上 下
78 / 79

78話 訪れた年末

しおりを挟む
 四人での鍋パーティーは無事終了。

 食後少し喋ったり寛いだりしてからローザは帰っていった。



「はー、楽しかったわねー」



 ローザと色々話せたからか母親は満足しているようだ。日頃は私とリリィとくらいしか話すことのない母親だから、たまには他の人とも喋ったり関わったりしたいのかもしれない。



 そういう意味では、ローザの存在も悪くはないのかも。

 彼も母親のことを嫌ってはいないようだし、いつも快く喋り相手になってくれている。それに、喋っている時の様子も楽しそうだ。



「また誘ってもいいよ」



 私はさらりと述べておく。



「そうねー、また何かあれば誘いたいわー」

「いつでも」

「ふふ、ありがとー」



 母親が望むなら、それでも構わない。

 彼と顔を合わせるのが発狂するほど嫌というわけでもないから。





 ◆





 訪れた年末。



 学校はもう冬休みに入っている。



 窓から見える外はとても寒そう。しかし室内は暖房をかけているから寒くはない。と言っても、一日中完全に快適な状態を保てているのかといえばそうではないのだけれど。というのも、夜は足もとが冷えがちなのである。



「はーあ、もう年末かぁ」



 終わりかけのカレンダーを眺めつつ独り言を呟く。



「年末?」



 私の独り言にリリィは反応してきた。



 こちらとしては彼女に話しかけたという認識ではなかった。思ったことをぽつりと発した、ただそれだけだ。しかし、室内にいた彼女は、話しかけられたと捉えたのかもしれない。もしそうだとしたら、それも分からないではない。前もって独り言だと宣言していたわけでもないし。



「あ、ううん、独り言」

「ふーん」

「でも年末なのは事実だよね」

「……だから、年末って?」

「え。年末は年末だよ。年の終わり、ってこと」



 するとリリィは理解できたようで「そんな区切りがあるんだ」と呟くように返していた。



「そういえばさ、リリィと一緒の年末って初めてだよね」

「それが何?」

「何だか楽しいなーって」



 リリィと出会う前は母親と過ごすのがほとんどだった。もちろんそれが嫌だったわけではないし、母親といられることの幸せさも感じていたけれど。ただ、リリィが傍にいてくれるなら、その幸福感はさらに高まるというものだ。



「リリィに会えて良かったなぁ」

「……っ」



 なにげなく発した言葉に、リリィは詰まるような息を漏らした。



「ん? リリィ? どうしたの?」

「べ、べつに。何でもないし」

「何か変だよ? 大丈夫?」

「放っておいて! 日和には関係ないから!」



 私は微笑んでそっと声をかける。



「うん、分かった。でも、もし私の手を借りたい時があったら、気軽に何でも言ってね」



 必要以上にリリィの心を探ることはしたくない。

 彼女にだって彼女だけの世界があるだろうから。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

悪の怪人☆お悩み相談室

四季
キャラ文芸
物語の舞台は根源市。 そこに暮らす二十三歳の青年・岩山手 手間弥 (いわやまて てまや) は、高校を卒業してからずっと仕事をしていなかった。そんな彼だったが、ある日「このままでは駄目だ」と思い立ち、職に就くことを決意する。 そんな時、出会ってしまったーー『悪の怪人お悩み相談室』という謎の求人広告に。 週二日からという条件にやる気になった岩山手が、早速電話をかけてみたところ……。 これは、岩山手 手間弥が、女性の先輩・安寧 由紀 (あんねい ゆき) に時々助けられつつ、悪の組織で働く怪人たちのゆるりとした相談に乗っていく物語。 著作者:四季 無断転載は固く禁じます。 ※この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

車の中で会社の後輩を喘がせている

ヘロディア
恋愛
会社の後輩と”そういう”関係にある主人公。 彼らはどこでも交わっていく…

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

処理中です...