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やたらと虐めてくる女性に婚約者を奪われてしまいましたが、結果的にはそれで良かったです。~誰が幸せになるかなんて分からないものですよね~
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私にはやたらと虐めてくるリーファという友人がいる。
いや、友人という表現が相応しいのかは定かでないけれど。
年齢と性別が同じな子がいる。
彼女は私のことを嫌っているようなのに、そのわりには遠ざかりはせずむしろやたらと近づいてきて、敢えてあれこれ嫌みを言ってきたりしてこちらに嫌な思いをさせようとしてくるのだ。
「どうして意地悪するの?」
ある日私はリーファにそんな風に尋ねてみた。
すると。
「あんたがのろまでださくて鬱陶しいからよ」
リーファはそんな風に答えを発してきた。
でもよく分からない……。
虐めたいほど嫌いな人間になぜ敢えて近づくのか……。
「嫌いだからってこと?」
「そうよ」
「嫌いなのなら……放っておいてくれればいいのではないの?」
「埃臭いのよあんた。だからみーんな迷惑してるわ。だからね、代表としてあたしが、あんたに罰を与えてるのよ」
誰かからそういったことを言われたことはないのだけれど、本当に皆はそう思っているのだろうか? 彼女が自分の思考を勝手に皆の総意と思っているだけではないだろうか? 私の存在が迷惑だと言っている人はあまり見たことがないのだけれど、本当にそれが皆の気持ち? 彼女の思い込みではなくて?
さらに突き詰めたい部分はたくさんあったのだけれど。
「それだけよ! じゃあね」
リーファはそそくさと去っていってしまった。
どういうことなんだ……。
いつもはやたらとひっつきまわって嫌がらせてしてきているのに……。
私にはリーファがよく分からない。
――けれど、その日以降、リーファがあまり近づいてこなくなったのでそれはありがたかった。
◆
十九歳の春、私はリプテンという青年と婚約した。
リプテンは花屋の息子だ。
容姿は悪くなく女性たちからの人気も高いそうなのだが、少々だらしない雰囲気のある人で、私から見るとそこまで魅力的ではなかった。
ただ、婚約した以上、彼と生きていくということは定まったわけで。
なので私は彼を愛せるようになろうと努力した。
そうよ、悪いところばかりを見ていてはいけない。誰にだって良いところと悪いところがあるのだから。彼にだって良いところはあるはず。第一印象がそれほど良いものでなかったとしても、きっと、いつかは良い部分を見つけてゆけるはず。
そう思って彼と過ごし、段々彼の良さにも気づけるようになってきた頃――リーファがリプテンに急接近し、私よりも先に彼と深い関係になった。
そしてある日ついに私は目撃してしまう。
リプテンとリーファが一つの部屋で深くいちゃついているところを。
「リーファ……どうして……!?」
驚いてそんな声を発してしまえば。
「あら、ばれちゃった?」
リーファは一瞬驚いたような顔をしたけれど。
「あはは、でもこれが現実よ。彼、あたしを愛しているの。まぁでも分かるでしょう? 普通に考えてあんたみたいな埃臭くてだっさい娘が愛されるわけないじゃない」
彼女は開き直った。
「分かった? あんたは愛されていないって」
「……どうして、こんなこと」
「あんたは愛されないの! 分かる? あんたは一生こんな風に惨めに生きていくのよ!」
――その後婚約は破棄となった。
リーファのせいだ。
すべて彼女が壊した。
でも。
