111 / 141
episode.110 侵入者と収穫
しおりを挟む
目の前にいる男性――漆黒の着物なる異国の服をまとっている彼は、ホットミルクを飲みながら昔からの友人と話しているかのような雰囲気で話しかけてくる。
「アタチ、ヨクっていうの。よろしくね」
ここのリーダーみたいな者と言っていた、彼も敵なのだろう。
でもなぜか敵意は感じない。
こちらを油断させるために本心を隠してそう振る舞っているのだとしたら、かなりの演技力だ。
「アタチ、こういうのが使えるのよね」
彼は黒く塗られた長い爪のついた片手を胸の前で開く。するとその手のひらの真上に小型パネルが現れた。人の顔よりほんの少し小さいくらいのパネルだが、私たちが通信する時のパネルに見た目の仕様は似ていた。
そのパネルに映し出されているのは時のプリンスだった。
黒い部屋で手足を拘束されている状態だ。
壁に貼り付けられた彼を斜め上から撮影したようなアングルである。
「えっと……これは一体?」
こんなものをいきなり見せられても困ってしまう。
「アタチの能力よ」
「通信ですか?」
「いいえ、外れね。これは過去の映像。映像を記録に残せる、それがアタチが持つ能力なの」
彼はパネルを出していない方の手でカップ持ち、ゆったりとミルクを飲んでいた。
「一瞬が永遠にナルってことよ。うふふ、なかなかいいんジャナイかしら」
「ではそれは、彼が囚われていた時の映像ですか?」
「そういうコト! よく話が分かってるわね、いい感じよ」
褒められても何とも言えない気持ちになるだけだ。
「これ、アタチの最近一番のお気に入りなのよね」
「そうですか」
「だってだって、好みの男が虐められてるのって最高じゃない?」
ヨクは頬を僅かに赤らめる。
紅を塗った薄い唇が笑みの形を作るのが少々不気味だ。
正直、私には、その趣味は理解しきれない部分がある。でも彼がそう言うのだから、彼の中ではそうなのだろう。誰しも理解してもらえない部分はあるものだ、彼にだってそういうところはあるだろう。不思議な趣味とは思うが、それもまた、私の感性に照らし合わすからというだけのこと。彼の感性をもって見れば、それが普通で、当たり前なのだろう。
「これでも感謝してるのよ? 最高の作品をありがとね」
映っているのは時のプリンスだ、私に礼を言われても困ってしまう。
「安心していいのよ。アナタを意味もなく虐める気はないから。アタチ、女虐めにはまーったく興味ないの」
ヨクがそう言って微笑んだ、刹那。
『ご報告申し上げます』
彼の耳もとから女性の声が聞こえてきた。
どうやら彼の耳には小型の通信機のようなものが装着してあるようだ。耳についた豆のようなそれを使えば、音声のみながら会話ができるのだろう。
声は明らかにそこから流れてきているので間違いないと思う。
『侵入者三名を確認しました』
「何者かしら」
ヨクがまとっている空気は急に変わった。
先ほどまでの穏やかさは一瞬にして消え去った。
『女性二人男性一人、現在施設内を逃走中です』
「捕らえなさい」
『承知しました、我らが王』
女性の声はそれで終わりだった。
「悪いわね、今日はお開きとさせてもらうわ」
「いえ……」
「じゃ、おやすみなさい」
彼が指をぱちんと鳴らすのとほぼ同時に意識が途切れた。
◆
「まったく。楽しく喋っていたのに邪魔されるなんてがっかりだわ。イライラマックスだわ」
クイーンは意識を喪失。睡眠中と同じような状態となってから、多くある部屋のうちの一つの部屋に運ばれた。そこで床に横たえられ、そのまま放置されることとなる。
「侵入者に関する情報は?」
「目撃者によりますと、プリンセスやプリンスの可能性があるとのことでした」
騒々しくなった通路にて、報告係の青髪女性と会話するヨク。
「アラ、それはいいわね」
「どういう意味でしょうか」
「今世代のプリンスは三人よね?」
「はい」
ヨクは少しだけ視線を遠くへやって。
「命令よ、男は確実に生きたまま捕らえて」
「はい」
少し間があって、一人「……さんぶんのいち、ね」と呟いた。
◆
気がつくと、私はまた知らない部屋で寝ていた。
最初に寝ていたところだろうか。
今はまだ視力が元通りになりきっておらず全体的にぼやけてしか見えないのだけれど、もしかしたら最初のところかもしれない。
私は確か……あのヨクとかいう女性風の男性と過ごしていて……。
一つ一つ記憶の断片を探る。
次第に思い出してきた。
