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婚約破棄して妹に乗り換えるというだけでも問題ですが、役立たずの雑魚とか言うなんてなおさら酷いですね。
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「お前なんかなぁ、役立たずの雑魚女なんだよ」
「え……」
その瞬間は何の前触れもなくやって来た。
「分かるか、リーン。お前は無能なんだ」
「ええ……」
「よって、お前との婚約は破棄する!!」
婚約者オウィーガンは高らかに宣言。
周囲からは「何あれ……?」とか「ここでそういうのする……? ないわー」などといった声が聞こえてくる。この状況、出来事を、皆は冷めた目で見ているようである。
ちょっと恥ずかしい……。
それに何だかとても申し訳ない……。
「で、俺はだな、この後改めて妹さんと婚約する」
「妹……?」
「ああそうだ。お前の、な。お前はくず雑魚だが、妹さんは可愛らしくて素晴らしい理想的な女性だ」
妹は確かに可愛い容姿の持ち主だ。
しかし性格はお世辞にも良いとは言えない。
次の相手、それでいいのか……?
世の中を広く見て探せばきっともっと良い女性がいると思うのだが。
「つまり、妹に乗り換える、ということですね」
「ああそうだ」
「そうですか……それが本当の婚約破棄の理由なのでしょうね」
「ま、それもあるな」
ということは、私が何を言っても無駄なことは決定だろう。
「分かりました。ではそういうことで。私はこれで――」
「それでは自分が彼女を妻とします」
言いかけて、遮られる。
でも、私の言葉を遮ったその声は、オウィーガンのものではない。
「とてもお美しい女性が自由になられて幸運でした」
気づけば背後に知らない男性。
良い身形をしているがどことなくミステリアスな人物が笑みを浮かべて立っていた。
「ありがとう、オウィーガンくん」
何が起きた? 何なんだ、これは。どういう展開? どういう話? 意味不明過ぎる……。まず彼のことを知らないし、それに、妻とする、って……何それ、どういうこと? 私の意見は関係なしなのか? 彼はそれほどの権力者? いやいや、でも、取り敢えず私の意見も聞いてほしいのだが。
そんなことをあれこれ考えながらも、私は彼に誘われて会場を後にすることとなった。
◆
「あの、貴方一体……どなたなのですか? それに、妻とする、なんて。正直なところを言いますと意味不明です。私は貴方の妻となる予定もないですし!」
場所を移動し男性と二人になって、思っていたことをようやく口から出すことができた。
「ああ、あれは……申し訳ありませんでした」
男性は思っていたよりも誠実な人で。
「私を買われるつもりですか?」
「いえそうではなくてですね」
「では何なのですか」
「そうですね。――順を追って説明しましょう」
事情をきちんと説明してくれた。
「そうですか、では、私を助けてくださったのですね」
「急なことで驚かせてしまいすみませんでした」
「いえ……こちらこそ、失礼なことを申してしまいました、すみませんでした」
彼は高貴な人だった。
柔らかな笑みが印象的な人だ。
「それで、妻にするというのは、本当にしてくださるのですか?」
「え」
「あ、あれは言っただけですか」
「いえ、ですが……お嫌でしょう? 貴女は。こんな急に現れた男となど」
少し間を空けてしまったが。
「不審者でないなら大丈夫です」
そう答えると。
「不審者、て」
彼は視線を少し私から逸らして苦笑した。
「アイリーンと申します」
「自分の名は先ほども言った通りエルリッヒエーゲルですが、長いので、好きなように略してください」
◆
あれから数年。
私はあの時の話の通りエルリッヒエーゲルの妻となり、彼の愛を日々浴びながら穏やかに生きている。
私は彼を愛している。
だからこれからもずっと彼と共に在りたい。
いつまでも、ずっと、共に在れることを祈って……。
ああそうだ、そういえば、だが。
オウィーガンと妹は結婚後間もなく離婚した。
離婚の原因となったのは妹がありとあらゆることに関してわがままを言い続けたということだったようだ。
妹の自分勝手さに耐えられるほどオウィーガンの心は広くなかったのだろう。
ちなみにオウィーガンはというと、その後間もなく夜の散歩中に何者かに押され崖から転落して死亡した。
また、実家へ戻ってきていた妹も、ある日ふらりと家を出ていったきり帰ってこなくなり――親が捜索したところ数日後に亡骸となって発見されたそうだ。
なぜ死んだのか。
誰が殺したのか。
その辺りは不明のままだそうだ。
◆終わり◆
「え……」
その瞬間は何の前触れもなくやって来た。
「分かるか、リーン。お前は無能なんだ」
「ええ……」
「よって、お前との婚約は破棄する!!」
婚約者オウィーガンは高らかに宣言。
周囲からは「何あれ……?」とか「ここでそういうのする……? ないわー」などといった声が聞こえてくる。この状況、出来事を、皆は冷めた目で見ているようである。
ちょっと恥ずかしい……。
それに何だかとても申し訳ない……。
「で、俺はだな、この後改めて妹さんと婚約する」
「妹……?」
「ああそうだ。お前の、な。お前はくず雑魚だが、妹さんは可愛らしくて素晴らしい理想的な女性だ」
妹は確かに可愛い容姿の持ち主だ。
しかし性格はお世辞にも良いとは言えない。
次の相手、それでいいのか……?
