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12.
ある春の日、家の前で昼寝をしていたら、見知らぬ男に誘拐されていた。
そして婚約を強制された。
俺と生きると誓え、なんて高圧的に言われて。
「お前は今日から俺の婚約者だ、そして未来の妻だ」
「……はい」
「何だその顔、嬉しくなさそうだな」
「ええと……実はまだ理解が追い付いていないのです」
「はあ?」
「戸惑っているのです。あまりにも急展開で。すみませんが……しばらくはまだこんな感じかと思われます」
これは、まさかの、ついに結婚……!?
そんなことを思ったのも束の間。
二人きりの家に地域の警備隊の者たちが押し入ってきて。
「罪人め! くたばれ!」
「人質をとるなど悪魔の所業!」
「今すぐあの世へ行くのだ!」
「罪を悔いながらこの世界とお別れしなさい」
暫しの言い合いの後、男は射殺された。
「大丈夫ですか! お怪我は!?」
警備隊の者は私の身を気遣ってくれる。
「……平気です」
幸い私は無傷だ。
痛いことなんかはされていない。
「本当ですか? 何かされたのでは」
「俺と生きると誓え、とかは言われましたけど……その程度です。本当に。ですから心身が傷つくようなことはありませんでした」
「それは良かったです」
「お気遣いありがとうございます、感謝します」
「何かありましたら、後からでも、お伝えいただければご対応いたしますので」
「ありがとうございます」
ただ昼寝をしていただけなのに。
こんなこともあるのだなぁ、と、ぼんやりと思った。
13.
「貴様との婚約なんぞ、継続できるわけがない!」
フォリアナになってからだけでも婚約と婚約破棄をいやというくらい繰り返してきた。だからもう何人目か分からないが、現在の婚約者は一部魔族の血を引くのだという男性であった。ちなみに彼は私より十以上年上である。
「我のプリンを食べただろう!」
「昨夜食べておいてくれって言っていたじゃないですか!」
「……はぃい?」
「貴方が『食べておいてくれ』と仰ったのです! ですから食べたのですよ!」
「嘘をつくな」
「えええー……」
彼との関係は順調だった。
今朝起きるまでは。
しかし今、私たちの関係はかなりの危機に瀕している。
……もしかしたらもう駄目かもしれない。
「フォリアナ! 貴様! どれだけ嘘をつけば気が済むんだ!」
「嘘などついていません!」
「ならなぜ我がそのことを覚えていないのだ」
「……酔っぱらっていたとかですかね?」
「ふざけるな!」
「でもお酒飲んでいらっしゃいましたよね」
「はぁ!? そんなわ……ぁ、や、ま、まぁ……多少飲みはしていたが……」
今になって弱気になる彼、だったが。
「と、とにかく! もうこの関係はおしまいとする! 貴様との婚約は破棄だッ!!」
数秒の間の後、そんな風に叫んできた。
ああもう面倒臭い……。
「分かりました、そこまで仰るならそれで結構です」
「可愛くないな」
「ま、そうですね。でもこんな理不尽な目に遭わされればこうもなるものですよ。理不尽な意味不明なことでいちゃもんをつけられ怒られとしていれば、そりゃあ、可愛くもなくなりますよ」
私との婚約の破棄から一ヶ月、彼は、勇者と名乗る謎の男たちによって殺められた。
男たちは魔族の血を引く彼のことを悪しき者であると思っていたようだ。魔族の血を引く者は完全な悪、そう信じ込んでいた男たちは、「悪を殺めて世界を平和にする!」などと叫びながら彼に襲いかかりその命を奪うまで暴行を加え続けたようである。
どちらが悪なんだか……。
だがまぁそれはある意味不運な事故とも言えるだろう。
彼が魔族の血を引いていたがための悲劇である。
14.
魔族の血を引いていた彼との関係が終わって少しした頃に遠い親戚の人の紹介で婚約したのはマザコン男だった。
「ママがさぁ、フォリアナのこと、あまり好きじゃないんだって」
「またママの話?」
「うん。前一回会った時ママのこと睨んだんでしょ? ママ傷ついてたよ。仲良くしようと思っていたのに、って」
いやいやいや! それはおかしい! ……本当のことを言うなら、睨んだのは向こうだ。私が彼の母親を睨んだのではなく、彼の母親が私を睨んできたのだ。これは絶対的なこと。それにそもそも、私が彼の母親を睨む理由なんてないだろう! 冷静になって考えてみてほしい、そんなことをする意味があるかどうか。
「だからフォリアナとの婚約は破棄するね」
こうしてまた訪れる婚約破棄の日。
でももはやよくあること過ぎて少しも傷つかない。
あの後、少しして、彼と彼の母親は彼の父親の暴力によって亡くなったそうだ。
何でも彼の家族には色々問題があったようだ。
そういう事情もあってマザコンに育ったのかも……しれ、ない。
もっとも、それが良いことなのかどうかは定かではないが。
15.
