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episode.18 不安を抱きながらも
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落雷に似た現象と共に現れたのは、黒い炎のような影。
それが何かなんて分からない。炎が身体になった存在がいたとしたらこんな感じかな、とは思うけれど。ただ、少なくとも、生まれて今日までこのような存在に出会ったことはない。
ちなみに、高さは剣のプリンセスの二倍くらいはある。
皆が警戒したような顔をしているところから察するに、敵なのだろう。
「これ以上はさせぬ」
響き渡るのは低い声。
まるで地鳴りのよう。
「何者!?」
剣のプリンセスは剣を構えながら問う。
「その問いに答える必要はない」
「何を企んで……」
「今はまだ、これ以上話すことはない」
直後、大地が割れるような凄まじい音と共に、上空から数本の光線が降り注いだ。
凄まじい揺れが足もとを襲う。
光線の位置を確認する余裕などない。転倒しかけた流れのまま、地面に倒れ込み、伏せる。面を上げることはできず、手のひらを地面について瞼を閉じてうずくまる。
長い長い時間が経って。
ようやく瞼を開く。
埃っぽい匂いが漂い嗅覚を刺激する。瞳に映るのは、色のない世界。いや、実際には色がないわけではないのだが。ただ、今は、色がないように見える。
「無事か」
聞こえてきたのは男性の声。
「……盾のプリンスさん」
声の主は盾のプリンス。気づいていなかったけれど、いつの間にか近くにまで来ていたようだ。彼は片膝を着きつつも上に向かって盾を出していた。私が雷のようなものを浴びずに済んだのはその盾のおかげなのだろう。
「あ、あの、これは一体……」
ドレスの裾だけが僅かに焦げていた。
けれども怪我はない。
すべて盾のおかげだ、あんなものを浴びたら即死してもおかしくなかった。
「敵は撤退したようだ」
そう述べる盾のプリンスの肩には一匹の蝶がとまっていた。
恐らくそれがウィリーなのだろう。
「大丈夫……なんですか……?」
「取り敢えず、キャッスルの奪還は成功だろう」
「なら良かったですけど……」
そこまで言った瞬間、剣のプリンセスが近くにいないことに気づく。視線を激しく動かすと、倒れている剣のプリンセスを発見。素早く立ち上がり、彼女の方へ駆ける。
「プリンセスさん! 剣のプリンセスさん!!」
横たわっている彼女は意識を失っているようで、名を呼んでも反応がない。一応呼吸はしているようだが、瞼は閉じられているし、手足もだらりと垂れて脱力しきってしまっている。
「しっかりしてください!」
叫ぶが、返事はない。
一気に込み上げる不安。
もし二度と目覚めなかったら――考えるべきではないのに悪いことばかり考えてしまう。
「フレイヤ様」
「ウィリーさん……これ、どうし……」
彼はまた人の姿に戻っていた。
「杖のキャッスルへ運びましょう。あの方であれば治療してくださるはずです」
「はい……」
「それと、後ほど森のプリンセス様にも連絡して参ります。森のプリンセス様もああ見えて治療に関する知識がおありなのです」
「ありがとう、ございます……」
盾のプリンスはここに残るらしい。自身をキャッスル所有者として登録する手続きを行うとのことだ。また、久々に戻った家のような場所だから、その他にもしなくてはならないこともあるようで。修復も含め色々な用事をするため、ここへとどまるとのことだ。
私はウィリーと協力して剣のプリンセスを運ぶ。
目的地は杖のキャッスルだ。
◆
「すみません。あの捕虜を逃してしまいました」
杖のキャッスルを訪ねた私たちに、杖のプリンセスはいきなり謝罪した。
「ここも何かあったのですか……?」
「はい。敵が現れまして、戦いはしたのですが、拘束していたあの少年を連れ去られてしまいました。……恥ずかしいことですが」
どうやら動きがあったのは盾のキャッスルだけではなかったようだ。
「いえ! いえ! いいんです! 生きていてくださって嬉しいです」
