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『美しい婚約者を捨てた王子は多数の不吉な出来事に見舞われそのうえ即位の日にあの世逝きとなってしまったようです。』
王子クレッセントには婚約者がいた。
その婚約者はとても美しい女性。
名はエミーリアという。
しかしクレッセントにはもう一人女がいた――元侍女で今は愛人に近いような立ち位置となっている女性ルルリである。
クレッセントが本当に愛しているのはルルリだった。
ある日のこと、クレッセントは、ルルリから「エミーリア様が虐めてくるのです」と相談された。
もっともそれはもちろんルルリの嘘。
彼の気を引くための、エミーリアを貶めるための、完全なる嘘である。
しかしクレッセントはその話を信じてしまった。
「心配するな、俺が罰を下してやる」
「クレッセント様……!」
「大丈夫だルルリ、俺は何があろうとも絶対にお前の味方だからな。だからもう泣くな。心配だってしなくていい」
そして彼はエミーリアに対して婚約破棄を告げた。
「ルルリを虐めるなど最低な悪女だな!」
「私は何もしていません」
「嘘つきが! ルルリが嘘をつくはずがない……お前はまだ罪を認めないのか! 最悪な女だな!」
いきなりのことにエミーリアは動揺していた。
だが無理はない。
何もしていないというのにいきなり「虐めていた」などと言われたのだから、そんな状況に追いやられれば誰だってそうなるだろう。
「出ていけ、穢れた悪女! 二度と戻るな! 二度と顔を見せるなッ!!」
そうしてエミーリアは城から去らなくてはならないこととなってしまったのだった。
◆
エミーリアが城を去ってから間もなく、クレッセントはルルリと婚約した――しかしその頃から何やら不吉なことがやたらと発生するようになっていった。
ある時は人が死に。
ある時は物が壊れ。
怪しい出来事は続き、お祓いをしてもなお止まらなかった。
そして、そんなまま迎えたある冬の日、国王が風呂あがりに倒れてそのまま亡くなってしまう。
それによって急遽即位することとなったクレッセント。
彼は王に、ルルリは王妃に。
突然ではあるが予定通りそうなるはずだった。
――が、即位式典の前半、クレッセントは何者かに射殺された。
彼は目の前で撃たれて死亡したのだった。
また、それによって正気を失ったルルリは、よく分からないことを叫びながら辺りを円形に走り回りその後窓の方へ行ってそのままそこから飛び降りた。
そして死亡したのだった。
王家は呪われている――民の多くがそう思うようになった出来事であった。
一方追放されたエミーリアはというと、後に隣国の王より求愛を受け、暫しの交際の果てに彼と結婚したのだった。
隣国に移り住んだ彼女は、王妃として、皆に愛されながら幸せに生きている。
◆終わり◆
『その日は突然やって来ました。けれども人生が終わるわけではありません。~ヘンテコ夫と楽しく生きています~』
その日は突然やって来た。
婚約者エンビリオが重大なことを告げてくる日。
「おい、聞け!」
彼は以前からたびたび唐突にいろんなことを言ってくる。だから急に話始められることには慣れている。彼からの絡みに前触れなんてものは存在しないのだ。
「何でしょうか」
「お前との婚約だがな、破棄とする!」
突然な宣言に困惑していると。
「だ! か! ら! 婚約は破棄する、って言ってるんだ!」
彼はさらに圧を強めて繰り返してきた。
「婚約破棄……?」
エンビリオは元より身勝手な人だ。
でもだとしても不自然さは拭えない。
あまりにも唐突だから。
「そういうことだよ。お前との関係はここで終わりにするんだ」
彼はそれが当たり前であるかのように平然と言っているけれど……。
二人の結婚に関しては既に大勢の人に言ってしまっている。式の招待状だってもう出したくらいなのだ。にもかかわらず、それらが今さらすべてなしに、となればどうなるか。皆を驚かせてしまうだろうし、迷惑をかけることもほぼ確実だ。
エンビリオはどうしてそれが理解できないのだろう。
「それは……本気で仰っているのですか? もう結婚式まで半年もありません、準備だって進んでいます」
「そんなことは関係ない!」
「ですが、今さら破棄だなんて、皆さんにも迷惑が掛かってしまいます」
「だとしてもやめはやめだ!」
「えええ……」
こうして婚約は破棄となった。
◆
あの後少ししてエンビリオは死んだ。
何でも昔虐めていた友人に復讐されたそうだ。
罠にかけられた彼は山奥の小屋にて「助けてくれ」「死にたくない」などと嘆き鼻水を垂らしながら情けなく死んでいったのだとか。
……ま、べつにもうどうでもいいか。
エンビリオが悪いことをしていて、だから、そんな最期を迎えることとなった――そこには私の人生など無関係なのである。
それに、そもそも、今はもう完全に他人だし。
彼に対して思うことなど何もない。
◆
「いやはや、貴女の料理は本当に美味ですなぁ~」
「ありがとうロッツ」
「結婚し、夫婦となり、これが毎日食べられると思えば……んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
私はあの後ロッツという男性と結婚した。
エンビリオとはあそこで終わってしまったけれど、それによってすべてを失ったわけではなかった。
「え、ちょ、どうしたの急に」
「んんっ。失礼。思わず本心が溢れ出してしまいましたぞい」
「そうだったの……。相変わらずね」
「いやはや、こりゃあ、ほーんとに美味ですぞ!」
「ありがとう褒めてくれて」
「ぐほほほーい!!」
