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ことあるごとに私を悪者にしてきていた母はざまぁな最期を迎えたようです。

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 母は非常に面倒臭く不愉快極まりない人だった。

 彼女は娘である私をことあるごとに悪者であるかのように仕立て上げてくる。些細なことでも無理矢理私のせいであるかのように話を構成し、何回も執拗に私を批判するのだ。それも明らかに不自然な流れでしかないの話だとしてもである。

 そんな母と共に暮らす日々、それは、正直あまり良いものとは言えなかった。

 また、ある時は、婚約者との関係を自分勝手な理由で壊された。何でも母はその男性のことを好いていなかったようなのだ。私と彼は良い関係を築いていたのに、母が彼に意味不明なことをぎゃあぎゃあと言ったことで婚約は破棄となってしまった。

 その一件以降、私はより一層母を嫌うようになった。

 表向きは母の理解者であるかのように振る舞っておく。そうしないと奇声を発して怒られるから。ある意味それは生存戦略なのだ。ただし、心は決して彼女へは捧げない。

 笑顔で接している時も、共感する言葉を並べている時も、心の中では母を刺し貫いている。

 当たり前だろう?

 私を縛り付ける者。
 私を悪であるかのようにわざとらしくほのめかす者。

 許すわけがない、そんな人間を。

 母には地獄へ堕ちてもらう。
 申し訳ないけれど。
 子にも心はあるのだ、子も人なのだ、娘だから何をされても母を愛せるなんていうのは幻想でしかない。


 ◆


 二十五の春、私のもとへやって来た婚約希望。

 私はそれに乗ることにした。
 経済的に豊かな彼とであれば生きてゆけると思ったからである。

 母から逃れるには家から出るしかない。ならばこれは良い機会だ。あの悪魔のような母から逃れる絶好のチャンスがついに巡ってきた。これを逃すというのは惜し過ぎる選択。選ばなければ、心決めなくては、きっとこの闇と絶望から逃れることはできない。

 ――そうよ、私は私の人生を生きる。

 だから私は彼のもとへ行くことにした。

「来てくれてありがとう!」
「いえ」

 私は彼と婚約し、結婚した。

 母とはもう会わなくていい。
 そう思うだけで毎日楽しかった。

 これで私は自由。

 そうよ、もうあの女の奴隷ではない。


 ◆


 あれから数年、母の訃報を聞いた。

 事実上サンドバッグであった私を失った母はストレス発散の対象を父に移したようで、私がいなくなってから母はやたらと父に喚き散らすようになったそう。

 それである時ついに反撃されて。
 父の連続パンチが母の顔面に直撃し、母は眼球を失うこととなったそうだ。

 また、その後も何度かそういったことがあり、そのたびに母は身体の機能を失ってしまうこととなっていったらしく――次第に彼女は自立した生活をすることさえままならない状態になっていってしまったそうだ。

 そうしてやがて寝たきりに近い状態となった母は父から離婚を切り出され、彼女はついに一人ぼっちになってしまった。

 健康な肉体はない。
 まともに生活できる状態でもない。

 そんな母は頼れる人などいない状態で生きなくてはならないこととなってしまったのだが――もちろんまともに生きられるはずもなく――路上に倒れたまま飢え死にするという最期を迎えたそうだ。

 ま、でも自業自得というものだろう。

 結局それが彼女の人生の成果だったのだ。
 彼女がやってきたことが積み重なってそういう最期となった、ただそれだけのことである。

 夫にも娘にも相手にされず一人寂しく死んでいくというのはどんな気分だろう?

 ……もっとも、もう興味なんてないのだが。


◆終わり◆
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