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ある日、徒歩で自宅へ帰っていたら、見知らぬ女に襲われました。~こんなところで死ぬのは嫌です~

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「死ねええええええ!!」

 ある日、徒歩で自宅へ帰っていたら、見知らぬ女に襲われた。

「え――」

 身に突き立てられるのは刃。
 月光に照らされた銀色。

 闇の中、意識が遠退いてゆく――。

 死ぬのか? 私は。こんなところで? 誰にも愛されず、誰にも知られず、一人寂しく……。悪いことなんてせずに生きてきた、悪行を重ねてきたわけではないはず、なのに……どうして? 私が何をしたというのか。どうしてただの女でしかない私が殺されなくてはならない……?


 ◆


 ――結論から言おう、私は死なずに済んだ。

 倒れていたところにたまたま通りかかった王子ブレイクフルトが救ってくれたのである。

「助かられたようで良かったです」
「殿下……」
「治療は順調だそうですね」
「はい」
「血を流して倒れていましたから驚きましたよ」
「すみません……」
「いえいえ、そうではなくてですね。……でも、本当に良かった。間に合ってほっとしました」

 ブレイクフルトは見ず知らずの女を救うほど優しい人だった。

「ゆっくり療養なさってくださいね」
「あ、はい……すみません、お気遣いありがとうございます」

 すべては彼のおかげだ。
 助けてもらったからこそ今日があり命がある。

 その後、あの時私を殺そうとした女性が我が婚約者アルトと裏で付き合っていた女性であると判明し、それによって私とアルトの婚約は破棄となった。

 女性は既に殺人未遂で処刑されている。

 でも、それでも、アルトと共に生きてゆく未来はなかった。


 ◆


 あれから数年、私は、思わぬ展開ではあったがブレイクフルトと結婚した。

 治療を受けさせてもらっていた期間中は特別なことなんてなくて。でも、私が実家に戻って間もなく、彼から連絡があったのだ。どうしても忘れられない、と。それは将来を見据えて関わっていきたいという申し出であった。

 そこから話は進み始めて、結婚するにまで至ったのだ。

 貴女と共に生きてゆきたい。
 そう言われた時は困り果ててしまったけれど。

 でも私はやがてそれを受け入れて。

 王子の妻として生きてゆく、その道を選んだ。

 ちなみにアルトはというと。
 私たちの結婚披露パレードの際に路上へ怪しい瓶を投げ込んだために拘束され、危険行為を行ったということで後日処刑された。


◆終わり◆
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