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流れ星は連れてくる。~婚約破棄も乗り越えて~

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 流れ星。

 暗く広い、あの海のような天を駆けゆく、一つの生命。

 それを目にするたび、思い出す。

 かつて愛した彼のことを。

 そして、彼に捨てられた、あの日のことを。


 ◆


「どうしてそんな……他の女性と……」

 あの日は平凡な日だった。
 でも彼と知らない女性の姿を目にして、平凡でない日になってしまった。

 むしろ、私にとって最悪な日となってしまったのだ。

「君は勘違いしているよ。婚約イコール両想いじゃない。健全な男子なら誰でも、婚約者がいたって遊ぶものだよ。心が狭いね」
「でも……」
「しつこいな。じゃ、もういいよ。婚約は破棄する! これでいいよね、満足だよね? じゃあばいばい」
「そんな! 待っ――」
「ほら、じいさん、こいつ追い出しといて」

 その日の晩、私が見上げた空には、一筋の流れ星があった。

 私を連れていって。
 そんな風に思ったくらいだった。

 でもその願いは叶わず。

 辛くて、泣いても泣いても、それでも次の朝は来た。


 ◆


 あの日々は辛かった。
 今思い出しても。
 当時の自分のことを可哀想だと思うくらい。

 けれども今は私には家庭がある。

 だからもう大丈夫。

 夫がいて。
 子がいて。

 だから前を向ける。

 かつてはすべて終わりにしたかったけれど、今はもうそうは思わない。

 また、星が流れる。

 これからも流れるだろう。
 何度も何度も。
 けれどもそれはもう私を苦しめはしない。

 流れ星は運んでくるのだ――私のもとへ、幸福を。


◆終わり◆
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