世の中を広く見て探せばきっともっと良い女性がいると思うのだが。
「つまり、妹に乗り換える、ということですね」
「ああそうだ」
「そうですか……それが本当の婚約破棄の理由なのでしょうね」
「ま、それもあるな」
ということは、私が何を言っても無駄なことは決定だろう。
「分かりました。ではそういうことで。私はこれで――」
「それでは自分が彼女を妻とします」
言いかけて、遮られる。
でも、私の言葉を遮ったその声は、オウィーガンのものではない。
「とてもお美しい女性が自由になられて幸運でした」
気づけば背後に知らない男性。
良い身形をしているがどことなくミステリアスな人物が笑みを浮かべて立っていた。
「ありがとう、オウィーガンくん」
何が起きた? 何なんだ、これは。どういう展開? どういう話? 意味不明過ぎる……。まず彼のことを知らないし、それに、妻とする、って……何それ、どういうこと? 私の意見は関係なしなのか? 彼はそれほどの権力者? いやいや、でも、取り敢えず私の意見も聞いてほしいのだが。
そんなことをあれこれ考えながらも、私は彼に誘われて会場を後にすることとなった。
◆
「あの、貴方一体……どなたなのですか? それに、妻とする、なんて。正直なところを言いますと意味不明です。私は貴方の妻となる予定もないですし!」
場所を移動し男性と二人になって、思っていたことをようやく口から出すことができた。
「ああ、あれは……申し訳ありませんでした」
男性は思っていたよりも誠実な人で。
「私を買われるつもりですか?」
「いえそうではなくてですね」
「では何なのですか」
「そうですね。――順を追って説明しましょう」
事情をきちんと説明してくれた。
「そうですか、では、私を助けてくださったのですね」
「急なことで驚かせてしまいすみませんでした」
「いえ……こちらこそ、失礼なことを申してしまいました、すみませんでした」
彼は高貴な人だった。
柔らかな笑みが印象的な人だ。
「それで、妻にするというのは、本当にしてくださるのですか?」
「え」
「あ、あれは言っただけですか」
「いえ、ですが……お嫌でしょう? 貴女は。こんな急に現れた男となど」
少し間を空けてしまったが。
「不審者でないなら大丈夫です」
そう答えると。
「不審者、て」
彼は視線を少し私から逸らして苦笑した。
「アイリーンと申します」
「自分の名は先ほども言った通りエルリッヒエーゲルですが、長いので、好きなように略してください」
◆
あれから数年。
私はあの時の話の通りエルリッヒエーゲルの妻となり、彼の愛を日々浴びながら穏やかに生きている。
私は彼を愛している。
だからこれからもずっと彼と共に在りたい。
いつまでも、ずっと、共に在れることを祈って……。
ああそうだ、そういえば、だが。
オウィーガンと妹は結婚後間もなく離婚した。
離婚の原因となったのは妹がありとあらゆることに関してわがままを言い続けたということだったようだ。
妹の自分勝手さに耐えられるほどオウィーガンの心は広くなかったのだろう。
ちなみにオウィーガンはというと、その後間もなく夜の散歩中に何者かに押され崖から転落して死亡した。
また、実家へ戻ってきていた妹も、ある日ふらりと家を出ていったきり帰ってこなくなり――親が捜索したところ数日後に亡骸となって発見されたそうだ。
なぜ死んだのか。
誰が殺したのか。
その辺りは不明のままだそうだ。
◆終わり◆
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