50 / 141
episode.49 いつでも聞いてあげるけど
しおりを挟む
離れていてもこうして皆の顔を見ることができる。それは嬉しいことなのだけれど、だからといって心が晴れやかになるかというと案外そうでもなくて。
「森のプリンセスさん、よければ今度また愛のプリンセスさんとお話させてください」
『えぇ! もちろん!』
「あ……あの、なんというか……ちょっと変なことを言ってしまってすみません」
『え? まさか。そんなことないわよー、変だなんてー』
森のプリンセスは穏やかそのものだった。
ありがたいことだ。
やらかしてしまっていなかったと分かり安堵していた、その時。
『そういえば』
それまで特に何も発していなかった盾のプリンスが口を開いた。
『あれからクイーンズキャッスルは何もないのか?』
変化があったら報告するって……と内心突っ込みを入れつつも口からは出さずにいると。
『何かあったんなら言うだろ、普通』
海のプリンスがさらりと指摘した。
これに関しては同感だ。
『……そういうものか』
『当たり前だろ』
『そうか。……分かった』
結局この件に関して私の出る幕はなかった。海のプリンスが綺麗さっぱり片付けてくれたから。もっとも、私に関係する話題なのにそんな結末になったから、少し不思議な感じはしたけれど。
そうして通信は終了。
コンパクトを両手で上下から押さえるように持ちながらほっとしていると、そこへ、辺りをうろうろしていたミクニが戻ってきた。
「終わったみたいね」
私へ視線を向けるなり彼女はそう言った。
こちらは特に何も言わなかったのだけれど、それでも察してもらえたみたいだ。
「はい」
彼女とこうして二人でいるなんて不思議な感じ。
ついこの前までは敵だったのに。
これもまた運命か。だとしたら、運命とは良くも悪くも不思議なものだ。敵として出会った者とこうして共に暮らし、味方だったはずの者とは今や敵となり会えない。何という奇妙な状況。
「どうだった?」
「皆さん生きていました」
「そう。ま、なら良かったじゃない」
ミクニは大人びた雰囲気と気の強そうな感じが混ざった面に軽く笑みを浮かべる。
「……ミクニさんって」
「何?」
「そんな風に……笑うんですね」
眉間にしわを寄せ怪訝な顔をするミクニ。
「いきなり何なの?」
「あ……いえ。すみません。変ですよね、いきなり」
一旦座に腰を下ろす。
それから改めてミクニの方へ視線を向けた。
「ふと思ったんです」
「思った?」
「ミクニさんが笑うところ、見られて良かったなって」
するとミクニはますますよく分からないとでも言いたげな顔をする。
無理もないか。
よく分からないことを言っているという自覚もまったくないわけではない。
「あたしが笑うところの何がそんなに楽しいのかしら。まったくもって謎だわ」
「嬉しいんです、別ればかりじゃなかったことが」
「言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい。変に曖昧に言わなくていいから」
「そうですね。そうします。……ここ最近、別れがたくさんで」
彼女は座に腰を下ろしている私の真正面に立っているまま。
凝視されると得たいの知れない圧を感じる。
「ざっくり言えば先輩で仲間みたいなものなんですけど……剣のプリンセスさんとか杖のプリンセスさんとか、皆、敵に操られたり色々してしまって一緒にいられなくて、それで……本当は、少し寂しかったのです」
永遠の別れと決まったわけではないけれど、共にいられなくなったことは事実だ。
「このままどんどん別れていくことしかないのかな、って、少し不安になったり……していたんです、実は……」
そこまで言うと、ミクニは渋いものを食べてしまったような顔をする。
「どうしてそれをあたしに言うのよ」
「……え?」
「そういう話なら、記憶がないあたしに言うより、お仲間に言いなさいよ。いるじゃない、何とかのプリンセス、とか。その方が良いのではないの?」
右手で少し邪魔になった髪を掻き上げるミクニ。
「いえ」
「違う?」
「はい。だって……心配させてしまうじゃないですか、そんなことを話したら」
ミクニはぽかんと口を空ける。
「皆さん優しいですから……心配してくれるだろうと思うんです。でも、本当は心配されるべきなのは私じゃないですし……間違いなく迷惑になるだろうな、って……」
