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己の愛するものへの理解が一切ない人と生きてゆくのは難しいものですよね。~理解者を探すのが結果的には効率的ですね~
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私ティアナは生まれた時からハエトリグモ神の加護を受けていた。
子どもの頃からやたらとハエトリグモに遭遇していたことも、今思えばそのことがが影響していたのだろう。
そんな事情もありハエトリグモという生き物に馴染んで育った私は、十八の春、ミッドレークという青年と婚約することとなったのだが。
「ハエトリグモ? 可愛いだって? あり得ねぇよ。そんなことを言ったって、結局は蜘蛛だろ? 毒はない? 呆れた。毒があるかないかなんて問題じゃねぇって、分かんねぇかな。そんな気持ちわりぃもん飼ってる女なんて無理だわ。あたおかだわ」
ミッドレークは私のハエトリグモ愛に一切理解を示してくれず。
「気持ちわりぃ女と一生を共にする気なんてねぇからさ。ここではっきり言わせてもらうことにするな」
「え」
「ちゃんと聞いておけよ、重要なことだからな」
「は、はい……」
しまいには。
「婚約は破棄とする!」
そう宣言されてしまった。
少しでも理解を示そうとしてくれれば、もっと、私としても色々説明できたのに。そうすれば彼にも少しくらいはハエトリグモの良さに気づいてもらえたかもしれないのに。彼の中でのハエトリグモの印象が多少は良くなる可能性だってあっただろうに。
――でも、一切聞く耳を持たない人が相手では何もできやしない。
話せて、聞いてもらえて。すべてはそこから始まるのだ。だからそれを根本からぶった切るようなことをする人が相手だと改善なんてどうやってもできやしないのである。
「キモい女はさっさと俺の視界から消えてくれ」
そんな心ない言葉を最後に、私たち二人の関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
これは噂で聞いた話だが、あの後ミッドレークには、ハエトリグモ神より天罰が下ったようだった。
いびきをかきながら眠っていた彼の口腔内に大量の野生のハエトリグモが侵入、彼らが気道を塞ぎ、それによってミッドレークは呼吸ができない状態となってしまい――翌朝死亡しているのが確認されたそうだ。
そんなことは滅多にない。
寝ている人の口にハエトリグモが入るなんてことはかなりの低確率だ。
にもかかわらずそういうことが起きたというのは、恐らく、ハエトリグモ神の意思が関係しているのだろうと思われる。
だがまさか命まで奪われるとは……。
恐るべし、ハエトリグモ神。
◆
婚約破棄より数年、私は今、良き理解者である夫と共に自宅でのんびりまったりハエトリグモのお世話をしている。
水分不足防止用の濡れた綿花を変え、カップを掃除し、餌をやり――と、何かと忙しい日々だが、それもまた生きる楽しさである。
私はこれからも穏やかに生きてゆく。
温かな夫、愛おしいハエトリグモ、そんな大切な存在たちと暮らせる幸福を抱き締めながら。
◆終わり◆
子どもの頃からやたらとハエトリグモに遭遇していたことも、今思えばそのことがが影響していたのだろう。
そんな事情もありハエトリグモという生き物に馴染んで育った私は、十八の春、ミッドレークという青年と婚約することとなったのだが。
「ハエトリグモ? 可愛いだって? あり得ねぇよ。そんなことを言ったって、結局は蜘蛛だろ? 毒はない? 呆れた。毒があるかないかなんて問題じゃねぇって、分かんねぇかな。そんな気持ちわりぃもん飼ってる女なんて無理だわ。あたおかだわ」
ミッドレークは私のハエトリグモ愛に一切理解を示してくれず。
「気持ちわりぃ女と一生を共にする気なんてねぇからさ。ここではっきり言わせてもらうことにするな」
「え」
「ちゃんと聞いておけよ、重要なことだからな」
「は、はい……」
しまいには。
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そう宣言されてしまった。
少しでも理解を示そうとしてくれれば、もっと、私としても色々説明できたのに。そうすれば彼にも少しくらいはハエトリグモの良さに気づいてもらえたかもしれないのに。彼の中でのハエトリグモの印象が多少は良くなる可能性だってあっただろうに。
――でも、一切聞く耳を持たない人が相手では何もできやしない。
話せて、聞いてもらえて。すべてはそこから始まるのだ。だからそれを根本からぶった切るようなことをする人が相手だと改善なんてどうやってもできやしないのである。
「キモい女はさっさと俺の視界から消えてくれ」
そんな心ない言葉を最後に、私たち二人の関係は終わりを迎えてしまったのだった。
◆
これは噂で聞いた話だが、あの後ミッドレークには、ハエトリグモ神より天罰が下ったようだった。
いびきをかきながら眠っていた彼の口腔内に大量の野生のハエトリグモが侵入、彼らが気道を塞ぎ、それによってミッドレークは呼吸ができない状態となってしまい――翌朝死亡しているのが確認されたそうだ。
そんなことは滅多にない。
寝ている人の口にハエトリグモが入るなんてことはかなりの低確率だ。
にもかかわらずそういうことが起きたというのは、恐らく、ハエトリグモ神の意思が関係しているのだろうと思われる。
だがまさか命まで奪われるとは……。
恐るべし、ハエトリグモ神。
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水分不足防止用の濡れた綿花を変え、カップを掃除し、餌をやり――と、何かと忙しい日々だが、それもまた生きる楽しさである。
私はこれからも穏やかに生きてゆく。
温かな夫、愛おしいハエトリグモ、そんな大切な存在たちと暮らせる幸福を抱き締めながら。
◆終わり◆
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