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10話「そんな良い未来を信じながら」

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 それからも私はローテと共に浜辺で過ごした。

 美しい風景、楽しい時間、何もかもが輝いているように感じた。
 だが、永遠に終わらないでほしい時間にも、いつかは終わりが訪れる。残酷なことだが、それはこの世において変わらぬ事実。そんな理は人間一人が簡単に変えられるものではない。

「そろそろ帰ろうか。送るよ」
「……残念だわ」
「子どもみたいなことを言わないでよ。まったく」
「そうね。ごめんなさい、帰るわ」

 できるならいつまでもここで楽しく暮らしたい。

 でもそれは叶わぬ願いだと知っている。

 私も幼児ではない。そんなことすら分からぬほど未熟な存在ではないつもりだ。

「さ、乗って」

 いつの間にやらドラゴンの姿になっていたローテが、背に乗るように促してくる。私は指示に従い彼の背に乗った。もしここで指示に従わなかったら、と考えもしたが、怖いことになりそうなので従っておくことに決めたのである。

「何度もになって悪いけど、落ちないでね」
「高いものね。気をつけるわ」
「しっかり掴まっていてよ。落ちないように、頼むよ」
「ええ、気をつける」

 ローテの身体はふわりと宙に浮き上がる。一度上へ向かい出すともう止まらない。高度は上がってゆくばかりだ。そして、彼に乗っている私の身体も、みるみるうちに高い場所へ向かってゆく。

 きっとまた楽しく過ごせる。
 いつかはこうしてまた遊べる日が来る。

 そんな良い未来を信じながら、私はローテの背に乗って空を駆けた。


 やがて、最初に出会った場所へとたどり着く。

 ここを出発する時には雨が降っていた。それもそこそこな激しさの雨。しかし、今はすっかり止んで、静かな夜を迎えている。雨の名残は、土が微かに湿っているところくらいにしかない。

「ここで大丈夫かな?」
「えぇ、助かったわ」

 ローテの背中から降り、湿った地面に立つ。
 私を降ろすや否や彼は人間の方の姿に変身した。
 恐らく、驚かれないようにするためだろう。人の世にドラゴンのままの姿で近寄っていては、危険な目に遭わされかねない。だからこそ彼は、人の世に近いところでは、こうして人のような姿になるのだろう。

「ねぇローテ、少し聞いてもいい?」

 私はふと思い立ったことを口にした。

 こんなことを始めた目的は自分でもいまいちよく分からない。なぜ今でなくてはならなかったのか、なんて、聞かれても答えられそうにない。

 理由や目的なんてない、口が自然に動いただけのことだ。

「うん、いいよ」
「ローテが人の姿になるのはどうして? ドラゴンのままだったら駄目なの?」

 その問いに、ローテは目をぱちぱちさせた。
 しかし答えてはくれる。

「この姿の方が便利なこともあるからね」
「便利なこと……」
「説明するほどのことではないけど。でも、ドラゴンのままよりは、人みたいになれた方が暮らしやすいよ。いろんな意味で、ね」
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