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episode.136 闇は過ぎ去りて
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消えゆく黒いもやを見つめる。
何の意味もなく。
ただ、彼が消え去った後のそのどこか切ない世界に佇み――何も言えぬまま時が刻まれてゆくことを肌で感じる。
勝ったのだ、ヨクに。
脳では一応そう分かっているけれど、心がまだそれを受け入れきれず。不思議な感覚の中で何もない空白を見つめるだけ。
本当にこれで良かったのだろうか? ヨクは道半ばで消えることとなってしまったが。掻き消すように倒す、それで良かったのだろうか? そんな思いを抱えながらも。それでも、私がクイーンである以上仕方なかったのだ、と、己を納得させようとする。
誰もが傷つかない結末、それを求めることが理想ではあったのかもしれない。けれどもクイーンである以上、私は負の感情を広めることを目的としている者たちを受け入れることはできず。相手があくまで戦って決着をつけることを望むのであれば、こちらもそれに乗るしかなかったのだ。負の感情を広めようとする者たちから人々を護る、それがプリンセス・プリンス、そしてその中心に在るクイーンの役割なのだから。
一人悶々と考えているうちに、気づけば、身体が白色の光に包まれていた。
「光、ってる……?」
思わずこぼす。
誰も聞いていないから言葉を発しても意味なんてないというのに。
刹那、金髪女性の白い影が目の前に出現し、両手を伸ばしてくる。こんなところで幻を目にするなんて、と思っていた私を、その白い影は抱き締めた。
「フレイヤ、よくやりましたね」
誰かが囁く。
「……母さん?」
「貴女はクイーンとしてよく働きました。一般人として育ちながらここまで突き進んだこと、それは、素晴らしいことです」
私は母の腕を知らない。気づいた時には祖父母だけだったから。だから、この腕の温もりが、本当に母の腕の温もりであるかどうかを確かめることはできない。
ただ、私の身を抱き締める二本の腕はとても温かで、不快なものではなかった。
むしろ、生まれてくる前に感じていた温もりのようなものを感じる。
「貴女がクイーンとして生きることを望みはしませんでした……けれど、今、貴女が偉大なクイーンとなったことを誇りに思います」
耳もとで聞こえる柔らかな女性の声。
なぜだろう、とても懐かしい――。
◆
「……ン、クイーン!」
次の瞬間、目が覚めた。
私の意識を戻したのはあの柔らかな女声ではなく男性の声だった。
「あ……、盾のプリンスさん」
どうやら私は横になっていたようだ。盾のプリンスが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。それに、少し見渡してみて気づいたのだが、どうやらあの盤の上ではなさそうだ。見えるものすべてが白い、ここは恐らくヨクと戦っていたあの場所ではないのだろう。そう、ここはクイーンズキャッスルだ、多分。
「良かった……! 気がついて……!」
盾のプリンスは嬉しそうな表情を浮かべた。
「あの、私は……一体?」
「黒いものが消えて白が戻って、そうしたら、急にここに君が出現した。横になっていて意識はないようだったが息はしているようだったので、少し安心しつつも心配してもいた」
「そうだったんですか……」
私が見ていたあの白い影、あれは幻だったのだろうか?
私は夢でもみていたのか?
でも……もしそうだとしても……確かにあれは母だった。
「フレイヤちゃん、大丈夫なのー?」
そこへ入ってきたのは森のプリンセスだ。
「心配したわー、だって一人でいなくなってしまうんだものー。ヨクに何かされたらどうしよう、って、とっても不安だったのよー?」
「すみません、心配させてしまって」
「大丈夫だったのー? 襲われなかった?」
「少しだけ戦いみたいにはなりましたが大丈夫でした」
そこへ。
「戦いっ!?」
急に叫び声を挟んできたのは愛のプリンセスだ。
「えええ! えええ!? フレレ戦ったんですか!? ええーっ!!」
愛のプリンセスは両拳を胸の前で勢いよく回転させながら目をぱちぱちさせて大騒ぎ。
「ったく、愛のガキうるせーよ」
「海プリさん! 今はそれどころじゃないんですーっ」
「静かに喋れよな」
「そーれーはッ、無理ですっ!!」
愛のプリンセスと海のプリンスは元気そう。二人の元気そうな姿を見ているだけで安心できる。元気そうな彼女らを見ていると自然と心が落ち着くような感覚があるのだ。ただし、海のプリンスは多少負傷している。それでも彼は体調が悪そうではないから、傷は残っていても、見ていて安心できる。
「フレイヤさん無事で良かった」
「クイーン、ご無事で何より」
少し後ろから声をかけてくるのは、剣と杖のプリンセスだ。
「クイーン、少し、身体にお傷があるようですね。よければ手当てします。少しよろしいでしょうか?」
「あ……はい、すみません」
