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50~53
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50.
王子ラルフローレンの死によって、彼との婚約は破棄となった。
それからは暫し聖なる乙女としての仕事に集中していた。
でもそれでいいのだ。
やるべきことをやるだけで。
恋も、愛も、私には必要ない。
叶わない夢はみたくない。
「聖女さま! 素晴らしいお方!」
「尊敬しています!」
「女神のようなお方! 敬愛を向けております! どこまでも素晴らしい、歓喜を絵に描いたようなお方!」
人のために生きる。
それを最優先事項としたい。
◆
アイニーティアの二人目の婚約者は十九年上の男性であった。
彼はお金持ち。
しかし若干いたずらが多く厄介な人物だった。
彼はアイニーティアに対してでも容赦なくいたずらしてくる。スカートをめくってパンツを見ようとしたり、急に下ネタを言い放ってきたり、カップの水をいきなりかけてきたり。
だが、そんな彼も、長くは生きられなかった。
彼はある夜突如倒れた。
心臓発作みたいな状態に陥っていたのだった。
そうして彼は死んだ。
それによって彼との婚約も破棄となったのだった。
今回は相手の死による婚約破棄パターンが多いなぁ、なんて思いつつ……今日も息をして、生きる。
51.
三人目の婚約者は知人の紹介で巡り合った人だった……のだが。
「お前なんて嫌いなんだよッ」
彼は初めて対面する日にいきなり香辛料を溶かした水をかけてきた。
「ぁ、え……」
「キモいんだよ聖女!」
「な、なぜ……こんな、どうして……」
目がヒリヒリしてしまう。
「嫌いなんだよ! お前のことなんてどーっでもいい。てか、嫌い! ムリ!」
「ええと……婚約する気なのではなかったのですか……?」
「親の借金のせいだよ。それのせいでお前と婚約させられることになっちまったんだ。あー! あー! 最悪だー!」
どうしてそんな……。
あまりにも酷い……。
事情があるのは分かった。でも、だからといって、こんな酷いことをする必要があるのか? 香辛料入り水をかけるなんて。そんなことをする必要はあった? 事情も、心情も、言葉で説明すれば良かったのではないの?
「分かりました、では、婚約はなかったことということで」
「……いいのか?」
「ええ。無理に、など、私は望みません」
すると彼は。
「ぃよぉーっしゃああああッ!!」
歓喜の叫びを発した。
「よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよぉーっしゃよっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! よぉーっしゃよっせ! よぉーっしゃよっせい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! はい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! ぉっ、はい!」
それから三日ほどが経って、彼はうっかり毒きのこを食べてしまったために落命した。
やりたいこと、未来への希望、たくさんあっただろうに……。
でも、可哀想とは思わない。
だって彼は心ない人だったから。
52.
アイニーティアは何度も繰り返す。
婚約と婚約破棄を。
それは一般的な視点から見ると明らかに不自然な流れであり、だがしかし事情が事情なので仕方がない部分もあって……それゆえその点を悪く言ってくる人はほとんどいなかった。
「惚れました! アイニーティア様!」
そんな私にいきなり想いを告げてきたのは、そこそこ歴史ある家の子息で次男であるジレット。
「僕とお付き合いしてください!」
「え、ええっ……」
「僕は本気です。結婚を見据えています。貴女と共に生きてゆきたい、そう本気で考えています」
「あ、あの……その……ちょっと、いきなり過ぎて……」
ジレットは押しの強い男性だった。
「どうかお願いします! 考えてください!」
「そう……ですね、少し考えさせてくださいますか」
「はいもちろん!」
「……ありがとう、助かります」
その後私はジレットと交流を始めた。
彼と過ごす時間は楽しかった。
なんせ彼は話が面白い。
だから一緒にいてまったく退屈しないのだ。
だがしばらくして彼に婚約者がいたことが判明。
「ジレットはわたくしのもの! 離れて!」
「私は騙されていただけです」
「何ですって?」
「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。ただ、私は、本当に貴女の存在を知らなかったのです」
この際もうすべて明かしてしまおう。
そう考えて、私は、真実を包み隠さずに話した。
「なんにやってんだあいつうううう……!!」
婚約者の女性は私の話を信じてくれた。
「ま、分かったわ。貴女に非はないということね。あのバカ男が迷惑かけてごめんなさいね」
「いえ……」
「あいつは徹底的にしばいておくから、許してくださる?」
「もちろんです。そして……謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」
その後彼女によって徹底的にしばかれたジレットは自由に出歩けない身体になってしまったようだった。
53.
