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8話「緊張感もありますが、話は弾みます」
しおりを挟む従者は何人もついてきている。
彼は王子なので当然といえば当然なのだが……。
しかしながら、どうしてこんなことになってしまっているのか、と聞きたいくらいの緊張感である。
今、私とウォルシュは、我が家の一室にいる。お客様が来た時に通すような部屋である。丸く厚みのあるテーブルを挟んで向かい合うように、椅子に座っているのだ。
この部屋は日頃は使わないので掃除するのがなかなか大変だった。
しかし、手を抜かずきちんと準備しておいて良かった、と。
今は素直にそう思う。
なんせ、この部屋に入ってくるのはウォルシュ一人ではなかったのだ。従者やら護衛やらが何人も入ってきている。会話には入ってこないけれど確かに室内にいるのだ。つまり、それだけの人に室内を見られいるということ。ほこりが残っているような状態のままウォルシュを通していたらとんでもない恥ずかしさに襲われてしまうところだった。
「リアさんのお母さまはお茶を淹れるのが非常に上手い方ですね」
「そうでしょうか……」
「はは、確かに。生まれた時から飲んでいらっしゃったのでしょうから……そういう意味では少々分かりづらいかもしれませんね」
彼はいつも爽やかな顔つきでスムーズに言葉を紡ぐ。
そんなところを見ていたらさすがに王子という人は凄いななんて思ったりした。
とにかくコミュニケーション能力が高い。
「飲めそうですか? 母は素人ですけど……」
「ええ、もちろん。毒見も済んでいますし問題ないですよ。それに、先ほども申し上げましたが、貴女のお母さまのお茶を淹れる技術はかなり高いほうかと」
「そういうもの……なのでしょうか」
「そうですよ。これまで色々な場面で飲んできましたが、ここまでほど良い香りを楽しませてくださるお茶というのは限られた数しかありませんでした」
ウォルシュは何かと褒めてくれる。
でも何だか申し訳ないような気持ちにもなった。
私はただの女なのに……。
「茶葉が良いのではないですか? ウォルシュさんが持ってきてくださったものですし。きっとそうですよ、良質な茶葉だから誰が淹れても美味しくなるんです」
軽い気持ちでそんなことを言ってみたら。
「いえ、それはありません」
彼はきっぱり言ってのけた。
「確かに茶葉の質なども多少は味に影響するでしょう。しかし茶葉の質だけではここまで美味にはなりませんよ。淹れた者の技術があってこそ、味わいや香りなどすべてにおいて輝くのです」
それから敢えて説明してくれる。
「へえ……そういうものですか」
「そうですよ」
「知らなかったです」
「ですから、貴女のお母さまは素晴らしい技術をお持ちです」
早く母に聞かせたいな、なんて思った。
王子に褒められれば母もきっと喜ぶだろう。
「母を褒めてくださってありがとうございます」
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