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6話「パーティーは終わりましたが……?」
しおりを挟む「あ、あの……助けてくださってありがとうございます」
取り敢えず礼を言っておく。
最低限しなくてはならないことといったらまずはこれだろう。
「いえいえ」
そう言って彼はまた柔らかな顔つきに戻る。
厄介な女性たちと関わっている時の彼はまるで別の人であるかのようだった。それこそ人格丸ごと入れ替わってしまったかのようで。だが彼はすぐに私の
知る彼に戻った。今などは私の中にある彼の像に非常に近い雰囲気をまとっている。
「当然のことをしたまでです」
「それでも……ありがとう、そう言わせてください」
「どういたしまして」
彼の笑みはいつだって甘い。
こうしてパーティーは終わったのだった。
◆
しかしウォシュルとの繋がりは切れなかった。というのも、彼の方から積極的に動いてきたのだ。彼は使える限りの手段を使って私に連絡してきた。そしてまた会おうとそんな風に提案してくれて。そんなこともあり、私たちの縁はパーティーだけで終わりとはならなかったのである。
「まっさかリアが王子に見初められちゃうなんてねぇ~」
それからというもの、母はずっとこんな感じだ。
何かと浮かれている。
「母さん! 見初められたわけじゃないから!」
「でもでも~、また連絡が来るなんて……明らかにそういうことでしょ~?」
言っても受け入れてはくれない。
彼女は既に私たちがそういう関係なのだと思い込んでいるのだ。
……まだそんなところまで進展してはいないのに。
「違うってば!」
「良い感じになれて良かったわねぇ~、うふふ、何だかとっても嬉しい気持ちだわぁ~。うきうきしちゃうっ」
「もう……母さん……」
浮かれて楽しげな母を見ていると呆れて溜め息が出てしまう、が。
「で、リアはどうなの? 嫌なの?」
そう問われれば、頷くことはできなかった。
実際、私はウォシュルのことを嫌ってはいない。だからまたこうして誘ってもらえることは嬉しくもあるのだ。しかしながら急に近づいてこられるなんて何か裏があるような気もしてしまって。そんなところで私の思考はぐるぐる回っている。
「嫌いじゃ……ないけど」
「ほらね! 両想い! ひゅーっ、最高のやつじゃないの!」
母はハイテンションだ。
応援してくれる気持ちは嬉しいけれど、あまり期待したくはなくて、それゆえどうしてももやもやしてしまう部分がある。
「けど、本当に、そんなのじゃないわ。私たち。ただ少し知り合いになっただけで……それに王子の結婚相手よ? 私みたいな人間が選ばれるわけがないわ。彼はきっと、もっとお金のある家の娘さんと結婚するのよ」
期待を過剰に抱きたくない。
喜んでいて地の底に落とされるのが何よりも怖いのだ。
だから何かと慎重になってしまっているところもある。
……そうよ、まだ何も始まっていない。
それなのに期待するなんて。
単に後ほど自分を苦しめるだけのことじゃないの。
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