フォリアナは穏やかに生きて死んだ。
結局また結婚はできなかったしそういう意味では幸せにはなれなかったけれど、幸い友人なんかには恵まれていたので、総合的に見れば幸せな人生だった。
そして私はまた生まれ変わる。
新しい姿に。
父親が事業をしていてそこそこ裕福な家に娘として誕生した。
そんな新しい私エリーミネの一人目の婚約者となったのは、父親の旧友の息子であるエーベルという青年であった。
「俺たちさ、きっと、ずっと仲良しでいられるよな!」
「ええそうね!」
私たちは子どもの頃から定期的に会って遊ぶような関係だった。だからこそ絆も固く強いもの。彼とならもしかしたら……なんて思うほどに、私たちは良き友であった。
しかしそれでもハッピーエンドとはいかず。
「すまない、エーベルは亡くなってしまった」
「お義父様……!?」
「昨夜急に倒れてな、それで、そのまま……死亡してしまったんだ」
彼は私を遺して先に逝ってしまった。
そして彼の死によって婚約は破棄となったのだった。
これはさすがに悲しい……。
彼が生きていれば、あのまま結婚して幸せになれたのだろうか……?
16.
エリーミネの二人目の婚約者は郵便配達を仕事としている一つ年下の少年とも言えるような雰囲気を持った青年であった。
彼は可愛らしい雰囲気の持ち主。
だから個人的には彼のことは気に入っていた。
しかしある時彼が浮気していることを知ってしまい、そこから、良好であった関係は崩れ始めてしまって。
「もういいよ! ごちゃごちゃ言ってくる面倒臭い女となんて一緒にはいない! 婚約なんか破棄するから!」
やがて彼はそんな風に婚約破棄を告げてきた。
ちょっと待ってほしい。悪いのは明らかに彼ではないか、私は問題となるようなことは何もしていない。こちらが意見を言うこととなったのだって、そもそもは、彼が浮気していたからなのだ。
……なのにどうして私が悪いの?
「そもそもさぁ、ババアのくせに調子に乗るなよな。俺に指令したりごちゃごちゃ言ったりするなんてあり得ねぇ。年上だろ? 大人しく何でも許せよ。ババアのくせに。ババアには意見を言う権利なんてねぇんだよ」
しかも心ない言葉もたくさん並べられてしまったのだった……。
婚約破棄から数週間、彼は亡くなった。
詳しいことは知らないが、聞いた話によれば、郵便配達中の事故だったそうだ。
ま、時にはそういうことも起こるのだろう。
不運だったのだ、彼は。
ある春の日、家の前で昼寝をしていたら、見知らぬ男に誘拐されていた。
そして婚約を強制された。
俺と生きると誓え、なんて高圧的に言われて。
「お前は今日から俺の婚約者だ、そして未来の妻だ」
「……はい」
「何だその顔、嬉しくなさそうだな」
「ええと……実はまだ理解が追い付いていないのです」
「はあ?」
「戸惑っているのです。あまりにも急展開で。すみませんが……しばらくはまだこんな感じかと思われます」
これは、まさかの、ついに結婚……!?
そんなことを思ったのも束の間。
二人きりの家に地域の警備隊の者たちが押し入ってきて。
「罪人め! くたばれ!」
「人質をとるなど悪魔の所業!」
「今すぐあの世へ行くのだ!」
「罪を悔いながらこの世界とお別れしなさい」
暫しの言い合いの後、男は射殺された。
「大丈夫ですか! お怪我は!?」
警備隊の者は私の身を気遣ってくれる。
「……平気です」
幸い私は無傷だ。
痛いことなんかはされていない。
「本当ですか? 何かされたのでは」
「俺と生きると誓え、とかは言われましたけど……その程度です。本当に。ですから心身が傷つくようなことはありませんでした」
「それは良かったです」
「お気遣いありがとうございます、感謝します」
「何かありましたら、後からでも、お伝えいただければご対応いたしますので」
「ありがとうございます」
ただ昼寝をしていただけなのに。
こんなこともあるのだなぁ、と、ぼんやりと思った。
13.