リプテンのことを心の底から愛していたわけではないので、そういう意味ではまぁこういう展開だとしても悪くはないのかもしれない。
私は出来事を前向きに捉えることにした。
だってそうだろう? 過ぎ去ったことをいつまでもこねくり回していてももやもやするだけだし辛くなるだけだ。そんなことをしていて何の意味がある? そう考えた時、そういう行為は無駄なものでしかないと分かる。
過ぎ去った闇をいつまでも見つめていても何の意味もない。
◆
結論から言おう、私はあの後とても良い人に巡り会えた。
私の結婚相手となったのは資産家の青年。
彼はとても料理が得意で柔らかな物腰が印象的な人である。
彼と婚約していた時、一時リーファが彼に近づいてきたことがあったけれど、彼はリーファにはなびかなかった。むしろはっきりと「こういうことはやめてください、迷惑です」と言ってくれて。二人の関係を邪魔しようとする彼女を凛とした態度で追い払ってくれた。
そんな彼のことだから私は真っ直ぐに信頼できている。
彼は駄目なことは駄目と言える人。
大きな声で言いたい。
本当に、本当に、素晴らしい人だと。
そして、それと同時に、尊敬もしている。
彼のような人間になりたい。
そういう思いを抱えている。
ちなみにリーファはというと、私の男に近づいてきていたけれど実はリプテンと婚約していたようだ――だがその関係も長持ちはしなかったようだ。
リーファと婚約してからのリプトンはまたまた彼女以外の女性に手を出すようになり、それでリーファは激怒、やがて婚約は破棄となる。
リプテンは一応リーファと別れたくはなかったようで「捨てないでくれ!」などと言っていたそうだが、リーファはそれを無視して婚約破棄したそう。
けれどその数日後、リーファは夜道で殺害された。
買い物の帰り道の事件であった。
――リーファを殺したのはリプテンだった。
彼は自分を捨てたリーファを恨んでいた。
復讐心を燃やしていたようで。
自分の手から離れていってしまうくらいなら自らの手で命奪ってやる、というおかしな思想に染まりきってしまっていたようだ。
――その時リプテンは既に壊れていたのかもしれない。
その後リプテンは人殺しとして牢屋送りにされ、生涯強制労働刑に処されたそうだ。
彼はこれから一生働かされ続ける。
そこに人らしい人生や自由は一切存在しない。
リーファは死に、リプテンは人として生きるという意味では死んだも同然。
二人とも幸せにはなれなかったようだ。
けれどももうどうでもいいことだ。
だって今の私には何の関係もないことだから。
◆終わり◆
いや、友人という表現が相応しいのかは定かでないけれど。
年齢と性別が同じな子がいる。
彼女は私のことを嫌っているようなのに、そのわりには遠ざかりはせずむしろやたらと近づいてきて、敢えてあれこれ嫌みを言ってきたりしてこちらに嫌な思いをさせようとしてくるのだ。
「どうして意地悪するの?」
ある日私はリーファにそんな風に尋ねてみた。
すると。
「あんたがのろまでださくて鬱陶しいからよ」
リーファはそんな風に答えを発してきた。
でもよく分からない……。
虐めたいほど嫌いな人間になぜ敢えて近づくのか……。
「嫌いだからってこと?」
「そうよ」
「嫌いなのなら……放っておいてくれればいいのではないの?」
「埃臭いのよあんた。だからみーんな迷惑してるわ。だからね、代表としてあたしが、あんたに罰を与えてるのよ」
誰かからそういったことを言われたことはないのだけれど、本当に皆はそう思っているのだろうか? 彼女が自分の思考を勝手に皆の総意と思っているだけではないだろうか? 私の存在が迷惑だと言っている人はあまり見たことがないのだけれど、本当にそれが皆の気持ち? 彼女の思い込みではなくて?
