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晩餐会で婚約破棄宣言をしたうえ悪いところを熱く語るなんて、どうかしていると思います。

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「お前との婚約は破棄とする!!」

 暗い緑色の髪が特徴的な婚約者ベリグリッツはある晩餐会にて胸を張りながら宣言した。

「え……」
「聞こえなかったのか? だとしたら、重度の難聴だな」
「いえ、そうではなくて、ですね」
「じゃあ何なんだ」
「いきなり婚約破棄って……どういうことなのですか?」

 あまりにも唐突で、それが疑問だったので、取り敢えず尋ねてみた。

 すると彼は語り出す。

「お前は顔面はまぁほどほどで悪くはない。が、忠誠心が薄いし、まず男への奉仕の心がなさすぎる。女なら普通は男に対して忠実でありたいものだろう? それも俺のような偉大な男が相手ならなおさら。言われたことは何でもする、意見はすべて受け入れる、男のありとあらゆる言動を尊重し敬愛の眼差しを向ける――それが本来あるべき女の姿ではないか」

 話はとても長かった。
 周囲の晩餐会参加者たちも引いている。

「なのにお前にはそれがない。それがどういうことか分かるか? ――そう、お前には女としての価値が一切ない、ということだ」
「えええ……、それはさすがに言い過ぎでは」
「事実だから仕方ないだろう」
「そう、ですか」

 言えば、ベリグリッツの機嫌は急激に良くなった。

「ああ! そうだ! そういうことだ! 分かったな? がははは!」

 婚約破棄は唐突に。

 災害みたいなものだろう。
 衝撃的な出来事ほどいつやって来るか分からないというものだ。

 でも、まぁ、これもまた運命。

 ならば前を向いて歩む外ない。


 ◆


「僕と結婚してください!!」

 ベリグリッツとの婚約が破棄になった翌日、一人の青年が私の前に現れた。

 ぼんやりとだが見覚えのある顔。
 そしてやがて気づく。
 かつて一緒に遊んだことのある男の子、彼こそがその青年なのだと。

「僕のこと、覚えてる?」
「ええ……昔よく遊んだわよね、すみれが丘で」
「わあ! 覚えてくれてたんだ! やったぁ」
「貴方も私を覚えてくれていたの?」

 そう、彼は幼馴染みだった。

「うん。ずっと覚えてた。ずっと好きだったよ、あの頃からずっと……でもあの頃は言えなかった。好き、なんて……」

 丘を駆けまわっていたあの頃。

 とても懐かしい。

 忘れたことはない。
 今でもとても愛おしい記憶だ。

「あの頃から、って……そんな、そんな前から想ってくれていたというの?」
「うん。ごめん、びっくりさせて」
「いいえ、いいの、けど……あの頃はまだ、私たち、子どもだったじゃない」
「でも好きだったんだよ」
「そうだったのね」

 子どもの頃は普通の男の子だった彼だけれど、今は大会社の社長にまで上り詰めていた。

「偉くなって、いつかきみに想いを伝えようって思って。それでここまで頑張ってきたんだ」

 ベリグリッツとは終わってしまった。
 けれども人生が叩き壊されたわけではない。

「そうだったの……!」
「僕を相手に選んでくれない、かな?」

 物語はまた始まってゆく。


 ◆


 あの後大会社の社長となっていた元幼馴染みの彼と結婚した私は、経済的な豊かさを手に入れ、また、同時に心地よい居場所も手に入れることに成功した。

 彼の想いは本物だった。

 言葉だけでなら何とでも言える、そういうものだ。けれども彼の言葉はただの言葉ではなかった。飾るための言葉ではないし、私を釣るための餌としての都合の良い言葉というわけでもなくて。

 彼は純粋に私を愛してくれていた。

 そういえば先日ベリグリッツに関する情報を得たのだが。
 彼は浮気をして婚約破棄されたうえその憂さ晴らしに街中で痴漢を繰り返したために治安維持組織に捕まり、罪人となり、社会的な評判も地に堕とすこととなってしまったそうだ。

 彼は今、牢屋の中。

 最低でも二十年は出してもらえない予定だそうだ。

 ベリグリッツの若い時代は牢屋暮らしで完全終了となるだろう。


◆終わり◆
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