「貴様との婚約なんぞ、継続できるわけがない!」
フォリアナになってからだけでも婚約と婚約破棄をいやというくらい繰り返してきた。だからもう何人目か分からないが、現在の婚約者は一部魔族の血を引くのだという男性であった。ちなみに彼は私より十以上年上である。
「我のプリンを食べただろう!」
「昨夜食べておいてくれって言っていたじゃないですか!」
「……はぃい?」
「貴方が『食べておいてくれ』と仰ったのです! ですから食べたのですよ!」
「嘘をつくな」
「えええー……」
彼との関係は順調だった。
今朝起きるまでは。
しかし今、私たちの関係はかなりの危機に瀕している。
……もしかしたらもう駄目かもしれない。
「フォリアナ! 貴様! どれだけ嘘をつけば気が済むんだ!」
「嘘などついていません!」
「ならなぜ我がそのことを覚えていないのだ」
「……酔っぱらっていたとかですかね?」
「ふざけるな!」
「でもお酒飲んでいらっしゃいましたよね」
「はぁ!? そんなわ……ぁ、や、ま、まぁ……多少飲みはしていたが……」
今になって弱気になる彼、だったが。
「と、とにかく! もうこの関係はおしまいとする! 貴様との婚約は破棄だッ!!」
数秒の間の後、そんな風に叫んできた。
ああもう面倒臭い……。
「分かりました、そこまで仰るならそれで結構です」
「可愛くないな」
「ま、そうですね。でもこんな理不尽な目に遭わされればこうもなるものですよ。理不尽な意味不明なことでいちゃもんをつけられ怒られとしていれば、そりゃあ、可愛くもなくなりますよ」
私との婚約の破棄から一ヶ月、彼は、勇者と名乗る謎の男たちによって殺められた。
男たちは魔族の血を引く彼のことを悪しき者であると思っていたようだ。魔族の血を引く者は完全な悪、そう信じ込んでいた男たちは、「悪を殺めて世界を平和にする!」などと叫びながら彼に襲いかかりその命を奪うまで暴行を加え続けたようである。
どちらが悪なんだか……。
だがまぁそれはある意味不運な事故とも言えるだろう。
彼が魔族の血を引いていたがための悲劇である。
14.
魔族の血を引いていた彼との関係が終わって少しした頃に遠い親戚の人の紹介で婚約したのはマザコン男だった。
「ママがさぁ、フォリアナのこと、あまり好きじゃないんだって」
「またママの話?」
「うん。前一回会った時ママのこと睨んだんでしょ? ママ傷ついてたよ。仲良くしようと思っていたのに、って」
いやいやいや! それはおかしい! ……本当のことを言うなら、睨んだのは向こうだ。私が彼の母親を睨んだのではなく、彼の母親が私を睨んできたのだ。これは絶対的なこと。それにそもそも、私が彼の母親を睨む理由なんてないだろう! 冷静になって考えてみてほしい、そんなことをする意味があるかどうか。
「だからフォリアナとの婚約は破棄するね」
こうしてまた訪れる婚約破棄の日。
でももはやよくあること過ぎて少しも傷つかない。
あの後、少しして、彼と彼の母親は彼の父親の暴力によって亡くなったそうだ。
何でも彼の家族には色々問題があったようだ。
そういう事情もあってマザコンに育ったのかも……しれ、ない。
もっとも、それが良いことなのかどうかは定かではないが。
15.
フォリアナは穏やかに生きて死んだ。
結局また結婚はできなかったしそういう意味では幸せにはなれなかったけれど、幸い友人なんかには恵まれていたので、総合的に見れば幸せな人生だった。
そして私はまた生まれ変わる。
新しい姿に。
父親が事業をしていてそこそこ裕福な家に娘として誕生した。
そんな新しい私エリーミネの一人目の婚約者となったのは、父親の旧友の息子であるエーベルという青年であった。
「俺たちさ、きっと、ずっと仲良しでいられるよな!」
「ええそうね!」
私たちは子どもの頃から定期的に会って遊ぶような関係だった。だからこそ絆も固く強いもの。彼とならもしかしたら……なんて思うほどに、私たちは良き友であった。
しかしそれでもハッピーエンドとはいかず。
「すまない、エーベルは亡くなってしまった」
「お義父様……!?」
「昨夜急に倒れてな、それで、そのまま……死亡してしまったんだ」
彼は私を遺して先に逝ってしまった。
そして彼の死によって婚約は破棄となったのだった。
これはさすがに悲しい……。
彼が生きていれば、あのまま結婚して幸せになれたのだろうか……?
16.
エリーミネの二人目の婚約者は郵便配達を仕事としている一つ年下の少年とも言えるような雰囲気を持った青年であった。
彼は可愛らしい雰囲気の持ち主。
だから個人的には彼のことは気に入っていた。
しかしある時彼が浮気していることを知ってしまい、そこから、良好であった関係は崩れ始めてしまって。
「もういいよ! ごちゃごちゃ言ってくる面倒臭い女となんて一緒にはいない! 婚約なんか破棄するから!」
やがて彼はそんな風に婚約破棄を告げてきた。
ちょっと待ってほしい。悪いのは明らかに彼ではないか、私は問題となるようなことは何もしていない。こちらが意見を言うこととなったのだって、そもそもは、彼が浮気していたからなのだ。
……なのにどうして私が悪いの?
「そもそもさぁ、ババアのくせに調子に乗るなよな。俺に指令したりごちゃごちゃ言ったりするなんてあり得ねぇ。年上だろ? 大人しく何でも許せよ。ババアのくせに。ババアには意見を言う権利なんてねぇんだよ」
しかも心ない言葉もたくさん並べられてしまったのだった……。
婚約破棄から数週間、彼は亡くなった。
詳しいことは知らないが、聞いた話によれば、郵便配達中の事故だったそうだ。
ま、時にはそういうことも起こるのだろう。
不運だったのだ、彼は。
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