婚約破棄とざまぁを繰り返すことに意味なんてあるのでしょうか? そうすることで幸せを掴める、と、神は言っていましたが……。

四季

文字の大きさ
上 下
2 / 14

4~7

しおりを挟む
4.

 新しい年が来た。
 一年の始まりとは良いものだ、心の奥まで澄むような感覚があって。

 けれどその年だけは違っていた。

「新しい年、おめでとう。……そして、君との婚約は本日をもって破棄とする」

 庭の草刈りを仕事としている婚約者の彼とは仲良く過ごせていたのだが、先日些細なことで言い合いになってしまい、それ以来ずっと気まずい状態が続いていた。

 そしてやはりまたこうなってしまった。

「新年早々で悪いとは思う。が、男様に口答えするような女とはやっていけない」

 口答えするような女?
 私が男性に口答えするような女だから婚約破棄されるの?

 ……そもそも喧嘩を売ってきたのは向こうではないか。

 なのにどうして私に非があるかのような言われ方をしなくてはならないのか、謎である。

「婚約破棄って……本気なのですか?」
「当たり前だろう、そんな面白さの欠片もない冗談はさすがに言わない」

 でももう動じない。
 婚約破棄なら婚約破棄で、それでいい。

 もう慣れたのだ、理不尽に捨てられることに。

 悲しみも苦しみも今は感じない。感じることは、ああまたか、ただそれだけ。それ以上でもそれ以下でもない。もはや私の心は川の水に押し流されているような状態、そこに感情の居場所はない。

「分かりました。……では、さようなら」

 それから数日して、彼は私のところへやって来た。
 そして「やはり婚約破棄はなかったことにしたい」なんてことを言ってくる。

 だが私はそれを拒否。

 当たり前だろう。
 向こうが一方的に関係を終わらせたのだから、彼にはやり直したいなんて言う権利はないのだ。

 それから少しして、彼はこの世を去った。

 スキーのために雪山に赴いていて事故に巻き込まれ亡くなった、という話みたいだ。



5.

「君さぁ、何回も婚約と婚約破棄を繰り返してるんだって? 仕方ない女の子だなぁ。じゃ、僕が君と婚約してあげるよ! 僕ならそんな変わった君とでも上手くやっていけるからさ。あ、感謝してね? 普通何回も婚約破棄された女の子と婚約なんてしないものなんだからね!」

 とあるカフェで知り合い、一度言葉を交わしてから、やたらと絡んでくるようになった二つ年上の彼。
 気さくで面白みのある人物ではあるのだけれど。
 ただ、なぜかやたらと上から目線なところがあって、まるで面倒臭いおじさんである。

 そんな彼と婚約することになってしまったのは、彼からのアプローチが凄まじかったから。あまりにも激しいアプローチだったので逃げきれず、捕まってしまい、それで今に至っているのである。

 だがそんな彼との関係にもやがて終わりはやって来る。

「君、僕に忠実じゃないよね。一緒に生きていく気、本当にあるの? 本気で生涯を共にしようって考えてる?」
「忠実、って……そんな言い方は少しどうかと思うのですが」
「はぁ!? 僕に口答えするってのかい!? コラアアアァァァァァァ!!」

 怒れる怪獣のように叫び出す彼を見ていたら、この人とは無理かな、なんて思ってきた。

「天使のように優しい、君みたいな出来損ない女にも親切な、そんな僕に口答えするのかぁぁぁぁぁぁぁ!! あり得ない! あり得ないぞおおぉぉぉぉぉ!! やはり君はどうかしている! 明らかにおかしい! ……はー。ま、もういい。僕はこれ以上君の相手はしない。婚約は今この時をもって破棄だァァァァッ!!」

 こうして婚約は破棄となったのだが、その次の日の昼下がりに彼は何者かに殺された。

 彼はその日仕事がなかったために自宅でのんびりしていたそうだ。だがいつの間にか自宅から消えて。彼の両親が違和感を覚えた時には彼の姿は自室内にはなく。で、慌てて捜索していたところ、亡骸となった彼が玄関先にそっと置いてあったそうだ。

 一体何があったのだろう……。

 もちろん私は無関係だ。
 人を殺すなんて私にはできない。



6.

 もう何人目かも分からない婚約者。
 彼は身勝手で高圧的、わがままも凄い人物であった。

 口を開けば私を貶めるような言葉ばかり発する彼のことは好きではなかった。

 当たり前だろう、暴言ばかり吐いてくる悪意しかないような人を婚約しているからといって好きになんてなれるはずもない。

 顔を合わせれば「今日も顔面ダサいな」「安定の不細工」などとまるでそれが挨拶であるかのように言ってくる。
 一緒にいる時にはやたらと命令してきて、しかもその内容がまったくもって意味のないものばかり。
 やむを得ない事情で二人で出掛ければ出掛けている間ずっと「お前みたいな女、婚約していなかったら絶対一緒に道歩いたりしない」とか「お前の隣を歩くのは恥ずかしい」とか失礼なことばかりぼやく。

 だが、そんな彼は、ある日突然この世を去った。

 彼はその日床屋に言っていたのだが、散髪してもらっている時にちょうど強盗が押し入ってきて、その強盗に人質にされたうえやがて傷つけられた。

 そしてその傷が原因となり一日も経たないうちに落命したのである。

 彼の死によって婚約は自動的に破棄となったのだった。

 この件に関しては、それまでの婚約破棄とはパターンが異なっていた。

 でも辛さはない。
 だって彼に関しては欠片ほども好きでなかったから。

 ……いや、むしろ、もう彼に会わなくていいということで安堵するばかりだ。



7.

