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前編

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 母が好きだった。

 とても素敵な人だった。
 いつも優しくて。
 どんな時も私の寄り添ってくれる人。

「貴女には特別な力があるのよ。だからこそ、いつも心穏やかでいて。そうでなければ人や世界が危険なの」

 その母はいつもそんなことを言っていた。

「危険……」

 子どもだった私はまだよく分からずにいたけれど。

「いいわね? 怒っては駄目よ、憎んでは駄目よ」
「うん!」
「いつも明るくありなさい」
「うん!」

 それでも言いつけは守ろうと思っていた。


 ◆


 二十歳になった日、私はツイン王子に嫁ぐこととなった。

 式典の時は祝福された。
 でも城に入ってからは歓迎されなかった。

「何よあの子、だっさい」
「平民のくせに」
「うちの娘の方が相応しかったと思うわ」

 侍女らは外から来た私を良く思っていなかったようで、ことあるごとに私の悪口を言っていた。

 それでも、ツイン王子は私を温かく迎えてくれていたので、まだ耐えられていたのだけれど――それも長くは続かず。

「君との婚約は破棄とする!」

 彼はどうやら侍女らや母親から私の悪口を吹き込まれていたようで。

「君はいつも侍女を虐めているそうだね」
「していません」
「聞いたよ? 侍女らが皆言っていた」
「嘘です!」
「揃って嘘をつくものかな」
「私は虐めてなどいません!」

 もはや彼は私の味方ではなかった。

「やはり君は嘘をつく――聞いたよ、お母様は女性特有の大きな声で言えない仕事で富を築いたそうじゃないか」

 信じられなかった。
 意味が分からなかった。

 そこまで嘘をつくの?

 酷すぎる。

「その血が君にも流れているようだね。嘘をつき、媚を売り、男にたかる――まったく、話にならないよ」
「どこからそのような話が……すべて嘘です」
「信じないよ! とにかく、そんな女の娘は無理だ。だからここでおしまいにしよう」

 違うのに。
 嘘なのに。

 もう耐えられなくて、私は初めて人を憎く思った。
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