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『そっとしておいてください、私、貴女の居場所を奪ったりしませんから。~殺してしまおうとするなんて酷いですね~』
親が王家に仕えていたことから自然な流れで王子アルフレッセントのもとで働くこととなったのだが、そこで一生懸命働いているうちにアルフレッセントより評価されてしまい、それによって彼の婚約者である女性メイリーンから嫌われてしまった。
「あんたねぇ、アルフレッセント様にすり寄ってんじゃないわよ!」
私は最近なるべくアルフレッセントと関わらないようにしている。しかしメイリーンの怒りは収まらない。彼女はたびたび私の前に現れて絡んでくる。心ない言葉を吐いてきたり、攻撃的なことを言ってきたり、そんなことばかりする。
「すり寄ってはいません」
そっとしておいてくれればいいのに……。
「何よ! 彼に好かれて勘違いしてるんでしょ!?」
「いえ、違います」
正直鬱陶しいと思ってしまう部分もある。けれども反撃はなるべくしないようにしていた。そんなことをした日にはなおさらややこしいことになると分かっていたからだ。最低限の反論はすることもあるけれど、それ以上のことは言わないよう意識している。
「じゃあ何なの!? アルフレッセント様のこと好きなんでしょ? はっきり言いなさいよ、本当のことを!」
「仕事をしているだけです」
「はああ!? ふざけんじゃないわよ!!」
「本当です、ご理解ください」
「嘘つき! 嘘つき嘘つき嘘つき女! 殿下に近寄る穢れた娘! ふざけんじゃないわよ、今すぐ視界から消えなさいよ!」
メイリーンはそう言うけれど……アルフレッセントのもとから去ることはできないのだ。
なぜなら、配置移動は禁止されているから。
私だってこのややこしい位置から離れたいと思うこともある。申し出たこともあった。けれども上司は認めてくれなかったし、アルフレッセントも駄目だの一点張り。そんなだから私は今もここにいるのだ。
――そんなある日、私は殺されかけた。
王城の廊下を歩いていた時だ。
突如接近してきた謎の男に包丁を向けられ刺されそうになり、何とか回避したが腕を少し斬られた。
だが幸い犯人はすぐ捕まって。
その取り調べによりメイリーンの指示による殺人未遂であったことが判明。
それによってアルフレッセントは激怒し、メイリーンとの婚約を破棄した。
「どうして! どうしてなのよおおおお! 私、何も悪くないじゃない、悪いのは全部あの女でしょ? 真面目に働いて評価されて……殿下にも気にかけてもらって、狡い狡い狡いのよおおおおおおおお!」
婚約破棄されたメイリーンは発狂した。
その後私はアルフレッセントより結婚したいと言われたが断った。いかにもメイリーンの居場所を奪ったみたいで気まずいと思ったからだ。
そんな私が王子の旧友で現近衛隊長の青年と親しくなり愛し合うようになるのは、まだ少し先の話――。
◆終わり◆
『婚約者のいる男に近づくような女がまともなわけないじゃないですか……普通に考えれば分かることですよね?』
会うたびに嫌みやちょっとした悪口を言ってくる婚約者レビフィンは、ある夏の日突如婚約破棄を告げ、さらに私の妹であるアイーナと婚約することにしたという意向を明らかにした。
そう、彼は、私を捨ててアイーナを選んだのである。
私の婚約期間中から二人は実は裏で繋がっていた。
そしてそれを明るみに出すタイミングがその夏だったのだ。
私は何も知らなかった。
私だけが愚かだった。
ちくちくと嫌な思いをさせられながらでもレビフィンと生きてゆくものと思っていた私の忍耐の日々は一体何だったのか……。
「俺はさ、アイーナが好きなんだ。アイーナはお前と違ってとっても可愛いし女としても魅力的なんだよ。枯れ木みたいなお前とは大違い。姉妹とは思えないくらいの差があるんだよ、女として、な」
「んふふ! お姉さまにはもっと相応しい殿方がいるはずですわ。たとえば、とーっても年がうえのおじいさんみたいな方とか? 口臭で誰にも相手にされない男とか? そういう方とくっつけばちょうどいいんですわ」
レビフィンもアイーナも私を馬鹿にするような言葉を発するばかり。
どうしてなの?
