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婚約者の浮気相手が現れ、崖から突き落としてきました。それで、その時は転落死を覚悟したのですが……?
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「あんたなんてねぇ! ウイールシュ様に愛されていないのよ! だから消え失せなさい、邪魔なのよ!」
婚約者ウイールシュが浮気していたようで、その相手と思われる女性イリーナに崖から突き落とされた。
それほど高さのある崖ではない。
飛び下りてもイコール死ではないくらいの高さ。
けれども私は死を覚悟した。
なんせ防具もつけず崖から転落するのだ――もし死ななかったとしても死に近いくらいの状態になってしまう可能性がかなり高い。
「ふん。ウイールシュ様にはあたしがいればいいのよ」
――それが落ちてゆく中で聞いたイリーナの言葉であった。
◆
数日後、自宅にて目覚めた。
「良かった! 気がついたのね!」
「母さん……」
「崖から落とされるなんて、信じられなかった。でも……死んでしまうかと思ったわ。う、う、ううっ……」
母は私の生還を喜び泣いていた。
申し訳ないな。
心配させてしまって。
「っ……、う、うう……、本当に良かった……」
「心配させてごめんなさい母さん」
「いいのよ、貴女は何も悪くないわ」
「え」
「だって突き落とされたのでしょう!? ウイールシュくんの浮気相手の女に!!」
ああそうか、母はもうすべてを知っているのか。
「目撃者がいたのよ、それで情報が入ったわ」
「そうだったの」
「許せなかった。可愛い娘に手を出す人間も、そんなことを招いた元凶も。だから――もう二人には死んでもらった後よ」
全身に電撃が走るような感覚。
「ええっ!?」
思わず大きな声を発してしまって、乾いた喉にぴきりとひびが入りそうだった。
それから私はウイールシュとイリーナがどうなったかを聞いた。
私に何が起きたのか。
その真実を知った父は激怒したそうだ。
そんな父は元特殊部隊の知人を介して依頼を出し、ウイールシュとイリーナを誘拐させたそうだ。
そして二人を山小屋に閉じ込め、数日にわたって罰を与えた。拷問のようなことをしたのである。
ウイールシュはその途中で事切れたそうだが。
拷問で死ななかったイリーナに関しては、後日、雇った元処刑人に頼んで命を刈り取り山に埋めたそうだ。
そして今に至っているらしい。
だから、ウイールシュもイリーナも、もうこの世にはいないのである。
「そんなことになっていたなんて……」
「急にいろんな話を伝えてごめんなさいね、目覚めたばかりなのに。疲れたわよね」
「ううん。母さん、教えてくれてありがとう」
私とウイールシュの婚約は彼の死によってほぼ自動的に破棄となったようだ。
◆
あれから数年、若い領主の青年と結婚した。
彼とは共通の趣味があった。
それで出会ってすぐ仲良しになれた。
彼とであれば明るい未来を見つめていられる、そう信じられる。
春風のような心で生きてゆこう。
◆終わり◆
婚約者ウイールシュが浮気していたようで、その相手と思われる女性イリーナに崖から突き落とされた。
それほど高さのある崖ではない。
飛び下りてもイコール死ではないくらいの高さ。
けれども私は死を覚悟した。
なんせ防具もつけず崖から転落するのだ――もし死ななかったとしても死に近いくらいの状態になってしまう可能性がかなり高い。
「ふん。ウイールシュ様にはあたしがいればいいのよ」
――それが落ちてゆく中で聞いたイリーナの言葉であった。
◆
数日後、自宅にて目覚めた。
「良かった! 気がついたのね!」
「母さん……」
「崖から落とされるなんて、信じられなかった。でも……死んでしまうかと思ったわ。う、う、ううっ……」
母は私の生還を喜び泣いていた。
申し訳ないな。
心配させてしまって。
「っ……、う、うう……、本当に良かった……」
「心配させてごめんなさい母さん」
「いいのよ、貴女は何も悪くないわ」
「え」
「だって突き落とされたのでしょう!? ウイールシュくんの浮気相手の女に!!」
ああそうか、母はもうすべてを知っているのか。
「目撃者がいたのよ、それで情報が入ったわ」
「そうだったの」
「許せなかった。可愛い娘に手を出す人間も、そんなことを招いた元凶も。だから――もう二人には死んでもらった後よ」
全身に電撃が走るような感覚。
「ええっ!?」
思わず大きな声を発してしまって、乾いた喉にぴきりとひびが入りそうだった。
それから私はウイールシュとイリーナがどうなったかを聞いた。
私に何が起きたのか。
その真実を知った父は激怒したそうだ。
そんな父は元特殊部隊の知人を介して依頼を出し、ウイールシュとイリーナを誘拐させたそうだ。
そして二人を山小屋に閉じ込め、数日にわたって罰を与えた。拷問のようなことをしたのである。
ウイールシュはその途中で事切れたそうだが。
拷問で死ななかったイリーナに関しては、後日、雇った元処刑人に頼んで命を刈り取り山に埋めたそうだ。
そして今に至っているらしい。
だから、ウイールシュもイリーナも、もうこの世にはいないのである。
「そんなことになっていたなんて……」
「急にいろんな話を伝えてごめんなさいね、目覚めたばかりなのに。疲れたわよね」
「ううん。母さん、教えてくれてありがとう」
私とウイールシュの婚約は彼の死によってほぼ自動的に破棄となったようだ。
◆
あれから数年、若い領主の青年と結婚した。
彼とは共通の趣味があった。
それで出会ってすぐ仲良しになれた。
彼とであれば明るい未来を見つめていられる、そう信じられる。
春風のような心で生きてゆこう。
◆終わり◆
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