杖のプリンセスが前へぐいと出てくる。
「では、この杖で、お手当しますね」
「ありがとうございます」
何の意味もなく。
ただ、彼が消え去った後のそのどこか切ない世界に佇み――何も言えぬまま時が刻まれてゆくことを肌で感じる。
勝ったのだ、ヨクに。
脳では一応そう分かっているけれど、心がまだそれを受け入れきれず。不思議な感覚の中で何もない空白を見つめるだけ。
本当にこれで良かったのだろうか? ヨクは道半ばで消えることとなってしまったが。掻き消すように倒す、それで良かったのだろうか? そんな思いを抱えながらも。それでも、私がクイーンである以上仕方なかったのだ、と、己を納得させようとする。
誰もが傷つかない結末、それを求めることが理想ではあったのかもしれない。けれどもクイーンである以上、私は負の感情を広めることを目的としている者たちを受け入れることはできず。相手があくまで戦って決着をつけることを望むのであれば、こちらもそれに乗るしかなかったのだ。負の感情を広めようとする者たちから人々を護る、それがプリンセス・プリンス、そしてその中心に在るクイーンの役割なのだから。
一人悶々と考えているうちに、気づけば、身体が白色の光に包まれていた。
「光、ってる……?」
思わずこぼす。
誰も聞いていないから言葉を発しても意味なんてないというのに。
刹那、金髪女性の白い影が目の前に出現し、両手を伸ばしてくる。こんなところで幻を目にするなんて、と思っていた私を、その白い影は抱き締めた。
「フレイヤ、よくやりましたね」
誰かが囁く。
「……母さん?」
「貴女はクイーンとしてよく働きました。一般人として育ちながらここまで突き進んだこと、それは、素晴らしいことです」
私は母の腕を知らない。気づいた時には祖父母だけだったから。だから、この腕の温もりが、本当に母の腕の温もりであるかどうかを確かめることはできない。
ただ、私の身を抱き締める二本の腕はとても温かで、不快なものではなかった。
むしろ、生まれてくる前に感じていた温もりのようなものを感じる。
「貴女がクイーンとして生きることを望みはしませんでした……けれど、今、貴女が偉大なクイーンとなったことを誇りに思います」
耳もとで聞こえる柔らかな女性の声。
なぜだろう、とても懐かしい――。
◆
「……ン、クイーン!」
次の瞬間、目が覚めた。
私の意識を戻したのはあの柔らかな女声ではなく男性の声だった。
「あ……、盾のプリンスさん」
どうやら私は横になっていたようだ。盾のプリンスが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。それに、少し見渡してみて気づいたのだが、どうやらあの盤の上ではなさそうだ。見えるものすべてが白い、ここは恐らくヨクと戦っていたあの場所ではないのだろう。そう、ここはクイーンズキャッスルだ、多分。
「良かった……! 気がついて……!」
盾のプリンスは嬉しそうな表情を浮かべた。
「あの、私は……一体?」
「黒いものが消えて白が戻って、そうしたら、急にここに君が出現した。横になっていて意識はないようだったが息はしているようだったので、少し安心しつつも心配してもいた」
「そうだったんですか……」
私が見ていたあの白い影、あれは幻だったのだろうか?
私は夢でもみていたのか?
でも……もしそうだとしても……確かにあれは母だった。
「フレイヤちゃん、大丈夫なのー?」
そこへ入ってきたのは森のプリンセスだ。
「心配したわー、だって一人でいなくなってしまうんだものー。ヨクに何かされたらどうしよう、って、とっても不安だったのよー?」
「すみません、心配させてしまって」
「大丈夫だったのー? 襲われなかった?」
「少しだけ戦いみたいにはなりましたが大丈夫でした」
そこへ。
「戦いっ!?」
急に叫び声を挟んできたのは愛のプリンセスだ。
「えええ! えええ!? フレレ戦ったんですか!? ええーっ!!」
愛のプリンセスは両拳を胸の前で勢いよく回転させながら目をぱちぱちさせて大騒ぎ。
「ったく、愛のガキうるせーよ」
「海プリさん! 今はそれどころじゃないんですーっ」
「静かに喋れよな」
「そーれーはッ、無理ですっ!!」
愛のプリンセスと海のプリンスは元気そう。二人の元気そうな姿を見ているだけで安心できる。元気そうな彼女らを見ていると自然と心が落ち着くような感覚があるのだ。ただし、海のプリンスは多少負傷している。それでも彼は体調が悪そうではないから、傷は残っていても、見ていて安心できる。
「フレイヤさん無事で良かった」
「クイーン、ご無事で何より」
少し後ろから声をかけてくるのは、剣と杖のプリンセスだ。
「クイーン、少し、身体にお傷があるようですね。よければ手当てします。少しよろしいでしょうか?」
「あ……はい、すみません」
杖のプリンセスが前へぐいと出てくる。
「では、この杖で、お手当しますね」
「ありがとうございます」
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