杖のプリンセスは生きている。酷い怪我をしているわけでもない。私はただそれだけでいい。それだけで何もかも許せる。捉えていた敵を逃してしまった、そんなのは小さなことだ。それに、捕まえる必要があるならまた捕まえれば良いだけの話。自分たちが元気でさえいれば、他のことはどうとでもなる。
「クイーン……。ありがとうございます、温かいお言葉を」
杖のプリンセスは少しだけ笑みを浮かべた。
しかしすぐに真剣な面持ちになる。
「剣のプリンセスの治療でしたね。ではこちらへ」
「ありがとうございます」
このタイミングでウィリーとは別れた。ウィリーには、森のプリンセスのところへ帰って現状を伝えるという、一つの用があるのだ。彼は一旦森のプリンセスのところへ戻らなくてはならない。
私はというと、一人で剣のプリンセスを抱き上げることに成功した。
女性とはいえ意識を失っているとそこそこ重みがある。だから一人で持ち上げるのは厳しいだろうと想像していた。けれどもいざ試してみると一人で抱き上げることができた。これもクイーンになったことによる強化によるものだろうか。
「そこそこ激しい戦いになったようでしたね」
「……はい」
剣のプリンセスを灰色の台の上に横たわらせる。
「初めてでああまでなるといろんな意味で驚かれたでしょう」
「はい、びっくりです……」
「無事で良かった。安心しました」
「これは……その、完全に皆さんのおかげです……」
杖のプリンセスは喋りながらも手を動かしている。
手首から指先までの長さくらいの短く細い杖を振れば、少し下に魔法陣のようなものが現れる。
「あの、剣のプリンセスさんは大丈夫でしょうか……」
「今から治療するところです」
「ちゃんと治るのか心配です……」
「残念。わたくしはあまり信頼されていないようですね」
杖のプリンセスの表情を見てハッとする。
失礼なことを言ってしまった、と。
「す、すみません! 失礼なことを!」
落ち込んでいるからって何を言ってもいいわけじゃない。
失礼なものは失礼だし、言ってはならないことだって世の中にはある。
「いえ。お気になさらず」
「本当に! 本当にごめんなさい! 悪気はなかったんです」
「分かっていますよ」
「すみません……」
こんなでクイーンとしてやっていけるのだろうか……。
不安ばかりが募る。
それが何かなんて分からない。炎が身体になった存在がいたとしたらこんな感じかな、とは思うけれど。ただ、少なくとも、生まれて今日までこのような存在に出会ったことはない。
ちなみに、高さは剣のプリンセスの二倍くらいはある。
皆が警戒したような顔をしているところから察するに、敵なのだろう。
「これ以上はさせぬ」
響き渡るのは低い声。
まるで地鳴りのよう。
「何者!?」
剣のプリンセスは剣を構えながら問う。
「その問いに答える必要はない」
「何を企んで……」
「今はまだ、これ以上話すことはない」
直後、大地が割れるような凄まじい音と共に、上空から数本の光線が降り注いだ。
凄まじい揺れが足もとを襲う。
光線の位置を確認する余裕などない。転倒しかけた流れのまま、地面に倒れ込み、伏せる。面を上げることはできず、手のひらを地面について瞼を閉じてうずくまる。
長い長い時間が経って。
ようやく瞼を開く。
埃っぽい匂いが漂い嗅覚を刺激する。瞳に映るのは、色のない世界。いや、実際には色がないわけではないのだが。ただ、今は、色がないように見える。
「無事か」
聞こえてきたのは男性の声。
「……盾のプリンスさん」
声の主は盾のプリンス。気づいていなかったけれど、いつの間にか近くにまで来ていたようだ。彼は片膝を着きつつも上に向かって盾を出していた。私が雷のようなものを浴びずに済んだのはその盾のおかげなのだろう。
「あ、あの、これは一体……」
ドレスの裾だけが僅かに焦げていた。
けれども怪我はない。
すべて盾のおかげだ、あんなものを浴びたら即死してもおかしくなかった。
「敵は撤退したようだ」
そう述べる盾のプリンスの肩には一匹の蝶がとまっていた。
恐らくそれがウィリーなのだろう。
「大丈夫……なんですか……?」
「取り敢えず、キャッスルの奪還は成功だろう」
「なら良かったですけど……」
そこまで言った瞬間、剣のプリンセスが近くにいないことに気づく。視線を激しく動かすと、倒れている剣のプリンセスを発見。素早く立ち上がり、彼女の方へ駆ける。