ジレットとの関係は壊れたが、その直後から、色々揉めていた頃にたまに話を聞いてくれていたジレットの兄で長男であるチョーゼットからアプローチを受けるようになる。
そして。
「もう婚約書類作成して提出しておいたからな」
「ええっ!!」
まさかの展開になっていく。
こ、これは……完全に巻き込まれている……。
「俺は君を絶対に愛するからな」
「えええ……」
「ジレットよりましだろ?」
「それは……まぁ、そう、ですが……」
チョーゼットはジレットとはまた別の意味でややこしい男性であった。
だがその彼はある時急に意識を喪失しそのまま死へと至ってしまうこととなる。
「チョーゼットくん意識不明のまま亡くなったんですって」
「ええーっ、気持ち悪い」
「感染症? 持病? 理解不能ね……」
「そんなことってあるものかしら。聞いたことがないけれど。もしかして……何かの呪いとか……?」
「非現実的ねぇ」
「でも……確かにちょっと変だよね」
「それな」
チョーゼットの死により、私と彼の婚約はほぼ自動的に破棄となった。
「あの兄弟呪われてるの?」
「代々悪いことしすぎじゃない?」
「それな! ありそ!」
「おかしなことってあるものねぇ」
「謎すぎる……」
王子ラルフローレンの死によって、彼との婚約は破棄となった。
それからは暫し聖なる乙女としての仕事に集中していた。
でもそれでいいのだ。
やるべきことをやるだけで。
恋も、愛も、私には必要ない。
叶わない夢はみたくない。
「聖女さま! 素晴らしいお方!」
「尊敬しています!」
「女神のようなお方! 敬愛を向けております! どこまでも素晴らしい、歓喜を絵に描いたようなお方!」
人のために生きる。
それを最優先事項としたい。
◆
アイニーティアの二人目の婚約者は十九年上の男性であった。
彼はお金持ち。
しかし若干いたずらが多く厄介な人物だった。
彼はアイニーティアに対してでも容赦なくいたずらしてくる。スカートをめくってパンツを見ようとしたり、急に下ネタを言い放ってきたり、カップの水をいきなりかけてきたり。
だが、そんな彼も、長くは生きられなかった。
彼はある夜突如倒れた。
心臓発作みたいな状態に陥っていたのだった。
そうして彼は死んだ。
それによって彼との婚約も破棄となったのだった。
今回は相手の死による婚約破棄パターンが多いなぁ、なんて思いつつ……今日も息をして、生きる。
51.
三人目の婚約者は知人の紹介で巡り合った人だった……のだが。
「お前なんて嫌いなんだよッ」
彼は初めて対面する日にいきなり香辛料を溶かした水をかけてきた。
「ぁ、え……」
「キモいんだよ聖女!」
「な、なぜ……こんな、どうして……」
目がヒリヒリしてしまう。
「嫌いなんだよ! お前のことなんてどーっでもいい。てか、嫌い! ムリ!」
「ええと……婚約する気なのではなかったのですか……?」
「親の借金のせいだよ。それのせいでお前と婚約させられることになっちまったんだ。あー! あー! 最悪だー!」
どうしてそんな……。
あまりにも酷い……。
事情があるのは分かった。でも、だからといって、こんな酷いことをする必要があるのか? 香辛料入り水をかけるなんて。そんなことをする必要はあった? 事情も、心情も、言葉で説明すれば良かったのではないの?