私はあのヨクという人とミルクを飲みつつ喋っていた。彼の趣味やら何やらについて聞いていた最中、侵入者が確認されて。それでミルクを楽しむ会は終わってしまった。
でも、その先の記憶がない。
ぼんやりしていたその時、突如扉が開いた。
スライド式だったらしく重いものが転がるような音がしたと思ってそちらへ視線を向けると、どこかで見たような顔。
「……!」
「時のプリンスさん!?」
急激に目が覚めた。
上半身を起こす。
「どうして貴方が!? え、あの、なぜ!?」
混乱してやたらと声を発してしまっていると、手袋をはめた手で口を塞がれる。
「……黙れ」
ますます意味が分からなくなってしまう。
何か言おうとするけれど、口もとを塞がれているせいで、ただもがもがなるばかり。
「話すな」
よく分からないが従っておくことにした。
直後、ばたばたという足音が部屋の前を通過していった。
すると手が離された。
「あの……これは一体……?」
「調査。しかし皆とはぐれてしまった」
「えっと、調査とは……?」
「一から百まで説明せねば分からぬか」
冷ややかな声に心が震えた。
怖い、と。
「お主がここにおるかの調査」
「私? でも、だとしたら、どうして貴方が」
「……我はアオの付き添いよ」
面倒臭い、とでも言いたげな口調だった。
「アオさんも来てくださっているのですか」
「も、ではない。我はただアオが行くと譲らぬので同行したのみ。お主に興味なんぞないわ」
彼は言いきってから数秒の間を空けて続ける。
「とはいえ、発見できたのは収穫と言えるかもしれぬな」
「アタチ、ヨクっていうの。よろしくね」
ここのリーダーみたいな者と言っていた、彼も敵なのだろう。
でもなぜか敵意は感じない。
こちらを油断させるために本心を隠してそう振る舞っているのだとしたら、かなりの演技力だ。
「アタチ、こういうのが使えるのよね」
彼は黒く塗られた長い爪のついた片手を胸の前で開く。するとその手のひらの真上に小型パネルが現れた。人の顔よりほんの少し小さいくらいのパネルだが、私たちが通信する時のパネルに見た目の仕様は似ていた。
そのパネルに映し出されているのは時のプリンスだった。
黒い部屋で手足を拘束されている状態だ。
壁に貼り付けられた彼を斜め上から撮影したようなアングルである。
「えっと……これは一体?」
こんなものをいきなり見せられても困ってしまう。
「アタチの能力よ」
「通信ですか?」
「いいえ、外れね。これは過去の映像。映像を記録に残せる、それがアタチが持つ能力なの」
彼はパネルを出していない方の手でカップ持ち、ゆったりとミルクを飲んでいた。
「一瞬が永遠にナルってことよ。うふふ、なかなかいいんジャナイかしら」
「ではそれは、彼が囚われていた時の映像ですか?」
「そういうコト! よく話が分かってるわね、いい感じよ」
褒められても何とも言えない気持ちになるだけだ。
「これ、アタチの最近一番のお気に入りなのよね」
「そうですか」
「だってだって、好みの男が虐められてるのって最高じゃない?」
ヨクは頬を僅かに赤らめる。
紅を塗った薄い唇が笑みの形を作るのが少々不気味だ。
正直、私には、その趣味は理解しきれない部分がある。でも彼がそう言うのだから、彼の中ではそうなのだろう。誰しも理解してもらえない部分はあるものだ、彼にだってそういうところはあるだろう。不思議な趣味とは思うが、それもまた、私の感性に照らし合わすからというだけのこと。彼の感性をもって見れば、それが普通で、当たり前なのだろう。
「これでも感謝してるのよ? 最高の作品をありがとね」
映っているのは時のプリンスだ、私に礼を言われても困ってしまう。
「安心していいのよ。アナタを意味もなく虐める気はないから。アタチ、女虐めにはまーったく興味ないの」
ヨクがそう言って微笑んだ、刹那。
『ご報告申し上げます』
彼の耳もとから女性の声が聞こえてきた。
どうやら彼の耳には小型の通信機のようなものが装着してあるようだ。耳についた豆のようなそれを使えば、音声のみながら会話ができるのだろう。
声は明らかにそこから流れてきているので間違いないと思う。
『侵入者三名を確認しました』
「何者かしら」
ヨクがまとっている空気は急に変わった。
先ほどまでの穏やかさは一瞬にして消え去った。
『女性二人男性一人、現在施設内を逃走中です』
「捕らえなさい」
『承知しました、我らが王』
女性の声はそれで終わりだった。
「悪いわね、今日はお開きとさせてもらうわ」
