プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.127 それぞれ、できることを

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 アオに似た容姿の、しかし瞳は赤く輝く彼女は、無表情を崩さない。眉一つ動かすことなく指先から伸びる硬さのある糸状のものを操り、剣のプリンセスの身に無数の傷を刻んだ。

「隙が、ない」

 一方的に攻撃されることしかできない剣のプリンセスは悔しげにこぼす。

「ぶみゃあぁぁぁ!」

 そんな剣のプリンセスを助けようと青髪女性に襲いかかる愛のプリンセスだったが――。

「……ふみゃ!」

 青髪女性に一発蹴られて飛んだ。
 壁に激突し、涙ぐむ。

「む、にゅうぅぅ……」

 刹那、海のプリンスが動いた。
 水を放ちながら、青髪女性に襲いかかる――後ろから。
 しかし女性は読んでいた。
 向かってくる水の柱を冷静にバリアで防ぐと、髪の房をなびかせながらその場で回転し、糸状のものによる攻撃対象を海のプリンスへ移す。
 無数の糸を振り回す攻撃は強力で。
 海のプリンスをも圧倒する。

「っ……!」

 実際に相手を傷つけるのは糸状のものそのものであり、使い手の腕力は関係ない。使い手がするのは操ることだけ。それゆえ小柄めな女性であっても相手にダメージを加えることは可能である。

 アオは森のプリンセスに隠れるような位置に立ちながらも怖そうに様子を見守っている。
 森のプリンセスは何か考え込んでいるような面持ちで佇んでいる。

「おい! 森のババア! どうにかしてくれよ!」

 海のプリンスが珍しく助けを求める。
 しかし森のプリンセスは「黙って、少し待って」と返すだけだ。

 海のプリンスは片手を床について身体を支える。気を失うところまでは至っていないものの反撃には出られない状態だ。歯を食い縛って耐えることしかできない。

 それから十数秒が経過した、ある瞬間。
 森のプリンセスが動く。
 左右の壁から大量の蔓を発生させ、青髪女性を襲わせる。

 青髪女性もしっかりと反応はした。海のプリンスを攻めていた糸を当てる対象を無数の蔓へと変える。数本の糸を回転させるようにして迫りくる蔓を叩き切ってゆく。蔓はぷちぶちと音を立てて切れていった。

 が、蔓への対応に意識を向け過ぎていた青髪女性に森のプリンセスが迫っていて。

 次の瞬間。

 拳に硬い木の根のようなものをまとわせた森のプリンセスのパンチが青髪女性の胸もとに突き刺さった。

 どごぉ、と、僅かに空気を含んだような凄まじい音が響く。
 青髪女性の身体は勢いよく後方へ吹き飛ぶ。
 吹き飛ばされた彼女は突き当たりの壁に激突し、活動を停止した。

「森のババア、仕事はえーな……」
「やっちゃえた感じ……?」

 傷だらけの海のプリンスと剣のプリンセスがほぼ同時にこぼした。

「ふみゃぁ……凄いですー……」

 愛のプリンセスはワンピースの裾を気にしながら立ち上がる。

「何かさ、もう、森のババア一人でいーんじゃね?」
「それは駄目よー」
「は? 一人じゃ駄目って話か?」
「そうよ。時間稼ぎが必要なの。壁から蔓をたくさん出す、それにも準備の時間が必要よー。すぐにはできないわー」

 それを聞いた海のプリンスは「俺らは時間稼ぎでやられてたのかよ」と少しばかり不満そうに呟いた。
 しかし、青髪女性との戦いが終わったことに安堵しているのは皆同じだ。
 そういう意味では心は同じとも言える。

「森プリ! 進むです!」

 張り切っている愛のプリンセスは片手を大きく掲げながら発した。
 だが。

「進むです、て、おかしいだろ」

 海のプリンスにさくっと突っ込まれる。

「分かってますよー。一種の表現ですー」

 愛のプリンセスは不満そうに唇を尖らせながら海のプリンスをじっとりと見た。

「敵の頭を早く討たなくっちゃね!」
「剣プリさん! 分かってますねっ」

 そうして五人はさらに進む。
 ダメージはあれど、それをどうこう言っている暇はない。


 ◆


 その頃、森のキャッスル。
 突如鳴り響く侵入者を報せる音。
 時のプリンスの手当てをしていたウィリーがその音によって危険が迫っていることに気づいた時には既に敵は目の前にまで来ていた。

「敵!? ……そんな」

 ウィリーは思わず言葉を漏らす。
 出現したのは影の女性――いや、女性の形の影、と言い表すべきか。
 いずれにせよ、そういう存在である。

「あ、あわわわわ」
「落ち着くのよ! ウィリー!」

 時のプリンスを庇うよう前へ出るも狼狽え気味なウィリーの傍らへ飛んできたのはフローラ。

「アンタたち、そこを退いてくれる?」

 女性の形の影は低めの声を発する。
 しかし当然ウィリーらは退かない。

「うるさいの! 何様のつもりなの!」
「我々はここを護らねばなりません」

 フローラは攻撃的な言い方をするが、ウィリーはなるべく落ち着き冷静に言葉を選ぶ。
 ……とはいえ内心恐怖でガクガクなのだが。
 だが退くわけにはいかないのだ。なぜなら森のプリンセスの遣いだから。森のプリンセスがキャッスルを離れている今、このキャッスルを護るのはウィリーらしかいない。たとえ敵に戦闘能力で劣るとしても。それでも防衛しなくてはならない。

「大人しく従えば酷いことしないのに……ばーか」

 女性の影は黒い塊を放つ。
 それはフローラが飛ばした矢とぶつかり消える。
 だがその隙に女性の影がウィリーに接近。
 彼は即座には反応できず硬直してしまう。

「っ!!」

 だが、ぎりぎりのところで女性の影は動きを停止した。

「え……」

 ウィリーは何かを察して振り返る。
 そうして彼が見たのは、仮面に手を当てている時のプリンス。彼はそれを見て自分の察したことが間違いではなかったことを確認した。

「時のプリンス様……!」
「動きを止めた」
「ありがとうございます!」
「じきに動き出す」
「は、はい! 今のうちに!」

 ウィリーは両手で握った杖を勢いよく振り、停止している女性の影を後ろへ飛ばした。
 ちょうどそのタイミングで停止が解除になる。
 女性の影は宙にあった身体を器用にコントロールし着地、影のような状態から本来の女性の状態へと姿を変える。

「時間を停止させる……なるほど、これは厄介だね」
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