プリンセス・プリンス 〜名もなき者たちの戦い〜

四季

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episode.22 不器用な人たち

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 アザリケは消滅した。
 彼の肉体は灰と化したが、精神はどこへ行ったのだろう。

「あの雑魚の件は俺から報告しておくからよ、心配するなよな」
「はい。ありがとうございます」

 ひとまず敵は去った。危機的状況は回避することができただろう。もっとも、次の手が来ない保証はないのだから、油断はできないけれど。ただ、ひとまず、目の前に在る脅威はなくなった。

「ま、今日のところはこのへんにしておいてやる。そろそろ帰れよクイーン」

 海のプリンスがさらりと言ったのを聞いてハッとなった。

 クイーンと呼ばれていたから。
 もしかしたら少しくらいは信頼してもらえたのかもしれない。

「……はい!」

 唐突に現れた私を信じられないのはおかしいな話ではないし、私とてそれにいちゃもんをつける気はない。何も重ねていないのだから、信頼されないとしても仕方のないこと。それは私も受け入れよう。

 だが、これから協力していかなくてはならないことは事実。
 共に戦う中でいつまでも信頼してもらえない、というのは、さすがに辛いし悲しい。

「ありがとうございました。失礼します」

 これ機に少しは親しくなれれば良いのだが。
 そんなことを思いつつ、私は海のプリンスとキャッスルに別れを告げた。


 ◆


「おかえり!」
「ありがとうございます、戻りました」

 クイーンズキャッスルに帰った私を迎えてくれたのは剣のプリンセス。
 私が帰った時、彼女は、座の近くで木製の櫛を使って髪をといているところだった。

「海のキャッスルどうだった?」
「綺麗なところでした。それに、プリンスさんと少しお話できました」
「海のプリンス生意気でしょ。おかしなことを言われなかった? 少し心配していたのよね」
「大丈夫でした」

 多少余計なことも言われた気がするが、周りに言いふらすほどのことでもないだろう。
 私は座に腰を下ろす。

「しかし……ここは少し寂しいですね」

 周りを見回した時、ふと思った。

「どういうこと?」
「人が少ないですから。もう少し賑やかだと良いのですが」

 人の世で生きてもどのみち一人だった。家族もいなくなったし、友人や恋人がいるわけでもないし。だからあちらの世への未練があるわけではない。一応その気になれば人の世へも行けるようだし、ここへ来たことへの後悔なんてものは存在しない。

 ただ、できることなら、喋り相手が欲しい。

 今は剣のプリンセスがいてくれるけれどそれもいつまで続くか分からない。剣のキャッスルを取り返すことができれば、彼女はあちらへ帰ってしまうだろう。

 そうしたら私はまた一人。
 仕方ないし、誰も悪くないし、それが定めと理解してはいるけれど。

「森のプリンセスさんのように遣いがいれば楽しそうです」
「意外な意見が出たわね……」
「剣のプリンセスさんはそうは思いませんか?」
「あたしはまぁ……そうね。あたしの場合、剣を振っていれば時間は潰せる。だから、そこまで考えてみたことはないかもしれないわ」

 剣のプリンセスは少し気まずそうに答えた。

「それに、味方の数が増えれば、他にも良いことがあります」
「良いこと?」
「はい。敵勢力が拡大したとしても味方が多ければ対抗できるだろう、そんな風に思うのです。一人一人の負担が小さくなるというだけでもありがたいことですし」

 詳しいことは知らないが、敵勢力が大きくなっているのなら、こちらも何か手を打たねばならないようになってくるだろう。

「それもそうだね。じゃあ杖のプリンセスさんに相談してみるわね」
「え!」
「どうして? 相談しない方が良かった?」
「あ……いえ、そういうわけではありません」

 プリンセスプリンスたちがその身に宿す力は特別なもの。それゆえ、たとえ敵の方が数が多くとも簡単に負けることはない。数の有利不利なんてひっくり返してしまえるくらいの力が備わっている。
 だがそれでも完璧ではない。
 敵が増えたら。敵が強くなったら。その時のことを考えると、このままで良いとは思えないのだ。いや、もちろん、意見は色々だろうが。少なくとも私にはそうとしか思えない、という、一つの意見である。

「相談してくるわね」
「今ですか?」
「そうよ。何でも早い方がいいでしょ?」
「それはそうですね。特に急ぎではありませんけど」
「よっし! じゃ、ちょっとここから離れるね。ごめんね!」
「いえ」

 剣のプリンセスは爽やかに手を振りながら去っていった。

 一人になったちょうどその時。
 通信が入った。

『こちら盾のプリンス』

 座の近くの空中に突如現れるパネルのような物体。否、触れられないので厳密には物体とは言えないかもしれないが。そこに映し出されたのは、男性にしては長めのグレーの髪を後ろで一つに束ねている盾のプリンスの姿。

「あ、お久しぶりです」
『調子はどうか』

 そんなことのために連絡してきたのか……?

「健康ですよ。問題も特に発生していませんし」
『そうか』

 彼は短く言って、黙ってしまった。
 早速沈黙が訪れる。

「……あの、何かご用で?」
『いや、特には』
「そうですか……」

 話が続かない。
 またしてもこの苦労に襲われることとなってしまった。

「そちらはどうですか?」
『問題は発生していない』
「良かった。安心しました」

 剣のプリンセスはまだ帰ってこない。

「それにしても、親切ですね」
『え』

 パネルのようなものに映し出されている彼の顔つきが僅かに固くなったように思う。

「調子を確認するためだけに連絡をくださるなんて、親切ですね」
『その意味は?』
「言葉そのままの意味です」
『そうか。……だが、何も私が珍しいわけではないだろう。我々には君を気にする義務がある。無論、君がクイーンである限りは、だが』

 なぜわざわざそんなことを言うの?
 どうして敢えて悲しくなるようなことを言うの?

 私だって分かっている。気にかけてくれたのは現在の関係性ゆえであって、個人としての付き合いあってこそではないということくらい。それでも、せめて、もう少し真実をやんわり包んでほしかった。

「私だから気にかけているわけではない、と言いたいのですか」
『おおよそそんなところだ。それゆえ心配は必要ない』
「……正直あまり嬉しくないです、そんな言い方をされたら」

 自然と声が低くなってしまう。
 感情を隠しきれない。

『まさか、怒っているのか? なぜゆえ?』

 盾のプリンスはきょとんとした顔をしていた。

 自覚はある。
 おかしなことに対して苛立ちの先端を向けている、と。

「そんな風に言われて喜ぶ人なんていませんよ」
『発言の意味が理解できない』
「でしょうね! そうでなければそんな無神経な言い方はできないでしょう」
『なんにせよ、私は君を怒らせるために連絡したわけではない。それは分かってほしい』
「……もう切っても構いませんか?」

 これ以上続けても余計なことを言ってしまうだけ、良いことなんてきっと何も生まれない。
 ただ彼を傷つけるだけの会になってしまいかねない。

『怒らせたならすまない』
「いえ」

 少し間を空けて。

「……貴方は悪くありませんので。ではこれで失礼します」

 一旦通信を切り、はぁと溜め息をつく。

 馬鹿だ、私は。
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