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私が強い剣使いであることなんて前から知っていたではないですか。なぜ今になってそれを問題視するのですか? 不自然ですよ。
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私は幼い頃から剣を持つのが好きだった。
それゆえ長年剣を手に戦って生きてきた。
女性らしくない、そう言われても。それでも、私は剣を握ることを愛していた。だから、他人からあれこれ言われても、それほど気にはしなかった。らしくない、なんて、他人の中の価値観。それは私の人生に深く関わるものではない。彼らだってきっと単なる思いつきで軽い気持ちで言っているのであって、本気で私が剣を握ることをとめようなんて考えてはいないだろう。
そんな状態で迎えたある平凡な日。
「エリーナ、お前、どんだけ野蛮なんだよ」
婚約者ゴッツが急にそんなことを言ってきた。
「……何の話?」
「お前さ、もう少し可憐にできねぇの?」
「可憐? まぁ……無理よね、私には。そういうのは」
そう言えば、急に声を荒くされる。
「もっとお淑やかになれよ!!」
ゴッツはなぜか怒っていた。
「どうしたのよ、急に」
「お前みたいなやつ嫁に貰う側の気持ちにもなってくれよ!」
「すべて分かっていて婚約したのでしょう?」
「そうだけど……でも嫌なんだよ! お前みたいな野蛮人! 妻にしたら絶対に一生笑われる! 恥掻くだけだ!」
少し前まではゴッツだって私のしてきたことを認めてくれていたのに。
「誰かに笑われたの?」
「……いや」
「本当? 何かあったのなら言ってちょうだい」
「うるせえ! 何もねえ! けどいずれ何か言われそうで嫌なんだ! こええんだよ!」
散々怒鳴った果てに。
「てことで、お前との婚約は破棄することにしたから」
彼は少しだけ静けさを取り戻しそう言った。
「もう俺の前に二度と現れないでくれよな」
「え、ちょ、本気!?」
「本気。これでおしまいにしたいんだ、関係」
「……信じられない」
「だとしてもこれが現実なんだよ。剣使いの女なんて、俺より強い女なんて――生理的に無理」
こうして私たちの関係は解消となってしまった。
生理的に無理――その言葉が何度も脳内でこだまする。
そのたびに溜め息ばかり出てしまって。
こんなでは駄目だと思っていても、意識して顔を上げることは難しかった。
だが、そんな私には、想像を遥かに超えた出会いが待っていた。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ、はい……致命傷などは負っていません」
「良かった」
「ありがとう、ございます……!」
ある仕事の最中、魔物に襲われていた綺麗な金髪の青年を助けて。
「貴女は――女性だというのに、お強いですね」
実はその青年が王子で。
彼に見初められることとなったのだ。
「僕の妻になっていただきたいのです」
戦いの地での小さな出会いが、思わぬ展開を連れてきた。
「……はい、お願いします」
こうして私は王子の妻となったのだった。
◆
あれから数年、私は今も王子と愛し合っている。
王城での暮らしにももう慣れてきた。
最初こそストレスもあったけれど今はもうそこまで感じない。
何より、王子が色々フォローしてくれるので、順調に生活できているのだ。
「見て! エリーナ様よ!」
「今日も凛々しくてお美しいですわぁ~」
「この前不審者を一瞬で制圧なさったそうですわよ、んもぉ~、素晴らしすぎるぅ~」
「神々しいですわね」
「好き過ぎぃ」
また、普通に暮らしていただけなのに、なぜか女性ファンも発生。
でも受け入れてもらえることはありがたいことだ。
そういえば。
ゴッツはあの後森の散歩中凶暴化した魔物に襲われて内臓を抜かれて死亡したそうだ。
戦える人間が傍にいれば助かったかもしれないのになぁ、なんて思ったりした。
◆終わり◆
それゆえ長年剣を手に戦って生きてきた。
女性らしくない、そう言われても。それでも、私は剣を握ることを愛していた。だから、他人からあれこれ言われても、それほど気にはしなかった。らしくない、なんて、他人の中の価値観。それは私の人生に深く関わるものではない。彼らだってきっと単なる思いつきで軽い気持ちで言っているのであって、本気で私が剣を握ることをとめようなんて考えてはいないだろう。
そんな状態で迎えたある平凡な日。
「エリーナ、お前、どんだけ野蛮なんだよ」
婚約者ゴッツが急にそんなことを言ってきた。
「……何の話?」
「お前さ、もう少し可憐にできねぇの?」
「可憐? まぁ……無理よね、私には。そういうのは」
そう言えば、急に声を荒くされる。
「もっとお淑やかになれよ!!」
ゴッツはなぜか怒っていた。
「どうしたのよ、急に」
「お前みたいなやつ嫁に貰う側の気持ちにもなってくれよ!」
「すべて分かっていて婚約したのでしょう?」
「そうだけど……でも嫌なんだよ! お前みたいな野蛮人! 妻にしたら絶対に一生笑われる! 恥掻くだけだ!」
少し前まではゴッツだって私のしてきたことを認めてくれていたのに。
「誰かに笑われたの?」
「……いや」
「本当? 何かあったのなら言ってちょうだい」
「うるせえ! 何もねえ! けどいずれ何か言われそうで嫌なんだ! こええんだよ!」
散々怒鳴った果てに。
「てことで、お前との婚約は破棄することにしたから」
彼は少しだけ静けさを取り戻しそう言った。
「もう俺の前に二度と現れないでくれよな」
「え、ちょ、本気!?」
「本気。これでおしまいにしたいんだ、関係」
「……信じられない」
「だとしてもこれが現実なんだよ。剣使いの女なんて、俺より強い女なんて――生理的に無理」
こうして私たちの関係は解消となってしまった。
生理的に無理――その言葉が何度も脳内でこだまする。
そのたびに溜め息ばかり出てしまって。
こんなでは駄目だと思っていても、意識して顔を上げることは難しかった。
だが、そんな私には、想像を遥かに超えた出会いが待っていた。
「大丈夫ですか!」
「あ、ああ、はい……致命傷などは負っていません」
「良かった」
「ありがとう、ございます……!」
ある仕事の最中、魔物に襲われていた綺麗な金髪の青年を助けて。
「貴女は――女性だというのに、お強いですね」
実はその青年が王子で。
彼に見初められることとなったのだ。
「僕の妻になっていただきたいのです」
戦いの地での小さな出会いが、思わぬ展開を連れてきた。
「……はい、お願いします」
こうして私は王子の妻となったのだった。
◆
あれから数年、私は今も王子と愛し合っている。
王城での暮らしにももう慣れてきた。
最初こそストレスもあったけれど今はもうそこまで感じない。
何より、王子が色々フォローしてくれるので、順調に生活できているのだ。
「見て! エリーナ様よ!」
「今日も凛々しくてお美しいですわぁ~」
「この前不審者を一瞬で制圧なさったそうですわよ、んもぉ~、素晴らしすぎるぅ~」
「神々しいですわね」
「好き過ぎぃ」
また、普通に暮らしていただけなのに、なぜか女性ファンも発生。
でも受け入れてもらえることはありがたいことだ。
そういえば。
ゴッツはあの後森の散歩中凶暴化した魔物に襲われて内臓を抜かれて死亡したそうだ。
戦える人間が傍にいれば助かったかもしれないのになぁ、なんて思ったりした。
◆終わり◆
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