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性格が悪すぎる婚約者に日々傷つけられてもうすべてを諦めながら生きていたのですが……あるパーティーにて奇跡が舞い降りまして!?
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「俺はさぁ、優しいからお前みたいな良いとこないやつとでも婚約してやって付き合ってやってんだよ? 分かるか?」
婚約者モルフローレンはいつも威張っていてしかもたびたび見下してくる。
家柄は悪くはない。
しかし性格はかなり悪い。
どんな環境で育ったらここまで性格が悪くなるのだろう、なんて疑問を抱くほどに、彼の性格は悪の色に染まっている。
婚約者を侮辱することに長けている、なんて、誰も喜ばないし幸せにもならない――そんなことくらい大人なら分かるだろうに。
ただ、私は彼と婚約してしまったので、もうどうしようもなかった。
だから仕方がないと諦めていた。
これが私の人生なのだ。
きっと一生あれこれ言われ傷つけられながら歩んでいくしかないのだ。
絶望しながらも、諦めという意味で受け入れている私は確かに存在していて。
無難に生きてきたのにこんな目に遭わされるなんて。理不尽過ぎる。そんなことはこれまでにもう何度も思ったけれど。でも段々心も麻痺してきて、こんなものかと思うようになっていったのだ。
人の心とは意外と強いもので、傷つくことにも段々慣れるものだ。
同じパターンでのダメージならなおさら。
すべて諦めてしまえばいい。
夢なんてみなければいいし、期待なんてしなければいい。
そうすれば傷つかない。
そうすれば痛みも減る。
それでいい、そう思って私は生きていた――。
◆
モルフローレンと生きてゆく絶望の中で生きていた私に、ある時、転機が訪れた。
その出来事は、彼と共に参加した王家主催のパーティーにて起こった。
「何してんだお前! 馬鹿だろ! あっちの赤いジュースを取ってこいって言っただろうが! おいこら!」
「ちょ、ちょっと……あの、モルフローレンさんっ……お願いです、ここであまり大きな声を出すのは……」
私は指示された通りの物を取ってくることができずそれによって怒られてしまった。
「はぁ!? 口ごたえするのか!? この俺に!?」
「ち、違います、ただ……皆から見られていますので……!」
皆からじろじろ見られるのが恥ずかしくて、つい意見を言ってしまって。
「ふざけんなお前ッ!!」
殴られる――!!
近く顔面に走るであろう痛みを予感する、が。
「やめなさい!」
一人の男性がモルフローレンが振り抜こうとした拳を掴みその動きを止めてくれた。
「何をしているのですか!」
さらりとした金髪が特徴的な男性は鋭く注意を言い放つ。
「はぁ? 何だお前、入ってくるな!」
「落ち着いてください」
「これは罰なんだ! そいつが馬鹿だから! 躾ってのは大事なもんなんだよ、邪魔するな!」
良い身形の金髪男性は冷静に対応している。
「躾? それはただの暴力ですよ」
彼は私を助けてくれた。
モルフローレンが私に危害を加えようとしているのに気づいて止めてくれたのは彼が初めて。
これは驚くべき初経験である。
「やめなさい」
「邪魔だ! これは俺ら二人の問題なんだから、お前なんざ関係ない! 入ってくるな!」
モルフローレンが攻撃的にそう言い放てば、男性は冷ややかに彼を睨んだ。
「愚かな。私には貴方をここから追い出す権限があるのですよ? 暴れるような方は許しません、容赦なく追放します」
そして彼は自分が王子エッフェルであると明かす。
「な……お、王子……だと……!?」
「我々が主催する会において、貴方のような野蛮な方は参加者として不要です」
「何てこと言いやがる! くそ生意気野郎!」
「侮辱するのなら去っていただきます。――そこの者、この男を連れ出しなさい!」
エッフェルは係員にそう命じた。
すると係員の男たちは一斉にモルフローレンを取り囲み、やがて、それぞれの腕を使って四肢を拘束する。
「大丈夫でしたか、お嬢さん」
「あ……は、はい」
