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前編

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 領地持ちの家の長女として生まれた私には、三つ年下の妹がいる。

 妹は自分を可愛いと思い込んでいる。そして、自分が異性から愛されるだろうと、当たり前のように信じている。

 そんな彼女を作り出したのは、両親の振る舞いだ。

 両親は次女である彼女を生まれた時から可愛がっていた。蝶よ花よと育ててきたのだ。また、ことあるごとに彼女を褒め倒し、彼女が異常なまでの自信を抱くように育て上げた。

 その結果、ワガママばかり言う少女が誕生してしまった。

 彼女は私にもよく絡んでくる。また、私のものに少しでも興味が湧くと、すぐに奪い取ろうとしてくる。どうやら悪意はないらしい。が、彼女は、私がすべて譲ってくれるものと思い込んでいる。だから当たり前のように奪い取りにくるのだ。

 そんな彼女だから、私の婚約者も例外ではなかった。

「お姉様! 隣町のアスベル様と婚約なさったそうね!」
「えぇ、そうよ」
「婚約者の席、わたくしに譲ってくださらない?」

 彼女はいつだって私のことを観察している。恐ろしいくらいに調べ尽くしている。そして、少しでも気になることがあれば、こうしてすぐに話しかけてくる。しかも、普通であれば言えないようなことを平然と言ってくる。

「なぜ?」
「わたくし、アスベル様のこと、ずっと好きだったの!」

 そんな話は一度も聞いたことがない。

 アスベルは共通の知り合い。もし妹がアスベルのことを好きだったのなら、少しくらいそういった話を聞いたことがあるはずだ。妹は秘密主義ではないから、好きなら好きと言っただろう。けれども、そんな話を聞いたことはない。となると、やはり、ただの思いつきなのだろう。

 彼女はそういうことを言える人だ。
 都合の良い嘘、これまで何度もつかれてきた。

 長い間近くにいたからこそ、彼女の主張が嘘であると分かる。彼女がつきそうな嘘、というのも、何となく想像することができる。
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