「分かりました、では、婚約はなかったことということで」
「……いいのか?」
「ええ。無理に、など、私は望みません」
すると彼は。
「ぃよぉーっしゃああああッ!!」
歓喜の叫びを発した。
「よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよっしゃ! よぉーっしゃよぉーっしゃよっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! よぉーっしゃよっせ! よぉーっしゃよっせい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! はい! よっしゃしゃしゃっしゃっしゃっ! ぉっ、はい!」
それから三日ほどが経って、彼はうっかり毒きのこを食べてしまったために落命した。
やりたいこと、未来への希望、たくさんあっただろうに……。
でも、可哀想とは思わない。
だって彼は心ない人だったから。
52.
アイニーティアは何度も繰り返す。
婚約と婚約破棄を。
それは一般的な視点から見ると明らかに不自然な流れであり、だがしかし事情が事情なので仕方がない部分もあって……それゆえその点を悪く言ってくる人はほとんどいなかった。
「惚れました! アイニーティア様!」
そんな私にいきなり想いを告げてきたのは、そこそこ歴史ある家の子息で次男であるジレット。
「僕とお付き合いしてください!」
「え、ええっ……」
「僕は本気です。結婚を見据えています。貴女と共に生きてゆきたい、そう本気で考えています」
「あ、あの……その……ちょっと、いきなり過ぎて……」
ジレットは押しの強い男性だった。
「どうかお願いします! 考えてください!」
「そう……ですね、少し考えさせてくださいますか」
「はいもちろん!」
「……ありがとう、助かります」
その後私はジレットと交流を始めた。
彼と過ごす時間は楽しかった。
なんせ彼は話が面白い。
だから一緒にいてまったく退屈しないのだ。
だがしばらくして彼に婚約者がいたことが判明。
「ジレットはわたくしのもの! 離れて!」
「私は騙されていただけです」
「何ですって?」
「ご迷惑お掛けして申し訳ありませんでした。ただ、私は、本当に貴女の存在を知らなかったのです」
この際もうすべて明かしてしまおう。
そう考えて、私は、真実を包み隠さずに話した。
「なんにやってんだあいつうううう……!!」
婚約者の女性は私の話を信じてくれた。
「ま、分かったわ。貴女に非はないということね。あのバカ男が迷惑かけてごめんなさいね」
「いえ……」
「あいつは徹底的にしばいておくから、許してくださる?」
「もちろんです。そして……謝るのは私の方です。申し訳ありませんでした」
その後彼女によって徹底的にしばかれたジレットは自由に出歩けない身体になってしまったようだった。
53.
ジレットとの関係は壊れたが、その直後から、色々揉めていた頃にたまに話を聞いてくれていたジレットの兄で長男であるチョーゼットからアプローチを受けるようになる。
そして。
「もう婚約書類作成して提出しておいたからな」
「ええっ!!」
まさかの展開になっていく。
こ、これは……完全に巻き込まれている……。
「俺は君を絶対に愛するからな」
「えええ……」
「ジレットよりましだろ?」
「それは……まぁ、そう、ですが……」
チョーゼットはジレットとはまた別の意味でややこしい男性であった。
だがその彼はある時急に意識を喪失しそのまま死へと至ってしまうこととなる。
「チョーゼットくん意識不明のまま亡くなったんですって」
「ええーっ、気持ち悪い」
「感染症? 持病? 理解不能ね……」
「そんなことってあるものかしら。聞いたことがないけれど。もしかして……何かの呪いとか……?」
「非現実的ねぇ」
「でも……確かにちょっと変だよね」
「それな」
チョーゼットの死により、私と彼の婚約はほぼ自動的に破棄となった。
「あの兄弟呪われてるの?」
「代々悪いことしすぎじゃない?」
「それな! ありそ!」
「おかしなことってあるものねぇ」
「謎すぎる……」
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