「あの男は一体? 関係者ですか?」
「はい……そうです……婚約者です。すみません、せっかくのパーティーなのにお騒がせしてしまって……」
エッフェルは優しかった。
「いえ、貴女に非はありませんよ」
優しく微笑みかけてくれた。
「あの婚約者、もしかして、いつもあのような振る舞いをしているのではありませんか?」
しかも、モルフローレンに関する話まで踏み込んでくれて。
「……はい、その、でも私のせいなんです。私が無能で、それで……」
「それはそう思わされているのですよ、恐らく」
「え」
「彼がそのようなことをいつも言っているのではないですか?」
「そんな感じです……」
「やはり。では気になさらないでください。貴女に非はありません、そして、貴女に悪いところもありません」
励ましてくれ、さらに、その先まで。
「婚約、本当は破棄したいのではないですか?」
彼はそこまで踏み込んできてくれる。
「嫌なのではないですか? あのような男と生きてゆくのは」
そう言われた時、心が震えた。
モルフローレンと離れたい――かつて強く抱いていたその想いが少しずつ蘇ってくる。
もう諦めたはずだった。
もう捨てたはずだった。
でももしかしたらまだ生き延びていたのかもしれない、その感情は。
「……でももう諦めました」
蓋をしていただけだったのかもしれない。
「駄目ですよ、そんなこと。一度きりの人生ですから、愛されて、幸せになるべきです」
エッフェルにそう言われると。
「無理なんです!」
らしくなく調子を強めてしまって。
「本当にそうなのでしょうか?」
「……え」
しかしエッフェルは怒りはせず。
「もし貴女が望むなら、協力しますよ」
「きょ、きょう……りょく……?」
「私が力になりますから、婚約破棄しましょうよ」
逆に前向きな提案を出してくれた。
その後私は王子エッフェルの協力を得てモルフローレンとの婚約を破棄した。
まさか自分が捨てられる側だとは思っていなかったのだろう、モルフローレンはとてつもなく怒っていた。また、やむを得ず会うこととなった話し合いの場では、何度も心ない言葉を投げつけられた。ただ、エッフェルに前もって言われていた通り、私は冷静さを保ち続けるように努めた。心ない言葉に耳を心を傾けてはいけない、そんなエッフェルの助言を信じてただ淡々と時が過ぎるのを待った。
慰謝料までもぎ取れるなんて意外だったけれど、無事モルフローレンと離れられて良かった。
「本当にありがとうございました、エッフェルさん」
「いえいえ」
「大変助かりました。感謝しています。これで私、解放されます」
「良い笑顔ですね、良かった」
「はい……! 今とてもすっきりした気分です、ありがとうございます」
これでもうエッフェルともお別れか――少し名残惜しく思っていた、のだが。
「ええと、これはよければなのですが」
「はい?」
「私と生きてはくださいませんか」
急にそんなことを言われて。
「ええええ!!」
思わず大声を出してしまった。
そうして私の人生はまた新しい章へと突入してゆくのであった――。
◆
あれから数年、私は王子エッフェルの妻となり穏やかに暮らしている。
エッフェルは今も一途に私を想ってくれている。
もちろん心ない言葉なんてかけてはこない。
とても優しくどこまでも心の広い人だ。
そんな彼とだから、私は日々順調に楽しく心地よく暮らせている。
ここへたどり着くまで苦労は多くあった。
ほとんどモルフローレンによるものだが。
でもそれを越えて今があるのだから、悲しみなんてないし後悔だってない。
すべての経験が私をここへ連れてきてくれた。
そういう意味では出会ったものすべてに対して感謝の心だってあるのだ。
ああそうだ、そういえば。
モルフローレンはあの後別の女性と結婚するも、些細なことでたびたび激怒して家庭内暴力を繰り返し、やがて裁判を起こされ離婚されてしまったそうだ。
そして今、彼は、最悪な評判だけを背負って日陰で生きているよう。
一度ついた悪評とはそう簡単には消えないもの、彼もきっと一生それを背負って生きてゆくこととなるのだろう。
だが、自業自得というものだ。
