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後編

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 家に帰っても希望があるわけではない。帰られたからといって救われるわけではないし、慰められたとしても余計辛くなるだけ。それなら、もういっそ、無関係なところで暮らす方が楽だ。ここでならきっと過剰に気を遣われることもない。

 考えた結果、私は魔法使いと暮らすことにした。

 それからの毎日は充実していた。魔法使いと二人きりの生活にはすぐには慣れなかったけれど、日が経つにつれ段々慣れて、そのうち楽しめるようになってきた。

 特に楽しかったのは、彼の魔法実験に協力すること。

 彼は魔法でキノコを作る実験に取り組んでいる最中だったらしく、私はそれに協力。実験体としてこの身を貸した。助けてもらった礼も兼ねて。一時的にキノコになってしまうが、健康被害があるわけではないので、問題はなかった。

「あの時……助けてくださってありがとうございました」
「いいよいいよ、気にしないで」

 魔法使いの彼は人々からは離れたところに住んでいるが人間が極度に嫌いというわけではない。人間と関わることが好き、というわけではないが。私にはそこそこ喋ってくれる。

「こちらこそ、協力してもらって助かってるよ。これからもたくさんキノコになってね」
「はい!」

 その後耳にした噂によると、私は死んだことになったらしい。
 私の両親は「理不尽な婚約破棄で娘を失った」と主張し、元婚約者と戦い、最終的に大量のお金をもぎ取ったそうだ。

 多額の支払いを求められたことで元婚約者の実家は資産をほとんど失うこととなったらしい。お金以外の資産も、その多くを売り払わなくてはならないこととなったとか。そんな資金状況だから事業もすんなりは進められなくなり、結局、彼の父親は事業をやめたそうだ。

 元婚約者の彼は、婚約破棄うんぬんの後も、以前から親しかった女性と交流していたとか。
 私が婚約破棄を突きつけられたのは多分彼女がいたからなのだろう。

 正直、最初に断ってくれれば、と思わずにはいられない。だってそうではないか。大切な異性がいるなら、なぜ私との婚約を一度は受け入れたのか。理解不能ではないか。最初から話に乗らなければお互いこんな風にはならずに済んだのだ。

 もっとも、私は魔法使いの彼と出会えたから、最終的には大損はしていないのだけれど。


◆終わり◆
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