プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

文字の大きさ
123 / 141

episode.122 強い女

しおりを挟む
 お気に入りの時のプリンスを後少しのところで逃してしまったヨクは落ち込み気味。いや、厳密には、がっかりという感じ。抱えたそれを晴らそうとしているようで、男性にしては甲高い笑い声のような声を敢えて発しながら森のプリンセスに襲いかかる。他の衣服と比べて動きが制限される傾向のある黒い女性用和服を身にまといながらも、男性ゆえのがっしりした四肢を武器として次から次へと攻撃を繰り出していた。しかし森のプリンセスの対応は早く確実であり、ヨクの体術をもってしてもなかなか勝ちをもぎ取れない。

「やるワネ!」
「褒められても嬉しくないわねー」

 ヨクは肉弾戦を仕掛けていくが、森のプリンセスは体術では応じない。
 身による攻撃と植物を利用した術がぶつかり合う。

「まだまだ行くワよ!」
「いい加減諦めたらどうかしらー?」

 ぐんぐん伸びる植物を掻い潜り、森のプリンセスの懐に潜り込むようにして拳を突き出すヨク。

「もやもやをさっぱりさセルのよ!」

 だが、突き出された拳を、森のプリンセスは肘を当てて弾いた。が、森のプリンセスはそこで止まらない。即座に先が鋭くなった木の枝を出現させ、その先端をヨクの喉もとに突きつけた。ヨクと森のプリンセス、二人の冷ややかな視線が交差する。

「……やるジャない」

 そうでなくては、とでも言いたげに、口角を片側だけ持ち上げ笑みを浮かべるヨク。

「わたし、男には手加減しないのよー」

 森のプリンセスは恐ろしさのある微笑みで返す。

 直後。
 ヨクは煙のようになって消えた。

「……ふぅ」

 敵が消えたことを確認してから振り返る森のプリンセス。
 彼女の視線の先には――横になる時のプリンス、彼を見守るアオと盾のプリンス――三人がいた。

「大丈夫? アオちゃん」
「あ、あ……あぅう……」

 森のプリンセスに接近され優しく抱かれたアオは情けない声を漏らした。

「よしよし」
「森のプリンセスさん……」

 泣き出しそうな声を漏らすアオの頭を撫でる森のプリンセス。
 女性だけしか入れないような空気が自然に発生する。

「もう大丈夫よアオちゃん、安心して。頑張って偉かったわねー。ふふ」

 その後、胴に穴を空けられた時のプリンスは、手当てのために森のキャッスルへ送られることとなった。

 本来であれば杖のプリンセスに頼んで傷を治癒させてもらいたいところだ。傷が大きいため、ちまちまやるより術で一気に治す方が早いから。しかし杖のプリンセスはキャッスル防衛のため動いている。そのため、そこにさらにやるべきことを追加するというのは難しい。
 そこで、代わりに、ウィリーにやらせることになった。
 その道を極めている杖のプリンセスほどではないが彼も杖が使える。そして回復のための杖さえあれば傷の手当てもできる。慣れてはいないが不可能ではない。

 で、アオは、時のプリンスに同行。

 盾のプリンスは自身のキャッスルへ帰り、森のプリンセスは一時的に時のキャッスル防衛のためそこに留まりながら通信でウィリーに指示を出すことを選んだ。

 皆、居場所はばらばら。しかし協力する心がないというわけではなく。平常時でないから、であるとはいえ、味方という関係性は一応成り立っていた。

 こうして、ひとまず助かった時のプリンスであった。


 ◆


 クイーンズキャッスル内に一人でいた私は、森のプリンセスからの通信にて、時のプリンスが負傷しながらも皆の協力によって助かったということを知った。

「そのようなことになっていたなんて……。でも、助かりそうで良かったです」

 ミクニが急遽盾のキャッスルへ行くこととなったこともあって、何かが起きているのだろうということは想像できていた。
 しかし時のプリンスがやられていたとは。
 そこまでは想像できていなかった。

『詳しく説明するのが遅くなってごめんなさいねー』
「いえ、問題ありません。ところで、森のプリンセスさんは今はどこに?」
『時のキャッスルよー。無人になるのはまずいもの、一応わたしが見張っているのー』

 状況は確実に変わりつつある。
 物語は進んでいる。
 クイーンズキャッスルに被害はなくとも、何もかもが止まっているわけではない。

 その後私は時のプリンスに連絡して様子を確認しつつアオと話したり一人寂しく戦闘の練習を重ねたりして何もない時間を過ごした。そうしているうちに盾のプリンスから「もういい」と言われたらしいミクニが戻ってきて。それからはまたミクニに力を貸してもらって、模擬戦闘のようなものを行った。

「突き飛ばし、なかなか良い感じじゃない?」
「そうでしょうか」

 しばらく本気で動くと息が乱れる。それは今も変わらない。けれどもそれにももう慣れてきていて。最初の頃は息が乱れると思考も乱れて疲労を過剰に感じてしまうこともあったが、今ではそんなものと流せるようになっている。

 今なら少しは役に立てるのでは?

 段々そんなことまで思えてくる。


 ◆


「んはぁーっ! やられチャウなんて」

 基地へ戻ったヨクはくるくる回る椅子に座ったまま豪快に背伸び。

「想定外、だわ」
「はい」

 彼のすぐ傍には青髪女性が一人。
 無機質な彼女は、紺色のメイドを連想させる服を身にまとい、両手を腹の前で重ねて真っ直ぐに立っている。

「森のプリンセス……あの女、厄介ね」
「はい。現プリンセス・プリンスの中では最も実力者と思われます」
「嫌ね」
「最大の障害となる可能性が高いです」
「あんなやつがいたらお気に入りを捕まえられないじゃない!」

 ヨクは安そうな肘置きをばんと叩く。

「お気に入りを捕まえる、ですか?」
「時のプリンスよ!」
「……時のプリンス? なぜお気に入りなのでしょう? 敵では」
「個人的にツボなのよっ!!」

 鋭く放ち、少しして、ヨクはふぅーと息を吐き出す。

「ま、でも、駄目よね。王たる者ゆえアタチ第一ってわけにもいかないもの。……はぁー」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

結婚してるのに、屋敷を出たら幸せでした。

恋愛系
恋愛
屋敷が大っ嫌いだったミア。 そして、屋敷から出ると決め 計画を実行したら 皮肉にも失敗しそうになっていた。 そんな時彼に出会い。 王国の陛下を捨てて、村で元気に暮らす! と、そんな時に聖騎士が来た

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

処理中です...