プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.120 それでいい

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 互いに鋭い刃のような雰囲気を放ち合うヨクと時のプリンス。
 その様子を少し離れたところから見つめるアオの面には不安の色が濃く浮かんでいた。
 アオとて避けられない戦いがあることは分かっている。敵がその気で来たのなら、はいはいと従って相手の足を舐めるわけにはいかないことも。時にぶつかり合わざるを得ないということもあるのだと分かりながらも、それでも消えない不安は確かにあるのである。

「気が強いのね? ま、そういうトコロもより燃えるケド……」

 そこまで言ってヨクは一旦口の動きを停止させる――そして、不意打ちのように、読みづらいタイミングで回し蹴りを放つ。
 人体と人体が激突するような音が鳴る。
 時のプリンスは手にしていた棒で脚を防いでいた。

「捕まえるのにひと苦労するっていうノハ、嬉しくはないわね」
「…………」

 時のプリンスは言葉を返すことはせず蹴りを返す。長い脚から繰り出される蹴りはヨクの鳩尾に狙いを定めていたがヨクは紙一重のところでかわした。紙一重でかわした、といっても心理的には余裕があり、ヨクは心の波を発生させてはいない。蹴りは回避された時のプリンスだがそこで諦めることはせず、二発目三発目と攻撃を繰り出す。蹴りと棒を使用しての攻撃を織りまぜ、独特のテンポで、徐々に自分のペースを築いてゆく。

 だがその頃になると一度は蹴散らした女性二人が動ける状態に戻った。
 一人はアオが再び指を伸ばす技を使用して動きを抑える。しかしアオが二人を同時に相手をすることはできず。もう一人の女性は時のプリンスの方へ向かっていってしまう。

「援護いたします!」

 状況が変わる。
 一対二となる。
 とはいえそれだけのことで怯む時のプリンスではない。彼はただひたすらに敵だけを見据え動く。確実に、確かな道を見出だそうとしている。敵の攻撃は防ぎ、ダメージを受けないよう気をつけつつ交戦していた。
 そして戦いは空中戦へと変化していく。

「プリンス……」

 女性一人の動きを停止させていたアオは、最大威力の指先攻撃で相手を仕留めてから、不安そのもののような色を顔に浮かべて上へ目をやる。

 人間とは異なるプリンセスプリンスたちは空中であってもある程度身体の操作は可能。飛行している敵であっても相手できる仕様となっている。とはいえ基本的には地上での戦いが多い。それゆえ、空中戦となると地上で戦うのとは慣れ具合が異なる。地上でなら容易くできることであっても宙でそれを完全に再現できるかとなると可能である保証はない。

 だからこそアオの胸の心配は膨らむばかりなのだ。

 宙での交戦は激しさを増してゆく。
 平時は静寂そのものの時のキャッスルに、らしくない殺伐とした音が繰り返し響いていた。

「ぐっ……」

 どむ、と、深みと厚みのある音が鳴る。
 時のプリンスの鳩尾辺りにヨクの片肘が入っていた。

「残念だけど、アナタに勝ち目はないのよ」

 ニヤリと黒い笑みを浮かべるヨクにある種の不気味さを感じたからか、時のプリンスは一旦敵から距離を取る。
 そのタイミングで迫ってきた女性の爪攻撃は近くにあった一本の柱を盾とすることで無効化。さらに、棒を振り下ろし叩くことで、女性を墜落させた。
 アオは女性が落ちてきたことに驚きつつも素早く指による攻撃を浴びせ女性を消し飛ばす。
 だが、次の瞬間。
 時のプリンスはヨクの黒いエネルギー弾を食らい、凄まじい勢いで上から下へ。重力という波に乗るように一気に落ちる。

「……駄目!!」

 アオは叫ぶ。
 時のプリンスの落下地点となるであろう場所に、先ほどヨクが壊し削った面を上にして置いた鉛筆のような柱があったから。

 ――だが。

 仰向けに落下した時のプリンスは柱に貫かれた。

「そんな……」

 愕然とするアオ。
 歯がカタカタと鳴っている。

「……っぁ」

 時のプリンスは暫し状況を飲み込めていないような面持ちでいたが、やがて、己の身がどうなっているかを、悟ったようであった。

「逆らうからよ」

 その様子を見下ろしていたヨクは吐き捨てるように呟いた。
 静けさが戻る。
 だがそれはこれまでの静けさとは異なるもので。

「時のプリンス……」

 アオは青い顔になる。
 震える脚を折らないよう必死に耐えて立ち姿勢を保っていた。

「……アオ」

 届くのは、今にも消えてしまいそうな時のプリンスの声。
 だがそれが心折れかけていたアオに力を取り戻させる。

「ま、待っていてください! 誰か呼んできます!」

 アオは全力で叫んだ。

「必ず戻りますから!」

 そして走り出す。
 今やプリンセス・プリンスの仲間となったアオ、キャッスル間の行き来にも許可が出ている。

 彼を一人残してゆくのは嫌でも。
 助けを呼ぼう。

 ――それがアオの心であった。

 キャッスルに残されたのは、壊れた柱に刺さった時のプリンスと満足気にそれを見下ろすヨクの二人だけ。

「アラアラ、残念。あの子にまで置いて逃げられちゃったわね」

 ヨクは刺激するように言うが。

「……それでいい」

 時のプリンスは乗りはしなかった。

「あんなに必死に護ってきたノニこんなあっさり捨てられるなんて憐れね。だから言っタノヨ。アタチに従え、って。大人しく従ってイレバこんなことにはならなかったのにね」
「従う、か。……馬鹿が、……そんなこと」
「ンフ。どうやら毒を吐ききる元気さえなさそうね」

 ヨクはくすくすと笑う。

「とはいえ。プリンスだもの、この程度で即死はしないでしょうね。楽しめソウダわ。良い機会だし、どうなるかじっくり見せてもらおうかしら」

 時のプリンスは柱に貫かれたままでじっとしていた。
 刺さった柱を自力で抜くことは難しく、打てる手が少ない。
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