プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.52 夢の続きはこの先で

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 かくして、脱走劇が始まったのだが。

「こちらで良かったのか?」
「まったくもって理解不能です」
「問いの答え!」
「なぜこのような目に遭わなくてはならないのか」
「会話にならん……」

 走りながらだからか否か不明ながら、どうも噛み合わない時のプリンスと女性である。

「しかし幸運でした。この向きであれば脱出口へは最短ルートで迎えます」
「先にそれを言えと……」
「うるさいですね。黙ってください」
「黙れとは何を言い出すのか!」

 複雑な構造の通路、しかし女性はそれを熟知している。女性がいる今、二人が道に迷うことはない。

「言っておきますが貴方に協力するのは廃棄処分を回避するため、勘違いしないでくださいね」
「いちいち言わずとも勘違いせんわ!」

 その時、二人の前に敵二名が現れる。
 先ほどもたくさんいた、女性に似た容姿の敵。

「どうしますか」
「……こちらを見るなよ」
「はい? 何を言って――」

 言いかけて、女性は言葉を呑み込んだ。
 プリンスが目もとにつけていた仮面をあげていて、しかも、その下の瞳と目を合わせてしまった敵の動きが停止していたから。
 女性が愕然としていると、プリンスはすぐに仮面を元に戻して声をかける。

「急げ」
「……分かりました」

 二人は進むことを再開する。
 すぐそこまで追手が迫っているわけではないものの、逃げきらねばならないのならのんびりしている時間はない。
 しかし女性はプリンスの力に強く興味を抱いていた。
 危機的状況にありながらも好奇心が先走り、色々知りたくて仕方がない状態になっている。

「驚きました。それが貴方の力なのですね」
「あまり使わん」
「それは非常に使える力です、有効活用しましょう」
「あまり使わんと言っておるだろうが」

 女性自身、不思議さを感じていた。自ら誰かに興味を持つ、なんてことは久々だったから。自分がこれほど他者に興味を持つ機会がこんな形でやって来るなど想定外で、不思議で仕方ないのだが、それと同時に独特のむず痒さのようなものもあって。

「しかし、それがあれば脱出も容易になるでしょう。使わない理由がありません」
「殺す気か」
「なぜですか? 何度も使えない理由、あるいは何らかのデメリットが?」

 女性が問うと。

「死ぬ」

 時のプリンスはそれだけ答えた。

「……比喩でしょうか」
「違う」
「直接的な表現を希望します」
「違うというのに」
「ではそのままの解釈でよろしいでしょうか。先ほどの力を使うと死ぬ、と」
「一度二度では死なんが多用はできん」
「承知しました。そして、そろそろ脱出口が近づいて――」

 あの扉を開けてしまえば外と繋がる空間へ出られる。
 女性が安堵しかけた瞬間。
 扉の前に炎のような影が出現した。

「逃げられると思うな!!」

 炎のような影が激怒している。
 女性は恐怖を感じずにはいられなかった。

 ただ、それでも、かつて怒られた時に比べれば恐怖心は薄れている。少なくとも、唯一の主たる影に切り捨てられる恐怖を感じることは、今はもうない。

 たとえかつて誰より憧れていた者が相手であったとしても。

 彼女はもう剣を手に入れた。
 ここではないところで生きてゆくという選択肢を。

「私はもうここに留まる気はありません」
「機械人形に何ができる!」
「その昔、生まれた頃、貴方のことをお慕いしていました。けれどもそれはただの夢でしかなかった。それも、絶対に叶うことのない夢……」
「洗脳されたか!」
「いいえ」
「それとも何だ、それが定めとでも言うのか? 誰かと同じようにか?」

 女性は首を横に振る。

「私が選ぶのは私の道、抗うのも己が未来のため――邪魔はさせません!!」

 叫び、女性は指を伸ばした。
 一斉に伸びた指先から迸る電撃が炎のような影の気を引く。
 その隙に直進したプリンスはドアノブに手をかける。それをぐるりと回すと扉が開いた。扉が開いたと判断した女性はそのままプリンスの方へ真っ直ぐに走る。

「待て!」

 炎のような影は叫ぶがもう遅い。
 影が体勢を立て直した時には、既に二人は合流していた。

「さようなら。――夢の続きはこの先で」

 そして、二人は去った。


 ◆


「も、もしかして……私……とんでもないことをやらかしてしまったのでは……」
「だろうな」

 時のプリンスと女性は勢いのままに脱出し、時のキャッスルへ移動した。
 幸い時のキャッスルはそこまで荒らされておらず以前のままに近い状態だった。そのため、それほど色々することなく、ちょっとした手続きだけで元の状態にすることができた。

「任務を放棄したうえ、敵の男に乗せられお持ち帰り……!? これは厳罰必死……!?」

 女性はいろんな意味でぷるぷる震えている。
 一方時のプリンスはというと、帰還したことを連絡するべく作業を行っていた。

「解放を望むか」
「い、いえ……今さら逃げはしません。ここへ来たのは私の意思ですので。た、たとえ、場の空気に流されていたとしても……ついてきたことは事実ですから……貴方のしたいようにすれば良いのです!」

 言いつつも、女性はじわじわ後退していた。

「いや、何もしないが」
「え」
「ただし、他のプリンセスプリンスらに報告はする」
「ほ、報告……」
「そう恐れるな。危害を加えられることはないだろう、安心せよ」

 すると女性はやっと少し安心した顔になり、それから一度咳払いをした。

「そういうことであれば承知しました。逃げも隠れもしませんので、必要であらば人前にも出ます。何でも仰ってください」

 安心感を手に入れた女性は急に堂々とし始める。

「では名を聞いておくか」
「はい?」
「名前を聞いている」
「え……名前……個体の識別番号でも?」

 プリンスは、はぁ、と小さく息を吐き出す。

「名はない、か」
「識別番号になります」

 言いつつも女性は周囲を見回している。
 時のキャッスルの幻想的な風景に魅了されていた。

「それでは厳しい」
「そうですか。それは……申し訳ありません」

 今度は背を大きく反らせて上へ視線を向けている。
 周囲を見ることに何の躊躇いもない女性である。

「では仮の名としてアオとしておこう」
「……ネーミングセンスが残念ですね」

 女性はそんなことをばっさり言いきったが。

「評価なんぞ求めておらん」

 新たな名が気に入っていないかというとそんなこともなく。

「承知しました。では――改めまして、アオと申します」

 彼女は少々恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
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