さらに突き詰めたい部分はたくさんあったのだけれど。
「それだけよ! じゃあね」
リーファはそそくさと去っていってしまった。
どういうことなんだ……。
いつもはやたらとひっつきまわって嫌がらせてしてきているのに……。
私にはリーファがよく分からない。
――けれど、その日以降、リーファがあまり近づいてこなくなったのでそれはありがたかった。
◆
十九歳の春、私はリプテンという青年と婚約した。
リプテンは花屋の息子だ。
容姿は悪くなく女性たちからの人気も高いそうなのだが、少々だらしない雰囲気のある人で、私から見るとそこまで魅力的ではなかった。
ただ、婚約した以上、彼と生きていくということは定まったわけで。
なので私は彼を愛せるようになろうと努力した。
そうよ、悪いところばかりを見ていてはいけない。誰にだって良いところと悪いところがあるのだから。彼にだって良いところはあるはず。第一印象がそれほど良いものでなかったとしても、きっと、いつかは良い部分を見つけてゆけるはず。
そう思って彼と過ごし、段々彼の良さにも気づけるようになってきた頃――リーファがリプテンに急接近し、私よりも先に彼と深い関係になった。
そしてある日ついに私は目撃してしまう。
リプテンとリーファが一つの部屋で深くいちゃついているところを。
「リーファ……どうして……!?」
驚いてそんな声を発してしまえば。
「あら、ばれちゃった?」
リーファは一瞬驚いたような顔をしたけれど。
「あはは、でもこれが現実よ。彼、あたしを愛しているの。まぁでも分かるでしょう? 普通に考えてあんたみたいな埃臭くてだっさい娘が愛されるわけないじゃない」
彼女は開き直った。
「分かった? あんたは愛されていないって」
「……どうして、こんなこと」
「あんたは愛されないの! 分かる? あんたは一生こんな風に惨めに生きていくのよ!」
――その後婚約は破棄となった。
リーファのせいだ。
すべて彼女が壊した。
でも。
リプテンのことを心の底から愛していたわけではないので、そういう意味ではまぁこういう展開だとしても悪くはないのかもしれない。
私は出来事を前向きに捉えることにした。
だってそうだろう? 過ぎ去ったことをいつまでもこねくり回していてももやもやするだけだし辛くなるだけだ。そんなことをしていて何の意味がある? そう考えた時、そういう行為は無駄なものでしかないと分かる。
過ぎ去った闇をいつまでも見つめていても何の意味もない。
◆
結論から言おう、私はあの後とても良い人に巡り会えた。
私の結婚相手となったのは資産家の青年。
彼はとても料理が得意で柔らかな物腰が印象的な人である。
彼と婚約していた時、一時リーファが彼に近づいてきたことがあったけれど、彼はリーファにはなびかなかった。むしろはっきりと「こういうことはやめてください、迷惑です」と言ってくれて。二人の関係を邪魔しようとする彼女を凛とした態度で追い払ってくれた。
そんな彼のことだから私は真っ直ぐに信頼できている。
彼は駄目なことは駄目と言える人。
大きな声で言いたい。
本当に、本当に、素晴らしい人だと。
そして、それと同時に、尊敬もしている。
彼のような人間になりたい。
そういう思いを抱えている。
ちなみにリーファはというと、私の男に近づいてきていたけれど実はリプテンと婚約していたようだ――だがその関係も長持ちはしなかったようだ。
リーファと婚約してからのリプトンはまたまた彼女以外の女性に手を出すようになり、それでリーファは激怒、やがて婚約は破棄となる。
リプテンは一応リーファと別れたくはなかったようで「捨てないでくれ!」などと言っていたそうだが、リーファはそれを無視して婚約破棄したそう。
けれどその数日後、リーファは夜道で殺害された。
買い物の帰り道の事件であった。
――リーファを殺したのはリプテンだった。
彼は自分を捨てたリーファを恨んでいた。
復讐心を燃やしていたようで。
自分の手から離れていってしまうくらいなら自らの手で命奪ってやる、というおかしな思想に染まりきってしまっていたようだ。
――その時リプテンは既に壊れていたのかもしれない。
その後リプテンは人殺しとして牢屋送りにされ、生涯強制労働刑に処されたそうだ。
彼はこれから一生働かされ続ける。
そこに人らしい人生や自由は一切存在しない。
リーファは死に、リプテンは人として生きるという意味では死んだも同然。
二人とも幸せにはなれなかったようだ。
けれどももうどうでもいいことだ。
だって今の私には何の関係もないことだから。
◆終わり◆
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