「いえ……」
「じゃ、おやすみなさい」
彼が指をぱちんと鳴らすのとほぼ同時に意識が途切れた。
◆
「まったく。楽しく喋っていたのに邪魔されるなんてがっかりだわ。イライラマックスだわ」
クイーンは意識を喪失。睡眠中と同じような状態となってから、多くある部屋のうちの一つの部屋に運ばれた。そこで床に横たえられ、そのまま放置されることとなる。
「侵入者に関する情報は?」
「目撃者によりますと、プリンセスやプリンスの可能性があるとのことでした」
騒々しくなった通路にて、報告係の青髪女性と会話するヨク。
「アラ、それはいいわね」
「どういう意味でしょうか」
「今世代のプリンスは三人よね?」
「はい」
ヨクは少しだけ視線を遠くへやって。
「命令よ、男は確実に生きたまま捕らえて」
「はい」
少し間があって、一人「……さんぶんのいち、ね」と呟いた。
◆
気がつくと、私はまた知らない部屋で寝ていた。
最初に寝ていたところだろうか。
今はまだ視力が元通りになりきっておらず全体的にぼやけてしか見えないのだけれど、もしかしたら最初のところかもしれない。
私は確か……あのヨクとかいう女性風の男性と過ごしていて……。
一つ一つ記憶の断片を探る。
次第に思い出してきた。
私はあのヨクという人とミルクを飲みつつ喋っていた。彼の趣味やら何やらについて聞いていた最中、侵入者が確認されて。それでミルクを楽しむ会は終わってしまった。
でも、その先の記憶がない。
ぼんやりしていたその時、突如扉が開いた。
スライド式だったらしく重いものが転がるような音がしたと思ってそちらへ視線を向けると、どこかで見たような顔。
「……!」
「時のプリンスさん!?」
急激に目が覚めた。
上半身を起こす。
「どうして貴方が!? え、あの、なぜ!?」
混乱してやたらと声を発してしまっていると、手袋をはめた手で口を塞がれる。
「……黙れ」
ますます意味が分からなくなってしまう。
何か言おうとするけれど、口もとを塞がれているせいで、ただもがもがなるばかり。
「話すな」
よく分からないが従っておくことにした。
直後、ばたばたという足音が部屋の前を通過していった。
すると手が離された。
「あの……これは一体……?」
「調査。しかし皆とはぐれてしまった」
「えっと、調査とは……?」
「一から百まで説明せねば分からぬか」
冷ややかな声に心が震えた。
怖い、と。
「お主がここにおるかの調査」
「私? でも、だとしたら、どうして貴方が」
「……我はアオの付き添いよ」
面倒臭い、とでも言いたげな口調だった。
「アオさんも来てくださっているのですか」
「も、ではない。我はただアオが行くと譲らぬので同行したのみ。お主に興味なんぞないわ」
彼は言いきってから数秒の間を空けて続ける。
「とはいえ、発見できたのは収穫と言えるかもしれぬな」
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜
白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。
私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。
けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?
関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。
竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。
『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』
❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。
*乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。
*表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。
*いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。
*他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる