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episode.42 時間稼ぎをしつつ
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ミクニから視線は逸らさない。なぜって、そんなことをしたら負けたみたいで嫌だから。それに失礼だろう、重要な話をしているというのに。重要な話をしている最中にやたらと目を逸らすような人が信じてもらえるとは思えない。
「ミクニさん、無駄な戦いは避けるべきです」
「まだ言うの? 呆れるわね。そんなことばかり言われたら逆にイライラしてきてしまうわ」
「なぜそんなにも戦いを望むのですか。何がそんな風に考えさせるのですか」
「……ったく! しつこいわね! いい加減にしてちょうだい!」
急に発する声の大きさを上げてきた。
さらに武器を取り出す。
「命乞いでも何でも好きにしていればいいわ。あたしはあたしの役目を果たす、それだけのことよ」
彼女の瞳には真剣さの色が浮かんでいる。
どうやら冗談や脅しというわけではなさそうだ。
鋭い先端を持つ武器を向けられる、それだけでも本能的に恐怖心が芽生える。背中にはいやに冷たい汗が吹き出し、全身の筋肉が硬直へ向かうような感覚がある。
「覚悟なさい!」
ミクニが突進してくる。
私は半ば無意識のうちに両方の手のひらを彼女の方へ向けていて――それによって一時的に張られたバリアのようなものが、突き出された武器の先端を弾く。
ひと突きでやられる最悪なパターンは避けられた。
しかしまだ終わりではない。
一撃目に続く攻撃が来る。
死んでたまるか! ――強く思いつつ、片足で地を蹴り右向きに跳ぶ。
きちんと計算せずに跳んだということもあり、宙に浮いた瞬間にバランスを崩し、転ぶように着地することとなる。身体を回転させるようにして衝撃を抑え、移動しながらの着地を成功させた。
ついてる。
いい感じで身体が動く。
「ち。ちょこまかと……」
苛立ちを露わにするミクニ。
怒りによる爆発力は恐ろしくもあるけれど、苛立ってくれればありがたいという面もある。何があっても冷静さを欠かさない相手とやり合うというのはある意味恐ろしくもあるから。苛立ってくれれば多少は雑さも生まれるというもの、それは対峙する側からすればありがたいことである。
だがどうすれば良いのだろうか。
いつまでも逃げ回っていてはどうしようもない。
こちらにある反撃手段というと限られてくる。手のひらを突き出すことで圧のようなものをかける攻撃は使えるけれど、そこそこ実力のあるミクニにそれだけで勝てるとは考えづらい。体術が使えるわけではないから跳躍も攻撃には役に立ちそうにはないし。
「戦うのはやめてください! 無意味です!」
ミクニはさらに突っ込んでくる。
意地でも戦いを続ける気のようだ。
「クイーンを仕留めれば今までの失敗も帳消しにできるわ。あたしのために死んでちょうだい」
「それはできません!」
私は取り敢えず攻撃をよける。クイーンになって手に入れたこの跳躍の力を利用して。小さな足の力で通常より長距離離れられるこの跳躍の力は、敵からの攻撃を回避するにあたっては凄く便利だ。
「貴女の力になりたくないから死ねないのではありませんが、私は死ねませんし、死にたくないんです!」
その時。
私のすぐそばでもミクニのすぐそばでもない位置に一筋の雷のようなものが落ちる。
ミクニの顔の筋肉がぴくりと動く。
そして私もまた緊迫感を覚えた――その雷に心当たりがあったから。
「ミクニよ、何をてこずっておる」
黒い炎のような影、それはかつて盾のキャッスルで見たことのある存在だ。盾のキャッスルを奪還する戦いの時に見かけた。確かあの時も、今回と似たような感じで、落雷と共に現れたと記憶している。もっとも、それ以上の詳しいことは何も知らないが。
「も、申し訳ありません! しかし、その……もうじき! 倒せます! ですからどうかお許しください、すぐに仕留めてみせます!」
もはや謎の群れだ。疑問点だらけである。だってそうだろう、次から次へとおかしなことが起きているのだから。その代表格が、なぜ敵がここへ入れているのかということ。こちらが運んできたミクニは特例だろうしまだ理解はできるけれども、炎のような影がここに入れているのはおかしいとしか言い様がない。
クイーンズキャッスルは襲われないというあの話は何だったのか。
「そのような無力な小娘相手にもたもたしているなど馬鹿としか言えぬ」
「で、ですから! すぐに仕留めますので!」
面に焦りの色を滲ませつつ言って、ミクニはこちらを睨んでくる。
「怒られたじゃない……絶対許さないから……!」
正直想定外だ。怒られたじゃないと怒られるなんていう可能性、考えていなかった。いや、そもそも、いい年した大人の女性がそんな理不尽なことを言ってくるなんて、普通は考えないだろう。
「すぐに消してあげるわ。……死になさい!!」
炎のような影は動き出さないし何もしない。私を倒そうとするミクニを少し離れたところから眺めているだけだ。
良いような、悪いような。
迫り来るミクニの武器、私は両手の手のひらをかざし弾く――が、続くひと振りでバリアのようなものが破壊されてしまう。私が咄嗟に張っただけの簡易バリアだ、強度はそれほど優れていないのだろう。
「終わりよ!」
響くミクニの鋭い声。
生命の危機を強く感じる。
こんなところで死ねない! と思った瞬間、無意識で両手を前方に突き出していた。
「なっ……」
ミクニの顔が強張る。
直後、彼女の身体が凄い勢いで後ろ向きに飛んでいった。
「え……」
私は思わずそんな声を漏らしてしまう。
何が起きたか分からなくて。
かつて突き飛ばしのような技が使えたことはあったが、ここまでの出力にできるとは……自分のことながら知らなかった。
「ミクニさん、無駄な戦いは避けるべきです」
「まだ言うの? 呆れるわね。そんなことばかり言われたら逆にイライラしてきてしまうわ」
「なぜそんなにも戦いを望むのですか。何がそんな風に考えさせるのですか」
「……ったく! しつこいわね! いい加減にしてちょうだい!」
急に発する声の大きさを上げてきた。
さらに武器を取り出す。
「命乞いでも何でも好きにしていればいいわ。あたしはあたしの役目を果たす、それだけのことよ」
彼女の瞳には真剣さの色が浮かんでいる。
どうやら冗談や脅しというわけではなさそうだ。
鋭い先端を持つ武器を向けられる、それだけでも本能的に恐怖心が芽生える。背中にはいやに冷たい汗が吹き出し、全身の筋肉が硬直へ向かうような感覚がある。
「覚悟なさい!」
ミクニが突進してくる。
私は半ば無意識のうちに両方の手のひらを彼女の方へ向けていて――それによって一時的に張られたバリアのようなものが、突き出された武器の先端を弾く。
ひと突きでやられる最悪なパターンは避けられた。
しかしまだ終わりではない。
一撃目に続く攻撃が来る。
死んでたまるか! ――強く思いつつ、片足で地を蹴り右向きに跳ぶ。
きちんと計算せずに跳んだということもあり、宙に浮いた瞬間にバランスを崩し、転ぶように着地することとなる。身体を回転させるようにして衝撃を抑え、移動しながらの着地を成功させた。
ついてる。
いい感じで身体が動く。
「ち。ちょこまかと……」
苛立ちを露わにするミクニ。
怒りによる爆発力は恐ろしくもあるけれど、苛立ってくれればありがたいという面もある。何があっても冷静さを欠かさない相手とやり合うというのはある意味恐ろしくもあるから。苛立ってくれれば多少は雑さも生まれるというもの、それは対峙する側からすればありがたいことである。
だがどうすれば良いのだろうか。
いつまでも逃げ回っていてはどうしようもない。
こちらにある反撃手段というと限られてくる。手のひらを突き出すことで圧のようなものをかける攻撃は使えるけれど、そこそこ実力のあるミクニにそれだけで勝てるとは考えづらい。体術が使えるわけではないから跳躍も攻撃には役に立ちそうにはないし。
「戦うのはやめてください! 無意味です!」
ミクニはさらに突っ込んでくる。
意地でも戦いを続ける気のようだ。
「クイーンを仕留めれば今までの失敗も帳消しにできるわ。あたしのために死んでちょうだい」
「それはできません!」
私は取り敢えず攻撃をよける。クイーンになって手に入れたこの跳躍の力を利用して。小さな足の力で通常より長距離離れられるこの跳躍の力は、敵からの攻撃を回避するにあたっては凄く便利だ。
「貴女の力になりたくないから死ねないのではありませんが、私は死ねませんし、死にたくないんです!」
その時。
私のすぐそばでもミクニのすぐそばでもない位置に一筋の雷のようなものが落ちる。
ミクニの顔の筋肉がぴくりと動く。
そして私もまた緊迫感を覚えた――その雷に心当たりがあったから。
「ミクニよ、何をてこずっておる」
黒い炎のような影、それはかつて盾のキャッスルで見たことのある存在だ。盾のキャッスルを奪還する戦いの時に見かけた。確かあの時も、今回と似たような感じで、落雷と共に現れたと記憶している。もっとも、それ以上の詳しいことは何も知らないが。
「も、申し訳ありません! しかし、その……もうじき! 倒せます! ですからどうかお許しください、すぐに仕留めてみせます!」
もはや謎の群れだ。疑問点だらけである。だってそうだろう、次から次へとおかしなことが起きているのだから。その代表格が、なぜ敵がここへ入れているのかということ。こちらが運んできたミクニは特例だろうしまだ理解はできるけれども、炎のような影がここに入れているのはおかしいとしか言い様がない。
クイーンズキャッスルは襲われないというあの話は何だったのか。
「そのような無力な小娘相手にもたもたしているなど馬鹿としか言えぬ」
「で、ですから! すぐに仕留めますので!」
面に焦りの色を滲ませつつ言って、ミクニはこちらを睨んでくる。
「怒られたじゃない……絶対許さないから……!」
正直想定外だ。怒られたじゃないと怒られるなんていう可能性、考えていなかった。いや、そもそも、いい年した大人の女性がそんな理不尽なことを言ってくるなんて、普通は考えないだろう。
「すぐに消してあげるわ。……死になさい!!」
炎のような影は動き出さないし何もしない。私を倒そうとするミクニを少し離れたところから眺めているだけだ。
良いような、悪いような。
迫り来るミクニの武器、私は両手の手のひらをかざし弾く――が、続くひと振りでバリアのようなものが破壊されてしまう。私が咄嗟に張っただけの簡易バリアだ、強度はそれほど優れていないのだろう。
「終わりよ!」
響くミクニの鋭い声。
生命の危機を強く感じる。
こんなところで死ねない! と思った瞬間、無意識で両手を前方に突き出していた。
「なっ……」
ミクニの顔が強張る。
直後、彼女の身体が凄い勢いで後ろ向きに飛んでいった。
「え……」
私は思わずそんな声を漏らしてしまう。
何が起きたか分からなくて。
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