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婚約は破棄されてしまいましたが、その数週間後運命的な出会いがありました。~私たちきっと幸せに生きてゆけるわ~(前編)
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「来たなルルア」
「はい」
それはある晩のことだった。
婚約者であるウォーリテッドに呼び出されて。
「では今からじゃんけんを行う」
夜風が強まる中で当たり前のように真剣な顔でそんなことを言われ、ただただ戸惑うことしかできず。
「いくぞ!」
「待ってください、一体何ですか? どういう話ですか?」
「いや、だから、じゃんけんしてどっちかが主張を通す会だ」
「何ですかそれ……。私、そんなのに参加する気はありませんけど……」
「いいからいくぞ! じゃーんけーん――」
強制的に始まってしまう謎のじゃんけん対決。
もしかしてこれは……理不尽なことを押し付けられる系のやつでは……?
嫌な予感しかしない。
「ぽん!!」
――勝った!
よし、これでややこしいことを言われずに済む! と思ったのだが。
「お前の勝ちだな」
「はい」
「では負けたこちらが主張する!」
「えええ!?」
めちゃくちゃではないか、負けたほうが主張できる側になるなんて。
「負けた方が、なのですか?」
「当たり前だろう」
「それはさすがに……ちょっと、意外すぎます……」
「はは。だがそれは絶対的なことだ。ということで――お前との婚約、破棄とするッ!!」
ウォーリテッドは胸を張りながらはっきりとそんなことを述べた。
どういうこと……。
「こ、婚約破棄? ですか?」
「ああそうだ」
「またどうして。急ですね。突然過ぎませんか」
「は? 突然なのは当然だろうが。だからこそじゃんけんをしてから言ったのだから」
「そ、そうですか……」
ウォーリテッドは鼻の穴を膨らませてはすはす鳴らしつつ偉そうに仁王立ちしている。
「つまりそういうことだ。ははは。分かったな?」
「……ちょっと理解が追いつきません」
「ま、どうでもいいさ。理解なんて。本当にどうでもいい。だって、そんなものはどうでもいいことで何の関係もないからな」
こうして私は身勝手に捨てられた。
「お前と生きてはいかない。俺はもっと良い女を得るのだ。お前以上の女を探して手に入れ、より幸福に生きてゆく」
彼は最後まで心なかった。
◆
「あのっ、ハンカチ落としましたよ」
ウォーリテッドに婚約破棄された日からちょうど二週間が過ぎたある日のこと、道端で一人の可愛らしい雰囲気の青年から声をかけられる。
「……あ! ありがとうございます」
「これ、貴女のですよね」
「はいそうです。教えていただけ助かりました。危うく後で気づいて困るところでした」
春の日射しのような彼はサーンと名乗った。
「お礼と言っては何ですが、よければ少しお茶でもどうです? もしよければ一杯だけでも。奢らせてください」
「それは……! 良いですね」
「良かった。ではあそこのお店へ入りませんか? 私、あそこのお店、実は結構好きなんです」
「そうでしたか! ……ではぜひ、お願いします」
私たちの心の間に障壁はほとんどなかった。
なぜだろう、出会ったばかりなのにずっと前から知っていたかのようなそんな不思議な感覚。
「はい」
それはある晩のことだった。
婚約者であるウォーリテッドに呼び出されて。
「では今からじゃんけんを行う」
夜風が強まる中で当たり前のように真剣な顔でそんなことを言われ、ただただ戸惑うことしかできず。
「いくぞ!」
「待ってください、一体何ですか? どういう話ですか?」
「いや、だから、じゃんけんしてどっちかが主張を通す会だ」
「何ですかそれ……。私、そんなのに参加する気はありませんけど……」
「いいからいくぞ! じゃーんけーん――」
強制的に始まってしまう謎のじゃんけん対決。
もしかしてこれは……理不尽なことを押し付けられる系のやつでは……?
嫌な予感しかしない。
「ぽん!!」
――勝った!
よし、これでややこしいことを言われずに済む! と思ったのだが。
「お前の勝ちだな」
「はい」
「では負けたこちらが主張する!」
「えええ!?」
めちゃくちゃではないか、負けたほうが主張できる側になるなんて。
「負けた方が、なのですか?」
「当たり前だろう」
「それはさすがに……ちょっと、意外すぎます……」
「はは。だがそれは絶対的なことだ。ということで――お前との婚約、破棄とするッ!!」
ウォーリテッドは胸を張りながらはっきりとそんなことを述べた。
どういうこと……。
「こ、婚約破棄? ですか?」
「ああそうだ」
「またどうして。急ですね。突然過ぎませんか」
「は? 突然なのは当然だろうが。だからこそじゃんけんをしてから言ったのだから」
「そ、そうですか……」
ウォーリテッドは鼻の穴を膨らませてはすはす鳴らしつつ偉そうに仁王立ちしている。
「つまりそういうことだ。ははは。分かったな?」
「……ちょっと理解が追いつきません」
「ま、どうでもいいさ。理解なんて。本当にどうでもいい。だって、そんなものはどうでもいいことで何の関係もないからな」
こうして私は身勝手に捨てられた。
「お前と生きてはいかない。俺はもっと良い女を得るのだ。お前以上の女を探して手に入れ、より幸福に生きてゆく」
彼は最後まで心なかった。
◆
「あのっ、ハンカチ落としましたよ」
ウォーリテッドに婚約破棄された日からちょうど二週間が過ぎたある日のこと、道端で一人の可愛らしい雰囲気の青年から声をかけられる。
「……あ! ありがとうございます」
「これ、貴女のですよね」
「はいそうです。教えていただけ助かりました。危うく後で気づいて困るところでした」
春の日射しのような彼はサーンと名乗った。
「お礼と言っては何ですが、よければ少しお茶でもどうです? もしよければ一杯だけでも。奢らせてください」
「それは……! 良いですね」
「良かった。ではあそこのお店へ入りませんか? 私、あそこのお店、実は結構好きなんです」
「そうでしたか! ……ではぜひ、お願いします」
私たちの心の間に障壁はほとんどなかった。
なぜだろう、出会ったばかりなのにずっと前から知っていたかのようなそんな不思議な感覚。
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