だってそれは彼の生きざまが表れたものなのだから。
誰かのせいではない。
何かのせいでもない。
自分がやってきたことが異なる形で己の身に返っているだけのこと。
◆終わり◆
婚約者モルフローレンはいつも威張っていてしかもたびたび見下してくる。
家柄は悪くはない。
しかし性格はかなり悪い。
どんな環境で育ったらここまで性格が悪くなるのだろう、なんて疑問を抱くほどに、彼の性格は悪の色に染まっている。
婚約者を侮辱することに長けている、なんて、誰も喜ばないし幸せにもならない――そんなことくらい大人なら分かるだろうに。
ただ、私は彼と婚約してしまったので、もうどうしようもなかった。
だから仕方がないと諦めていた。
これが私の人生なのだ。
きっと一生あれこれ言われ傷つけられながら歩んでいくしかないのだ。
絶望しながらも、諦めという意味で受け入れている私は確かに存在していて。
無難に生きてきたのにこんな目に遭わされるなんて。理不尽過ぎる。そんなことはこれまでにもう何度も思ったけれど。でも段々心も麻痺してきて、こんなものかと思うようになっていったのだ。
人の心とは意外と強いもので、傷つくことにも段々慣れるものだ。
同じパターンでのダメージならなおさら。
すべて諦めてしまえばいい。
夢なんてみなければいいし、期待なんてしなければいい。
そうすれば傷つかない。
そうすれば痛みも減る。
それでいい、そう思って私は生きていた――。
◆
モルフローレンと生きてゆく絶望の中で生きていた私に、ある時、転機が訪れた。
その出来事は、彼と共に参加した王家主催のパーティーにて起こった。
「何してんだお前! 馬鹿だろ! あっちの赤いジュースを取ってこいって言っただろうが! おいこら!」
「ちょ、ちょっと……あの、モルフローレンさんっ……お願いです、ここであまり大きな声を出すのは……」
私は指示された通りの物を取ってくることができずそれによって怒られてしまった。
「はぁ!? 口ごたえするのか!? この俺に!?」
「ち、違います、ただ……皆から見られていますので……!」
皆からじろじろ見られるのが恥ずかしくて、つい意見を言ってしまって。
「ふざけんなお前ッ!!」
殴られる――!!
近く顔面に走るであろう痛みを予感する、が。
「やめなさい!」
一人の男性がモルフローレンが振り抜こうとした拳を掴みその動きを止めてくれた。
「何をしているのですか!」
さらりとした金髪が特徴的な男性は鋭く注意を言い放つ。
「はぁ? 何だお前、入ってくるな!」
「落ち着いてください」
「これは罰なんだ! そいつが馬鹿だから! 躾ってのは大事なもんなんだよ、邪魔するな!」
良い身形の金髪男性は冷静に対応している。
「躾? それはただの暴力ですよ」
彼は私を助けてくれた。
モルフローレンが私に危害を加えようとしているのに気づいて止めてくれたのは彼が初めて。
これは驚くべき初経験である。
「やめなさい」
「邪魔だ! これは俺ら二人の問題なんだから、お前なんざ関係ない! 入ってくるな!」
モルフローレンが攻撃的にそう言い放てば、男性は冷ややかに彼を睨んだ。
「愚かな。私には貴方をここから追い出す権限があるのですよ? 暴れるような方は許しません、容赦なく追放します」
そして彼は自分が王子エッフェルであると明かす。
「な……お、王子……だと……!?」
「我々が主催する会において、貴方のような野蛮な方は参加者として不要です」
「何てこと言いやがる! くそ生意気野郎!」
「侮辱するのなら去っていただきます。――そこの者、この男を連れ出しなさい!」
エッフェルは係員にそう命じた。
すると係員の男たちは一斉にモルフローレンを取り囲み、やがて、それぞれの腕を使って四肢を拘束する。
「大丈夫でしたか、お嬢さん」
「あ……は、はい」
「あの男は一体? 関係者ですか?」
「はい……そうです……婚約者です。すみません、せっかくのパーティーなのにお騒がせしてしまって……」
エッフェルは優しかった。
「いえ、貴女に非はありませんよ」
優しく微笑みかけてくれた。
「あの婚約者、もしかして、いつもあのような振る舞いをしているのではありませんか?」