「プリンセスさん! 剣のプリンセスさん!!」
横たわっている彼女は意識を失っているようで、名を呼んでも反応がない。一応呼吸はしているようだが、瞼は閉じられているし、手足もだらりと垂れて脱力しきってしまっている。
「しっかりしてください!」
叫ぶが、返事はない。
一気に込み上げる不安。
もし二度と目覚めなかったら――考えるべきではないのに悪いことばかり考えてしまう。
「フレイヤ様」
「ウィリーさん……これ、どうし……」
彼はまた人の姿に戻っていた。
「杖のキャッスルへ運びましょう。あの方であれば治療してくださるはずです」
「はい……」
「それと、後ほど森のプリンセス様にも連絡して参ります。森のプリンセス様もああ見えて治療に関する知識がおありなのです」
「ありがとう、ございます……」
盾のプリンスはここに残るらしい。自身をキャッスル所有者として登録する手続きを行うとのことだ。また、久々に戻った家のような場所だから、その他にもしなくてはならないこともあるようで。修復も含め色々な用事をするため、ここへとどまるとのことだ。
私はウィリーと協力して剣のプリンセスを運ぶ。
目的地は杖のキャッスルだ。
◆
「すみません。あの捕虜を逃してしまいました」
杖のキャッスルを訪ねた私たちに、杖のプリンセスはいきなり謝罪した。
「ここも何かあったのですか……?」
「はい。敵が現れまして、戦いはしたのですが、拘束していたあの少年を連れ去られてしまいました。……恥ずかしいことですが」
どうやら動きがあったのは盾のキャッスルだけではなかったようだ。
「いえ! いえ! いいんです! 生きていてくださって嬉しいです」
杖のプリンセスは生きている。酷い怪我をしているわけでもない。私はただそれだけでいい。それだけで何もかも許せる。捉えていた敵を逃してしまった、そんなのは小さなことだ。それに、捕まえる必要があるならまた捕まえれば良いだけの話。自分たちが元気でさえいれば、他のことはどうとでもなる。
「クイーン……。ありがとうございます、温かいお言葉を」
杖のプリンセスは少しだけ笑みを浮かべた。
しかしすぐに真剣な面持ちになる。
「剣のプリンセスの治療でしたね。ではこちらへ」
「ありがとうございます」
このタイミングでウィリーとは別れた。ウィリーには、森のプリンセスのところへ帰って現状を伝えるという、一つの用があるのだ。彼は一旦森のプリンセスのところへ戻らなくてはならない。
私はというと、一人で剣のプリンセスを抱き上げることに成功した。
女性とはいえ意識を失っているとそこそこ重みがある。だから一人で持ち上げるのは厳しいだろうと想像していた。けれどもいざ試してみると一人で抱き上げることができた。これもクイーンになったことによる強化によるものだろうか。
「そこそこ激しい戦いになったようでしたね」
「……はい」
剣のプリンセスを灰色の台の上に横たわらせる。
「初めてでああまでなるといろんな意味で驚かれたでしょう」
「はい、びっくりです……」
「無事で良かった。安心しました」
「これは……その、完全に皆さんのおかげです……」
杖のプリンセスは喋りながらも手を動かしている。
手首から指先までの長さくらいの短く細い杖を振れば、少し下に魔法陣のようなものが現れる。
「あの、剣のプリンセスさんは大丈夫でしょうか……」
「今から治療するところです」
「ちゃんと治るのか心配です……」
「残念。わたくしはあまり信頼されていないようですね」
杖のプリンセスの表情を見てハッとする。
失礼なことを言ってしまった、と。
「す、すみません! 失礼なことを!」
落ち込んでいるからって何を言ってもいいわけじゃない。
失礼なものは失礼だし、言ってはならないことだって世の中にはある。
「いえ。お気になさらず」
「本当に! 本当にごめんなさい! 悪気はなかったんです」
「分かっていますよ」
「すみません……」
こんなでクイーンとしてやっていけるのだろうか……。
不安ばかりが募る。
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