言い終えた数秒後、ミクニは高らかに笑った。
「あー、おかし。でも、そういうことなら、確かにあたしが適任かもね!」
一応理解してもらえたようだ。
「あたしって優しくないものね! 確かにそんなに心配はしないわ! あはは笑える」
「あ……あの、べつに、悪口で言ったわけじゃ……」
「何言ってるの? 悪口とか思ってないわよ」
やらかしてしまったかと一瞬焦ったが、ミクニは悪い風には捉えていないようだった。また、気を遣って「気にしていない」というように振る舞っているわけでもなさそう。どうやら本気で気にしていないようだ――彼女の表情や口調からそう感じた。
「ま、できることなら協力するから」
「ありがとうございます」
「だから細かいことは気にしないでちょうだい。湿っぽいのは好きじゃないの」
とても頼もしく思う。
感謝したい。
森のプリンセスや盾のプリンスには心配させてしまいそうで言えないこともミクニになら言えるだろう、きっとこれからも。
「そうですよね……! 弱っている場合じゃないですよね……!」
言いたいことははっきり言って、引きずらない人でありたい。
ちょっとした努力でそんな人になれそうかというと、正直あまり自信がないが。
「そうよ。ま、愚痴ならあたしがいつでも聞いてあげるけど。聞くだけなら、ね」
「何だか元気? になってきた気がします!」
「単純ね」
「え、ええっ……」
さりげなく心ないところが辛いが――逆に少し元気が出てきたような気もするのだった。
「森のプリンセスさん、よければ今度また愛のプリンセスさんとお話させてください」
『えぇ! もちろん!』
「あ……あの、なんというか……ちょっと変なことを言ってしまってすみません」
『え? まさか。そんなことないわよー、変だなんてー』
森のプリンセスは穏やかそのものだった。
ありがたいことだ。
やらかしてしまっていなかったと分かり安堵していた、その時。
『そういえば』
それまで特に何も発していなかった盾のプリンスが口を開いた。
『あれからクイーンズキャッスルは何もないのか?』
変化があったら報告するって……と内心突っ込みを入れつつも口からは出さずにいると。
『何かあったんなら言うだろ、普通』
海のプリンスがさらりと指摘した。
これに関しては同感だ。
『……そういうものか』
『当たり前だろ』
『そうか。……分かった』
結局この件に関して私の出る幕はなかった。海のプリンスが綺麗さっぱり片付けてくれたから。もっとも、私に関係する話題なのにそんな結末になったから、少し不思議な感じはしたけれど。
そうして通信は終了。
コンパクトを両手で上下から押さえるように持ちながらほっとしていると、そこへ、辺りをうろうろしていたミクニが戻ってきた。
「終わったみたいね」
私へ視線を向けるなり彼女はそう言った。
こちらは特に何も言わなかったのだけれど、それでも察してもらえたみたいだ。
「はい」
彼女とこうして二人でいるなんて不思議な感じ。
ついこの前までは敵だったのに。
これもまた運命か。だとしたら、運命とは良くも悪くも不思議なものだ。敵として出会った者とこうして共に暮らし、味方だったはずの者とは今や敵となり会えない。何という奇妙な状況。
「どうだった?」
「皆さん生きていました」
「そう。ま、なら良かったじゃない」
ミクニは大人びた雰囲気と気の強そうな感じが混ざった面に軽く笑みを浮かべる。
「……ミクニさんって」
「何?」
「そんな風に……笑うんですね」
眉間にしわを寄せ怪訝な顔をするミクニ。
「いきなり何なの?」
「あ……いえ。すみません。変ですよね、いきなり」
一旦座に腰を下ろす。
それから改めてミクニの方へ視線を向けた。
「ふと思ったんです」
「思った?」
「ミクニさんが笑うところ、見られて良かったなって」
するとミクニはますますよく分からないとでも言いたげな顔をする。
無理もないか。
よく分からないことを言っているという自覚もまったくないわけではない。
「あたしが笑うところの何がそんなに楽しいのかしら。まったくもって謎だわ」
「嬉しいんです、別ればかりじゃなかったことが」
「言いたいことがあるならはっきり言ってちょうだい。変に曖昧に言わなくていいから」
「そうですね。そうします。……ここ最近、別れがたくさんで」
彼女は座に腰を下ろしている私の真正面に立っているまま。
凝視されると得たいの知れない圧を感じる。
