオッペリオスは罰の意味も兼ねて散々拷問のようなことをされ、その果てに死亡した。

 亡骸が見つかったのは死後数週間経ってからだったそうだ。

 そんな感じで、オッペリオスはこの世を去った。

 あまりにも残酷で悲しい最期。
 けれども自業自得の色もかなり強い。

 それに、彼がどうなろうとも、私からすればざまぁみろでしかないのだ。

 だって彼はかつて私を傷つけていた。

 それも何度も。
 しかも短時間でもなく。

 そんな彼が不幸な最期を迎えたところで、可哀想とも何とも思わないのだ。

 単に、やってきたことが返ってきただけとしか思えない。

 ちなみに私はというと、今とても良い感じになっている相手がいる。
 父の紹介で知り合った人なのだけれど、彼とは色々な面で話が合うから一緒にいるととても楽しい。

 私は彼との未来を想像しているところだ。

 一度は途絶えてしまった道。
 けれども新しい道を行くならそこにはきっと希望だってあるはず。

 だから大丈夫。
 私はまだ止まらない。

 どこまでも歩んでゆける。


◆終わり◆


『夫の浮気が発覚しまして、なぜか私が家から追い出されました。しかし結果的にそれによって命が助かりました。ある意味ラッキーでした。』

「お前なんて妻じゃない!」

 夫ウィダリーの浮気が発覚した。
 私が出掛けている間にこっそり女を連れ込んでいたのだ。

 私がそのことを知った瞬間、ウィダリーの様子は変化して――彼は逆ギレ、私を家から追い出すことを選ぶ。

「離婚だ! さっさと出ていけ!」
「そんな」
「しつこいぞクソ女!」
「その言い方は、さすがに……」
「俺はこれからオリヴィアと暮らす! だから二度と俺の前に現れるなよ!」

 強制的に追い出されてしまった私は仕方なく実家へ帰ることにした――が、その日の晩、驚きの話を聞くこととなる。

「あの家に強盗が入って、それで、ウィダリーくんとそのオリヴィアとかいう女は殺されたそうだ」

 父からそう聞いた時、雷が落ちたような感覚があった。

 ウィダリーのことはもう愛してはいない。
 だがそれでもショックはあった。
 彼が死んだのだと、この世を去ったのだと、そう突きつけられれば多少は感じるものがあるのだ。

「そうだったの……」
「不幸なことではあるが、ある意味幸運だったな」
「そうみたい」
「お前が無事で良かった。本当に。あのままだったらお前が殺されていた、そう思うと、怖くて怖くて。ある意味浮気に感謝とも言えるな」


 ◆


 数年後。
 快晴の夏の日に二度目の結婚式を挙げる。

「おめでとう!」
「ずっと幸せに暮らしてね!」
「今度こそ幸せに!」
「あんなやつ忘れて、幸せになって!」

 友人らは式に駆けつけてくれた。
 二度目だったので少々申し訳なさもあったけれど。

 でも、皆の笑顔を見ていたら、もう一度結婚式を挙げて良かったとも思った。

 今度こそ幸せを掴んでみせる。
 過去は捨て去って、明るい未来を信じて歩もう。


◆終わり◆


『彼はかつて女性に辛い思いをさせられたようですが……今は私と共に幸せに暮らしています。』

「ねぇローゼリア、僕のこと今日も好きかい?」
「ええもちろんよ」
「これからもずっと好きでいてくれる?」
「そのつもりよ」

 我が夫タックは穏やかで良い人なのだが、女性関係においてあるトラウマがある。

 そのため彼はいつも不安を抱えている。
 もしかしたら愛されなくなっているのではないか、といった不安を。

 日常の中の彼は基本的にまったりとした明るさのある人物。けれどもその胸の奥には暗雲がたちこめている領域もあって。それは過去の辛い思い出によってできたもので。それはたびたびひょっこりと顔を出してくる。

「そのつもり、って……本当?」
「ええ」
「そっか。……ごめんね、いつも同じことばかり聞いて」
「いいわよ」

 でも私はそんなところも含めてタックを想っている。
 だから何度も尋ねられても苦痛ではない。

 問われれば本当のことを答える、それだけだ。

「つい不安になってしまうんだ」
「不安が強い?」

 タックにはかつて婚約者がいた。
 けれどもその女性に彼は捨てられてしまったのだ。

 しかも向こうが浮気したうえでの婚約破棄であった。

 その一件において、二人はかなり揉めたようだ。
 で、その時から、彼は女性に対して不安と恐ろしさを抱えるようになったようなのだ。

 私が彼に出会ったのはその件が解決した少し後のタイミングであった。

「……ずっとではないんだけど」

 結婚するまで色々あった。
 彼のメンタル的な意味で苦労する時もあった。

 でも二人で乗り越えてきたから。

「お茶でも淹れてこようか? 温かいものでも飲んだら少しは落ち着くかもしれないわ」

 だから私たちの絆は固い。

「そんな! いいよ! 手を煩わせるのは申し訳ないよ」
「でも……不安なままでいるのも辛いでしょう?」
「ううん、答えだけでいいよ。もう大丈夫。ローゼリアのことは信じているしね」

 私たちは共に歩む。
 この関係は確かなものだ。

 ……そうよ、誰にも壊させはしない。


◆終わり◆
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