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婚約破棄って、そういうことですか!? 友人に婚約者を奪われました。~復讐は意外な形で~
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「――ってことで、お前との婚約は破棄するわ」
現代日本で生まれ育った私は、その日、婚約者より関係の終わりを告げられた。
しかもその理由が、今彼の傍らにいる女だ。
「ごっめんねぇ? こんなことになっちゃってぇ。でもぉ……あたしが奪ったわけじゃないから。あたし惚れられちゃっただけだからぁ~、だからぁ、あたしは悪くないのぉ~。捨てられたからって勘違いして逆恨みとかしちゃ駄目だからね?」
その女は友人でもあった。
しかし彼女は裏でこっそり私の婚約者に近づいており、機をみて掠め盗ったのである。
「逆恨みで手を出すとか絶対にやめろよ」
「しないわ、そんなこと」
「あっそ。ならいいわ。じゃあな、ばいばい~」
どうして私がこんな目に……。
さすがに手を出したりはしない。どんなに憎い人にでも越えてはならない一線というものは存在するから。そこをまたいでしまえばこちらが犯罪者だ、だからしない。
ただ、虚しさや悔しさは、どうしても抱えてしまう。
落ち込みながら歩いていたところ――。
「ねぇ、きみ!」
路上で急に得体のしれない生き物から声をかけられた。
「世界を守る戦いに挑んでくれないかい」
「……はい?」
ねずみのような生き物が二足で立ってこちらを見ている。
「力を貸してほしいんだ!」
「すみません、失礼しま――って、ぎゃあああ!! いたあああ!!」
逃げようとしたら噛み付かれてしまった。
結構本気噛みである。
「待ってよ、話を聞いてよ」
「噛まないでください……病気になったらどうするんです……」
「大丈夫だよ! ぼくはこんな見た目だけど本物のねずみではないからね、菌なんて持っていないよ」
「そ、そうですか……」
まぁ、確かに、ねずみは言葉を話さないけれど。
「きみには力を貸してもらうよ」
「いやいや急過ぎますよそれ、しかも勝手に……」
「実はきみに力を借りるってことはもう決まっているんだ」
「えええー……」
こうして私は世界を守るべく戦わされることとなった――しかも異世界転移した先で。
◆
生まれ育った世界とは別の世界で、戦士となり、世界のために戦う。
そんなことを言われてもすぐに受け入れられるはずもない。
だがそれも当然だろう、なんせ私は先ほどまでいたって普通の女でしかなかったのだから。
戦う?
世界を守る?
無理だ、そんなの。
私は何度もそう訴えたけれど、ねずみのようなあの生き物は「大丈夫だよ!」と笑顔を作るばかりであった。
だが、転移後、衝撃の展開が待っていた。
「「え――」」
私のデビュー戦ともいえる戦いの敵は、元友人で婚約者を奪った彼女だったのだ。
「どうして貴女が……」
「意味わかんないわよねぇ~」
「貴女も……転移して?」
「そうみたいなのぉ。なんでもぉ、あなたを倒さなくっちゃならないみたいなのよぉ。だ、か、ら、ごめんねぇ?」
どうやら味方ではないようだ。
でもそういうことなら好都合、それに安堵した。
彼女と味方になるなんて絶対に嫌だから。
「さっさと殺してあげるわねぇ!」
彼女は魔法を放ってくる――咄嗟に防御壁を張り、そこから反撃に出る。
「はぁッ!!」
魔法で作り出した剣で、憎い彼女の身体を切り刻む。
「せい!」
「ぎゃっ」
「はぁ!」
「いやあああ」
「ふっ!」
「痛い、痛い、痛いぃぃぃ……どうしてぇ、もうやめてえええええ……!」
これは復讐だ。
愛する人を奪った彼女への。
「まだよ!」
「うあぁん」
「まだ終わりにはしない……貴女が死ぬまで、切り刻み続けてあげるわ! はあぁぁぁぁぁ!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁっ」
――こうして私は初めての戦いに勝利したのであった。
「さすがのセンスだね! ぼくが見込んだ女性だけあるよ」
「……あの人は許せない人だったんです」
「おや、知り合いかい? しかも、何かあったのかい?」
「ええ……とても、言いたくもないようなことです。彼女は悪女でした。最低な泥棒猫」
ねずみのような生き物は「そうだったんだ」とだけ言って、静かに笑みを滲ませていた。
どういう反応なの、それ……。
「ま、これから一緒に頑張っていこうよ」
「そうですね」
「相変わらず静かだなぁ」
「嬉しいことではないですので。ただ、もうこうなってしまった以上仕方ないですから、やることはやりますよ」