どうしてそんなに酷いことばかり言えるの?
二人の残酷さを、二人の心の汚さを、私はどうしても理解できなかった。
◆
婚約破棄から間もなく、事情を知って激怒した親戚のおばさんが一人の青年を紹介してくれた。
好青年だった。
爽やかな見た目の軍人である。
軍人といっても、何の躊躇いもなく下ネタを披露したり痴漢しまくったり知り合い女性の家に侵入して拘束されるような人ではない。
これまで出会ったことのないタイプの男性であった彼に、私はすぐに心を奪われた。
そして私は彼を生涯のパートナーとすることを決意した。
私はもう立ち止まらない。
過去を振り返ることもしない。
ただ、突き進む。
◆
あれから二年ほどが経った。
聞いた話によればレビフィンとアイーナはスピード離婚したそうだ。
何でもアイーナの浮気が離婚の理由となったらしい。
レビフィンは「何だあの軽い女!」と激怒していたようだけれど、正直自業自得だと思う。
だって……婚約者のいる男に近づくような女よ?
そんな女がまともなわけがない。
実の妹に対してこんなことを言いたくはないが……実際そうなのだ、アイーナは軽い女だ。
遊びにはちょうどいいだろう。
けれども生涯を共にするに相応しいかといえば分からない。
アイーナは離婚後実家へ戻ろうとしたが両親に「もう娘じゃない! 姉の婚約者に手を出すような最低な女の顔は見たくない!」と言われ戻らせてもらえず、その後は身一つで生きてゆくこととなったようだ。
また、レビフィンは、浮気の件で精神を病んでしまったそう。
酷い情緒不安定のせいで自宅にこもっていることしかできないような状態らしい。しばらく療養してはいるが、今もまだ両親以外と関わることはとてもできないような状態のままだそうだ。また、診ている医師からは「回復の見込み無し」とまで言われているとか。
◆終わり◆
親が王家に仕えていたことから自然な流れで王子アルフレッセントのもとで働くこととなったのだが、そこで一生懸命働いているうちにアルフレッセントより評価されてしまい、それによって彼の婚約者である女性メイリーンから嫌われてしまった。
「あんたねぇ、アルフレッセント様にすり寄ってんじゃないわよ!」
私は最近なるべくアルフレッセントと関わらないようにしている。しかしメイリーンの怒りは収まらない。彼女はたびたび私の前に現れて絡んでくる。心ない言葉を吐いてきたり、攻撃的なことを言ってきたり、そんなことばかりする。
「すり寄ってはいません」
そっとしておいてくれればいいのに……。
「何よ! 彼に好かれて勘違いしてるんでしょ!?」
「いえ、違います」
正直鬱陶しいと思ってしまう部分もある。けれども反撃はなるべくしないようにしていた。そんなことをした日にはなおさらややこしいことになると分かっていたからだ。最低限の反論はすることもあるけれど、それ以上のことは言わないよう意識している。
「じゃあ何なの!? アルフレッセント様のこと好きなんでしょ? はっきり言いなさいよ、本当のことを!」
「仕事をしているだけです」
「はああ!? ふざけんじゃないわよ!!」
「本当です、ご理解ください」
「嘘つき! 嘘つき嘘つき嘘つき女! 殿下に近寄る穢れた娘! ふざけんじゃないわよ、今すぐ視界から消えなさいよ!」
メイリーンはそう言うけれど……アルフレッセントのもとから去ることはできないのだ。
なぜなら、配置移動は禁止されているから。
私だってこのややこしい位置から離れたいと思うこともある。申し出たこともあった。けれども上司は認めてくれなかったし、アルフレッセントも駄目だの一点張り。そんなだから私は今もここにいるのだ。
――そんなある日、私は殺されかけた。
王城の廊下を歩いていた時だ。
突如接近してきた謎の男に包丁を向けられ刺されそうになり、何とか回避したが腕を少し斬られた。
だが幸い犯人はすぐ捕まって。