 そんな風に婚約破棄とざまぁを繰り返しているうちに年を重ね、私の人生は終わりを迎えた。
 一応早死にではないくらいは生きられたし、結婚関連以外の面では平均値より恵まれた人生だったと思う。

 ……愛だけは手に入れられないままだったけれど。

 大変なこと、辛いこと、たくさんあったがそんなのは誰だってそうだろう。だから私だけに降りかかった災難だとは思わない。生きていれば時に苦痛も感じるもの、それが人生というものなのだから。


 ◆


 そして私は生まれ変わった。
 そこそこ良い家の長女として生まれた。

「フォリアナは可愛いなぁ! 本当に、女神のようだなぁ!」

 父は私のことを大層可愛がっていた。

 ……少々過剰だと感じるほどに。

 ただ、それは、時に面倒臭いと感じることはあっても悪いことではない。
 親から愛されながらのびのび育てる、それはとても幸せなことである。

 しかし例の無限ループはまだ終わりではなかった。


 ◆


「悪いねフォリアナ、君との婚約だが破棄することにしたよ」

 十代前半に将来結婚するという話でまとまっていた婚約者の彼と結ばれる予定だったのだが、ある日突然その時がやって来てしまった。

「え……」
「ぼくはもっと偉大な女性と生きたいんだ」
「……そう、ですか」
「理解したくないかもしれないけれど、理解してほしいんだ。君がぼくにできることはそれだけだよ」

 仲が悪かったわけではないのに、突然告げられてしまった婚約破棄。

 でももう以前のようには苦しまない。
 こういうことは前世で何度も何度も経験したから。

 ちなみに彼はというと、やはりまた、婚約破棄を告げてきた日の翌日この世を去った。

 彼は一人での散歩中に山賊に襲われ、拘束され、山奥にまで連れ去られたそう。で、身に付けていた金になりそうなものをすべて剥ぎ取られた状態で屋外に放置されたらしくて。衣服もほぼまとっていない状態であったために、身体が冷えすぎてしまい、朝が来る前に凍死してしまったのだそうだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【R15】婚約破棄イベントを無事終えたのに「婚約破棄はなかったことにしてくれ」と言われました

あんころもちです
恋愛
やり直しした人生で無事破滅フラグを回避し婚約破棄を終えた元悪役令嬢 しかし婚約破棄後、元婚約者が部屋を尋ねに来た。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【短編】捨てられた公爵令嬢ですが今さら謝られても「もう遅い」

みねバイヤーン
恋愛
「すまなかった、ヤシュナ。この通りだ、どうか王都に戻って助けてくれないか」 ザイード第一王子が、婚約破棄して捨てた公爵家令嬢ヤシュナに深々と頭を垂れた。 「お断りします。あなた方が私に対して行った数々の仕打ち、決して許すことはありません。今さら謝ったところで、もう遅い。ばーーーーーか」 王家と四大公爵の子女は、王国を守る御神体を毎日清める義務がある。ところが聖女ベルが現れたときから、朝の清めはヤシュナと弟のカルルクのみが行なっている。務めを果たさず、自分を使い潰す気の王家にヤシュナは切れた。王家に対するざまぁの準備は着々と進んでいる。

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

【完結】「図書館に居ましたので」で済む話でしょうに。婚約者様?

BBやっこ
恋愛
婚約者が煩いのはいつもの事ですが、場所と場合を選んでいただきたいものです。 婚約破棄の話が当事者同士で終わるわけがないし こんな麗かなお茶会で、他の女を連れて言う事じゃないでしょうに。 この場所で貴方達の味方はいるのかしら? 【2023/7/31 24h. 9,201 pt (188位)】達成

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

元婚約者が「俺の子を育てろ」と言って来たのでボコろうと思います。

音爽(ネソウ)
恋愛
結婚間近だった彼が使用人の娘と駆け落ちをしてしまった、私は傷心の日々を過ごしたがなんとか前を向くことに。しかし、裏切り行為から3年が経ったある日…… *体調を崩し絶不調につきリハビリ作品です。長い目でお読みいただければ幸いです。

なんで私だけ我慢しなくちゃならないわけ?

ワールド
恋愛
私、フォン・クラインハートは、由緒正しき家柄に生まれ、常に家族の期待に応えるべく振る舞ってまいりましたわ。恋愛、趣味、さらには私の将来に至るまで、すべては家名と伝統のため。しかし、これ以上、我慢するのは終わりにしようと決意いたしましたわ。 だってなんで私だけ我慢しなくちゃいけないと思ったんですもの。 これからは好き勝手やらせてもらいますわ。

処理中です...