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中編
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「アルタイル、最近女性と会っているらしいわね」
「嫉妬かい?」
「会っているという噂は事実なのね」
「うんそうだよ。だから何? 君みたいな女性じゃ満足できないもの、仕方ないんだよ」
アルタイルは別の女性と関わりを持っていることを隠そうともしない。いや、隠すどころか、事実を明かしたうえでさらに嫌みをぶち込んでくる。迷わない、躊躇わない、度胸だけは凄いと思う。
「そもそも、僕、君みたいな地味な女性は嫌いなんだよね。もっと華がある人がいいんだ。まぁ事情が事情だから仕方なく受け入れているけど、本当だったら君みたいな女性と婚約なんて絶対しないんだよね」
……よくそんなことが言えるわね。
苛立ちが胸の内を満たす。けれどもそれを露わにはしない。ここで感情的になっても何の意味もないから。冷静に、冷静に、録音を続けるのだ。非道な発言の数々を録音できれば、私は剣を得たようなもの。今はただ、そのために落ち着いて対応する。
「何なら今からでも婚約破棄したいくらいだよ」
私が大人しいからと彼は油断しているのだろう。油断しているから、こんなにも酷いことを平然と言えるのだろう。
だが今はそれでいい。
彼は私を傷つけているつもりかもしれないが、私に剣を与えているだけのことだ。
◆
その後、私は、録音内容を提示して婚約破棄を申し出た。
傷つけるようなことを繰り返し口にしてきたうえ、他の女性とは仲良くしていた彼に、まともな逃げ場があるわけがない。
ただ、それでも最初は、彼は懸命に否定していた。傷つけるようなことは言っていない、他の女性に手を出すようなことはしていない、と、偽りの主張を繰り返していた。録音した音声に関しても、自分の声ではない、と言い続けていた。
けれどもそれで無問題になるほど世界は優しくない。
婚約破棄は成立した。
「嫉妬かい?」
「会っているという噂は事実なのね」
「うんそうだよ。だから何? 君みたいな女性じゃ満足できないもの、仕方ないんだよ」
アルタイルは別の女性と関わりを持っていることを隠そうともしない。いや、隠すどころか、事実を明かしたうえでさらに嫌みをぶち込んでくる。迷わない、躊躇わない、度胸だけは凄いと思う。
「そもそも、僕、君みたいな地味な女性は嫌いなんだよね。もっと華がある人がいいんだ。まぁ事情が事情だから仕方なく受け入れているけど、本当だったら君みたいな女性と婚約なんて絶対しないんだよね」
……よくそんなことが言えるわね。
苛立ちが胸の内を満たす。けれどもそれを露わにはしない。ここで感情的になっても何の意味もないから。冷静に、冷静に、録音を続けるのだ。非道な発言の数々を録音できれば、私は剣を得たようなもの。今はただ、そのために落ち着いて対応する。
「何なら今からでも婚約破棄したいくらいだよ」
私が大人しいからと彼は油断しているのだろう。油断しているから、こんなにも酷いことを平然と言えるのだろう。
だが今はそれでいい。
彼は私を傷つけているつもりかもしれないが、私に剣を与えているだけのことだ。
◆
その後、私は、録音内容を提示して婚約破棄を申し出た。
傷つけるようなことを繰り返し口にしてきたうえ、他の女性とは仲良くしていた彼に、まともな逃げ場があるわけがない。
ただ、それでも最初は、彼は懸命に否定していた。傷つけるようなことは言っていない、他の女性に手を出すようなことはしていない、と、偽りの主張を繰り返していた。録音した音声に関しても、自分の声ではない、と言い続けていた。
けれどもそれで無問題になるほど世界は優しくない。
婚約破棄は成立した。
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