つい先日まで普通に生きていたのに、人生とは分からないものだ。
その後も私はたくさんの戦場を乗り越えた。
女も男も敵はたくさんいた。
異形のような者たちと戦って。
そしてやがて巡り会う――元婚約者の彼に。
「彼女を殺したのはお前らしいな」
「ええ、けど仕方のないことよ。あちらから攻撃してきたんだもの。戦わないことはできなかった……」
「絶対に許さん」
「私だって、あなたたちのことは許していないわ」
「彼女がされたように、お前をずたずたにしてやる。今度はお前が痛い目に遭う番だ」
彼もまた、敵として私の前に現れた。
でも良かった。
その方が躊躇せず傷つけることができる。
どうやら神様は私を見離してはいなかったようだ。
直接復讐するチャンスをもらえるだなんて、ラッキー。
「覚悟しろよ悪女!!」
「こっちの台詞!!」
――結果、私は彼を生け捕りすることに成功した。
武装解除したので彼はもう何もできない。
「な、なぁ……やめてくれよ、何するつもりなんだよそんな……そんな、針だらけの剣とか取り出して……」
彼は私が手にしている武器を見てかなりびくびくしていた。
「復讐よ」
「や……やめて、くれよ……婚約してた仲、だろ……?」
「私を傷つけたことを後悔させるわ」
「ど、どうして……やめないんだ……。あ、ああ、あ、悪魔ッ!!」
彼は鼻水を垂らしながら叫ぶ。
「そうね、悪魔かもしれないわ」
今はもう何と言われてもどうでもいい。
「でもいいじゃない。貴方が作り出した悪魔なのだから」
針のついた剣で彼の身を叩く。
「ぎゃ! う、ああ! ぎゃ! ぐ、べ、ぶ、ぼ、ぢ……うべぼばぁ! ぁっ、ぎゃあああ! きぃ、くぅ、ぎゃ! ……っ、ふ、ぅ……ぎゃぎゃぎゃぎゃ! い、ったたたたた! ああ! あああ! ぐ、ぎゅ、がああああッ!」
こうして元婚約者の彼への復讐も終わった。
恨んできた人たちは皆滅んだ。
もう二度と会うことはないだろう。
そう思うと心が軽くなった。
――よし、これからも頑張ろう。
その時の私はやる気に満ちていたのだった。
◆
あれから五年、世界を守る戦いにほぼ一人で勝利を収めた私は、王子から感謝を述べられさらに彼のもとで贅沢な日々を享受しながら生きてゆけることとなった。
今や私はこの世界における英雄である。
皆から愛され、私は生きてゆく。
もう過去を振り返る必要はない。
だってこの世界こそが私が生きるべき世界なのだから。
◆終わり◆
現代日本で生まれ育った私は、その日、婚約者より関係の終わりを告げられた。
しかもその理由が、今彼の傍らにいる女だ。
「ごっめんねぇ? こんなことになっちゃってぇ。でもぉ……あたしが奪ったわけじゃないから。あたし惚れられちゃっただけだからぁ~、だからぁ、あたしは悪くないのぉ~。捨てられたからって勘違いして逆恨みとかしちゃ駄目だからね?」
その女は友人でもあった。
しかし彼女は裏でこっそり私の婚約者に近づいており、機をみて掠め盗ったのである。
「逆恨みで手を出すとか絶対にやめろよ」
「しないわ、そんなこと」
「あっそ。ならいいわ。じゃあな、ばいばい~」
どうして私がこんな目に……。
さすがに手を出したりはしない。どんなに憎い人にでも越えてはならない一線というものは存在するから。そこをまたいでしまえばこちらが犯罪者だ、だからしない。
ただ、虚しさや悔しさは、どうしても抱えてしまう。
落ち込みながら歩いていたところ――。
「ねぇ、きみ!」
路上で急に得体のしれない生き物から声をかけられた。
「世界を守る戦いに挑んでくれないかい」
「……はい?」
ねずみのような生き物が二足で立ってこちらを見ている。
「力を貸してほしいんだ!」
「すみません、失礼しま――って、ぎゃあああ!! いたあああ!!」
逃げようとしたら噛み付かれてしまった。
結構本気噛みである。
「待ってよ、話を聞いてよ」
「噛まないでください……病気になったらどうするんです……」
「大丈夫だよ! ぼくはこんな見た目だけど本物のねずみではないからね、菌なんて持っていないよ」
「そ、そうですか……」
まぁ、確かに、ねずみは言葉を話さないけれど。
「きみには力を貸してもらうよ」
「いやいや急過ぎますよそれ、しかも勝手に……」
「実はきみに力を借りるってことはもう決まっているんだ」
「えええー……」
こうして私は世界を守るべく戦わされることとなった――しかも異世界転移した先で。
◆
生まれ育った世界とは別の世界で、戦士となり、世界のために戦う。
そんなことを言われてもすぐに受け入れられるはずもない。
だがそれも当然だろう、なんせ私は先ほどまでいたって普通の女でしかなかったのだから。
戦う?
世界を守る?