ロッツは少し変わった人だけれど、私にとっては良き夫だ。
◆終わり◆
王子クレッセントには婚約者がいた。
その婚約者はとても美しい女性。
名はエミーリアという。
しかしクレッセントにはもう一人女がいた――元侍女で今は愛人に近いような立ち位置となっている女性ルルリである。
クレッセントが本当に愛しているのはルルリだった。
ある日のこと、クレッセントは、ルルリから「エミーリア様が虐めてくるのです」と相談された。
もっともそれはもちろんルルリの嘘。
彼の気を引くための、エミーリアを貶めるための、完全なる嘘である。
しかしクレッセントはその話を信じてしまった。
「心配するな、俺が罰を下してやる」
「クレッセント様……!」
「大丈夫だルルリ、俺は何があろうとも絶対にお前の味方だからな。だからもう泣くな。心配だってしなくていい」
そして彼はエミーリアに対して婚約破棄を告げた。
「ルルリを虐めるなど最低な悪女だな!」
「私は何もしていません」
「嘘つきが! ルルリが嘘をつくはずがない……お前はまだ罪を認めないのか! 最悪な女だな!」
いきなりのことにエミーリアは動揺していた。
だが無理はない。
何もしていないというのにいきなり「虐めていた」などと言われたのだから、そんな状況に追いやられれば誰だってそうなるだろう。
「出ていけ、穢れた悪女! 二度と戻るな! 二度と顔を見せるなッ!!」
そうしてエミーリアは城から去らなくてはならないこととなってしまったのだった。
◆
エミーリアが城を去ってから間もなく、クレッセントはルルリと婚約した――しかしその頃から何やら不吉なことがやたらと発生するようになっていった。
ある時は人が死に。
ある時は物が壊れ。
怪しい出来事は続き、お祓いをしてもなお止まらなかった。
そして、そんなまま迎えたある冬の日、国王が風呂あがりに倒れてそのまま亡くなってしまう。
それによって急遽即位することとなったクレッセント。
彼は王に、ルルリは王妃に。
突然ではあるが予定通りそうなるはずだった。
――が、即位式典の前半、クレッセントは何者かに射殺された。
彼は目の前で撃たれて死亡したのだった。
また、それによって正気を失ったルルリは、よく分からないことを叫びながら辺りを円形に走り回りその後窓の方へ行ってそのままそこから飛び降りた。
そして死亡したのだった。
王家は呪われている――民の多くがそう思うようになった出来事であった。
一方追放されたエミーリアはというと、後に隣国の王より求愛を受け、暫しの交際の果てに彼と結婚したのだった。
隣国に移り住んだ彼女は、王妃として、皆に愛されながら幸せに生きている。
◆終わり◆
『その日は突然やって来ました。けれども人生が終わるわけではありません。~ヘンテコ夫と楽しく生きています~』
その日は突然やって来た。
婚約者エンビリオが重大なことを告げてくる日。
「おい、聞け!」
彼は以前からたびたび唐突にいろんなことを言ってくる。だから急に話始められることには慣れている。彼からの絡みに前触れなんてものは存在しないのだ。
「何でしょうか」
「お前との婚約だがな、破棄とする!」
突然な宣言に困惑していると。
「だ! か! ら! 婚約は破棄する、って言ってるんだ!」
彼はさらに圧を強めて繰り返してきた。
「婚約破棄……?」
エンビリオは元より身勝手な人だ。
でもだとしても不自然さは拭えない。
あまりにも唐突だから。
「そういうことだよ。お前との関係はここで終わりにするんだ」
彼はそれが当たり前であるかのように平然と言っているけれど……。
二人の結婚に関しては既に大勢の人に言ってしまっている。式の招待状だってもう出したくらいなのだ。にもかかわらず、それらが今さらすべてなしに、となればどうなるか。皆を驚かせてしまうだろうし、迷惑をかけることもほぼ確実だ。
エンビリオはどうしてそれが理解できないのだろう。
「それは……本気で仰っているのですか? もう結婚式まで半年もありません、準備だって進んでいます」
「そんなことは関係ない!」
「ですが、今さら破棄だなんて、皆さんにも迷惑が掛かってしまいます」
「だとしてもやめはやめだ!」
「えええ……」
こうして婚約は破棄となった。
◆
あの後少ししてエンビリオは死んだ。
何でも昔虐めていた友人に復讐されたそうだ。
罠にかけられた彼は山奥の小屋にて「助けてくれ」「死にたくない」などと嘆き鼻水を垂らしながら情けなく死んでいったのだとか。
……ま、べつにもうどうでもいいか。
エンビリオが悪いことをしていて、だから、そんな最期を迎えることとなった――そこには私の人生など無関係なのである。
それに、そもそも、今はもう完全に他人だし。
彼に対して思うことなど何もない。
◆
「いやはや、貴女の料理は本当に美味ですなぁ~」
「ありがとうロッツ」
「結婚し、夫婦となり、これが毎日食べられると思えば……んはぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
私はあの後ロッツという男性と結婚した。
エンビリオとはあそこで終わってしまったけれど、それによってすべてを失ったわけではなかった。
「え、ちょ、どうしたの急に」
「んんっ。失礼。思わず本心が溢れ出してしまいましたぞい」
「そうだったの……。相変わらずね」
「いやはや、こりゃあ、ほーんとに美味ですぞ!」
「ありがとう褒めてくれて」
「ぐほほほーい!!」
ロッツは少し変わった人だけれど、私にとっては良き夫だ。
◆終わり◆
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