しかも、モルフローレンに関する話まで踏み込んでくれて。
「……はい、その、でも私のせいなんです。私が無能で、それで……」
「それはそう思わされているのですよ、恐らく」
「え」
「彼がそのようなことをいつも言っているのではないですか?」
「そんな感じです……」
「やはり。では気になさらないでください。貴女に非はありません、そして、貴女に悪いところもありません」
励ましてくれ、さらに、その先まで。
「婚約、本当は破棄したいのではないですか?」
彼はそこまで踏み込んできてくれる。
「嫌なのではないですか? あのような男と生きてゆくのは」
そう言われた時、心が震えた。
モルフローレンと離れたい――かつて強く抱いていたその想いが少しずつ蘇ってくる。
もう諦めたはずだった。
もう捨てたはずだった。
でももしかしたらまだ生き延びていたのかもしれない、その感情は。
「……でももう諦めました」
蓋をしていただけだったのかもしれない。
「駄目ですよ、そんなこと。一度きりの人生ですから、愛されて、幸せになるべきです」
エッフェルにそう言われると。
「無理なんです!」
らしくなく調子を強めてしまって。
「本当にそうなのでしょうか?」
「……え」
しかしエッフェルは怒りはせず。
「もし貴女が望むなら、協力しますよ」
「きょ、きょう……りょく……?」
「私が力になりますから、婚約破棄しましょうよ」
逆に前向きな提案を出してくれた。
その後私は王子エッフェルの協力を得てモルフローレンとの婚約を破棄した。
まさか自分が捨てられる側だとは思っていなかったのだろう、モルフローレンはとてつもなく怒っていた。また、やむを得ず会うこととなった話し合いの場では、何度も心ない言葉を投げつけられた。ただ、エッフェルに前もって言われていた通り、私は冷静さを保ち続けるように努めた。心ない言葉に耳を心を傾けてはいけない、そんなエッフェルの助言を信じてただ淡々と時が過ぎるのを待った。
慰謝料までもぎ取れるなんて意外だったけれど、無事モルフローレンと離れられて良かった。
「本当にありがとうございました、エッフェルさん」
「いえいえ」
「大変助かりました。感謝しています。これで私、解放されます」
「良い笑顔ですね、良かった」
「はい……! 今とてもすっきりした気分です、ありがとうございます」
これでもうエッフェルともお別れか――少し名残惜しく思っていた、のだが。
「ええと、これはよければなのですが」
「はい?」
「私と生きてはくださいませんか」
急にそんなことを言われて。
「ええええ!!」
思わず大声を出してしまった。
そうして私の人生はまた新しい章へと突入してゆくのであった――。
◆
あれから数年、私は王子エッフェルの妻となり穏やかに暮らしている。
エッフェルは今も一途に私を想ってくれている。
もちろん心ない言葉なんてかけてはこない。
とても優しくどこまでも心の広い人だ。
そんな彼とだから、私は日々順調に楽しく心地よく暮らせている。
ここへたどり着くまで苦労は多くあった。
ほとんどモルフローレンによるものだが。
でもそれを越えて今があるのだから、悲しみなんてないし後悔だってない。
すべての経験が私をここへ連れてきてくれた。
そういう意味では出会ったものすべてに対して感謝の心だってあるのだ。
ああそうだ、そういえば。
モルフローレンはあの後別の女性と結婚するも、些細なことでたびたび激怒して家庭内暴力を繰り返し、やがて裁判を起こされ離婚されてしまったそうだ。
そして今、彼は、最悪な評判だけを背負って日陰で生きているよう。
一度ついた悪評とはそう簡単には消えないもの、彼もきっと一生それを背負って生きてゆくこととなるのだろう。
だが、自業自得というものだ。
だってそれは彼の生きざまが表れたものなのだから。
誰かのせいではない。
何かのせいでもない。
自分がやってきたことが異なる形で己の身に返っているだけのこと。
◆終わり◆
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