無理だ、そんなの。
私は何度もそう訴えたけれど、ねずみのようなあの生き物は「大丈夫だよ!」と笑顔を作るばかりであった。
だが、転移後、衝撃の展開が待っていた。
「「え――」」
私のデビュー戦ともいえる戦いの敵は、元友人で婚約者を奪った彼女だったのだ。
「どうして貴女が……」
「意味わかんないわよねぇ~」
「貴女も……転移して?」
「そうみたいなのぉ。なんでもぉ、あなたを倒さなくっちゃならないみたいなのよぉ。だ、か、ら、ごめんねぇ?」
どうやら味方ではないようだ。
でもそういうことなら好都合、それに安堵した。
彼女と味方になるなんて絶対に嫌だから。
「さっさと殺してあげるわねぇ!」
彼女は魔法を放ってくる――咄嗟に防御壁を張り、そこから反撃に出る。
「はぁッ!!」
魔法で作り出した剣で、憎い彼女の身体を切り刻む。
「せい!」
「ぎゃっ」
「はぁ!」
「いやあああ」
「ふっ!」
「痛い、痛い、痛いぃぃぃ……どうしてぇ、もうやめてえええええ……!」
これは復讐だ。
愛する人を奪った彼女への。
「まだよ!」
「うあぁん」
「まだ終わりにはしない……貴女が死ぬまで、切り刻み続けてあげるわ! はあぁぁぁぁぁ!」
「うあぁぁぁぁぁぁぁっ」
――こうして私は初めての戦いに勝利したのであった。
「さすがのセンスだね! ぼくが見込んだ女性だけあるよ」
「……あの人は許せない人だったんです」
「おや、知り合いかい? しかも、何かあったのかい?」
「ええ……とても、言いたくもないようなことです。彼女は悪女でした。最低な泥棒猫」
ねずみのような生き物は「そうだったんだ」とだけ言って、静かに笑みを滲ませていた。
どういう反応なの、それ……。
「ま、これから一緒に頑張っていこうよ」
「そうですね」
「相変わらず静かだなぁ」
「嬉しいことではないですので。ただ、もうこうなってしまった以上仕方ないですから、やることはやりますよ」
つい先日まで普通に生きていたのに、人生とは分からないものだ。
その後も私はたくさんの戦場を乗り越えた。
女も男も敵はたくさんいた。
異形のような者たちと戦って。
そしてやがて巡り会う――元婚約者の彼に。
「彼女を殺したのはお前らしいな」
「ええ、けど仕方のないことよ。あちらから攻撃してきたんだもの。戦わないことはできなかった……」
「絶対に許さん」
「私だって、あなたたちのことは許していないわ」
「彼女がされたように、お前をずたずたにしてやる。今度はお前が痛い目に遭う番だ」
彼もまた、敵として私の前に現れた。
でも良かった。
その方が躊躇せず傷つけることができる。
どうやら神様は私を見離してはいなかったようだ。
直接復讐するチャンスをもらえるだなんて、ラッキー。
「覚悟しろよ悪女!!」
「こっちの台詞!!」
――結果、私は彼を生け捕りすることに成功した。
武装解除したので彼はもう何もできない。
「な、なぁ……やめてくれよ、何するつもりなんだよそんな……そんな、針だらけの剣とか取り出して……」
彼は私が手にしている武器を見てかなりびくびくしていた。
「復讐よ」
「や……やめて、くれよ……婚約してた仲、だろ……?」
「私を傷つけたことを後悔させるわ」
「ど、どうして……やめないんだ……。あ、ああ、あ、悪魔ッ!!」
彼は鼻水を垂らしながら叫ぶ。
「そうね、悪魔かもしれないわ」
今はもう何と言われてもどうでもいい。
「でもいいじゃない。貴方が作り出した悪魔なのだから」
針のついた剣で彼の身を叩く。
「ぎゃ! う、ああ! ぎゃ! ぐ、べ、ぶ、ぼ、ぢ……うべぼばぁ! ぁっ、ぎゃあああ! きぃ、くぅ、ぎゃ! ……っ、ふ、ぅ……ぎゃぎゃぎゃぎゃ! い、ったたたたた! ああ! あああ! ぐ、ぎゅ、がああああッ!」
こうして元婚約者の彼への復讐も終わった。
恨んできた人たちは皆滅んだ。
もう二度と会うことはないだろう。
そう思うと心が軽くなった。
――よし、これからも頑張ろう。
その時の私はやる気に満ちていたのだった。
◆
あれから五年、世界を守る戦いにほぼ一人で勝利を収めた私は、王子から感謝を述べられさらに彼のもとで贅沢な日々を享受しながら生きてゆけることとなった。
今や私はこの世界における英雄である。
皆から愛され、私は生きてゆく。
もう過去を振り返る必要はない。
だってこの世界こそが私が生きるべき世界なのだから。
◆終わり◆
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