その取り調べによりメイリーンの指示による殺人未遂であったことが判明。
それによってアルフレッセントは激怒し、メイリーンとの婚約を破棄した。
「どうして! どうしてなのよおおおお! 私、何も悪くないじゃない、悪いのは全部あの女でしょ? 真面目に働いて評価されて……殿下にも気にかけてもらって、狡い狡い狡いのよおおおおおおおお!」
婚約破棄されたメイリーンは発狂した。
その後私はアルフレッセントより結婚したいと言われたが断った。いかにもメイリーンの居場所を奪ったみたいで気まずいと思ったからだ。
そんな私が王子の旧友で現近衛隊長の青年と親しくなり愛し合うようになるのは、まだ少し先の話――。
◆終わり◆
『婚約者のいる男に近づくような女がまともなわけないじゃないですか……普通に考えれば分かることですよね?』
会うたびに嫌みやちょっとした悪口を言ってくる婚約者レビフィンは、ある夏の日突如婚約破棄を告げ、さらに私の妹であるアイーナと婚約することにしたという意向を明らかにした。
そう、彼は、私を捨ててアイーナを選んだのである。
私の婚約期間中から二人は実は裏で繋がっていた。
そしてそれを明るみに出すタイミングがその夏だったのだ。
私は何も知らなかった。
私だけが愚かだった。
ちくちくと嫌な思いをさせられながらでもレビフィンと生きてゆくものと思っていた私の忍耐の日々は一体何だったのか……。
「俺はさ、アイーナが好きなんだ。アイーナはお前と違ってとっても可愛いし女としても魅力的なんだよ。枯れ木みたいなお前とは大違い。姉妹とは思えないくらいの差があるんだよ、女として、な」
「んふふ! お姉さまにはもっと相応しい殿方がいるはずですわ。たとえば、とーっても年がうえのおじいさんみたいな方とか? 口臭で誰にも相手にされない男とか? そういう方とくっつけばちょうどいいんですわ」
レビフィンもアイーナも私を馬鹿にするような言葉を発するばかり。
どうしてなの?
どうしてそんなに酷いことばかり言えるの?
二人の残酷さを、二人の心の汚さを、私はどうしても理解できなかった。
◆
婚約破棄から間もなく、事情を知って激怒した親戚のおばさんが一人の青年を紹介してくれた。
好青年だった。
爽やかな見た目の軍人である。
軍人といっても、何の躊躇いもなく下ネタを披露したり痴漢しまくったり知り合い女性の家に侵入して拘束されるような人ではない。
これまで出会ったことのないタイプの男性であった彼に、私はすぐに心を奪われた。
そして私は彼を生涯のパートナーとすることを決意した。
私はもう立ち止まらない。
過去を振り返ることもしない。
ただ、突き進む。
◆
あれから二年ほどが経った。
聞いた話によればレビフィンとアイーナはスピード離婚したそうだ。
何でもアイーナの浮気が離婚の理由となったらしい。
レビフィンは「何だあの軽い女!」と激怒していたようだけれど、正直自業自得だと思う。
だって……婚約者のいる男に近づくような女よ?
そんな女がまともなわけがない。
実の妹に対してこんなことを言いたくはないが……実際そうなのだ、アイーナは軽い女だ。
遊びにはちょうどいいだろう。
けれども生涯を共にするに相応しいかといえば分からない。
アイーナは離婚後実家へ戻ろうとしたが両親に「もう娘じゃない! 姉の婚約者に手を出すような最低な女の顔は見たくない!」と言われ戻らせてもらえず、その後は身一つで生きてゆくこととなったようだ。
また、レビフィンは、浮気の件で精神を病んでしまったそう。
酷い情緒不安定のせいで自宅にこもっていることしかできないような状態らしい。しばらく療養してはいるが、今もまだ両親以外と関わることはとてもできないような状態のままだそうだ。また、診ている医師からは「回復の見込み無し」とまで言われているとか。
◆終わり◆
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