「ざっくり言えば先輩で仲間みたいなものなんですけど……剣のプリンセスさんとか杖のプリンセスさんとか、皆、敵に操られたり色々してしまって一緒にいられなくて、それで……本当は、少し寂しかったのです」
永遠の別れと決まったわけではないけれど、共にいられなくなったことは事実だ。
「このままどんどん別れていくことしかないのかな、って、少し不安になったり……していたんです、実は……」
そこまで言うと、ミクニは渋いものを食べてしまったような顔をする。
「どうしてそれをあたしに言うのよ」
「……え?」
「そういう話なら、記憶がないあたしに言うより、お仲間に言いなさいよ。いるじゃない、何とかのプリンセス、とか。その方が良いのではないの?」
右手で少し邪魔になった髪を掻き上げるミクニ。
「いえ」
「違う?」
「はい。だって……心配させてしまうじゃないですか、そんなことを話したら」
ミクニはぽかんと口を空ける。
「皆さん優しいですから……心配してくれるだろうと思うんです。でも、本当は心配されるべきなのは私じゃないですし……間違いなく迷惑になるだろうな、って……」
言い終えた数秒後、ミクニは高らかに笑った。
「あー、おかし。でも、そういうことなら、確かにあたしが適任かもね!」
一応理解してもらえたようだ。
「あたしって優しくないものね! 確かにそんなに心配はしないわ! あはは笑える」
「あ……あの、べつに、悪口で言ったわけじゃ……」
「何言ってるの? 悪口とか思ってないわよ」
やらかしてしまったかと一瞬焦ったが、ミクニは悪い風には捉えていないようだった。また、気を遣って「気にしていない」というように振る舞っているわけでもなさそう。どうやら本気で気にしていないようだ――彼女の表情や口調からそう感じた。
「ま、できることなら協力するから」
「ありがとうございます」
「だから細かいことは気にしないでちょうだい。湿っぽいのは好きじゃないの」
とても頼もしく思う。
感謝したい。
森のプリンセスや盾のプリンスには心配させてしまいそうで言えないこともミクニになら言えるだろう、きっとこれからも。
「そうですよね……! 弱っている場合じゃないですよね……!」
言いたいことははっきり言って、引きずらない人でありたい。
ちょっとした努力でそんな人になれそうかというと、正直あまり自信がないが。
「そうよ。ま、愚痴ならあたしがいつでも聞いてあげるけど。聞くだけなら、ね」
「何だか元気? になってきた気がします!」
「単純ね」
「え、ええっ……」
さりげなく心ないところが辛いが――逆に少し元気が出てきたような気もするのだった。
0
あなたにおすすめの小説
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!
ぽんちゃん
恋愛
――仕事で疲れて会えない。
十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。
記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。
そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
【完結】旦那は堂々と不倫行為をするようになったのですが離婚もさせてくれないので、王子とお父様を味方につけました
よどら文鳥
恋愛
ルーンブレイス国の国家予算に匹敵するほどの資産を持つハイマーネ家のソフィア令嬢は、サーヴィン=アウトロ男爵と恋愛結婚をした。
ソフィアは幸せな人生を送っていけると思っていたのだが、とある日サーヴィンの不倫行為が発覚した。それも一度や二度ではなかった。
ソフィアの気持ちは既に冷めていたため離婚を切り出すも、サーヴィンは立場を理由に認めようとしない。
更にサーヴィンは第二夫妻候補としてラランカという愛人を連れてくる。
再度離婚を申し立てようとするが、ソフィアの財閥と金だけを理由にして一向に離婚を認めようとしなかった。
ソフィアは家から飛び出しピンチになるが、救世主が現れる。
後に全ての成り行きを話し、ロミオ=ルーンブレイス第一王子を味方につけ、更にソフィアの父をも味方につけた。
ソフィアが想定していなかったほどの制裁が始まる。
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる