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58話 改めて
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あの女性が何をしに来たのかまったく読めないが、逃れられたから取り敢えずは良かった。
ローザも無事だった。
彼は女性の攻撃の直撃を受けていた。けれども、物体で刺されたわけではなかったからか、身体に穴は空いていなかったようだ。
路上で隣り合って会話しているのだが、彼の気持ちを知ってしまったからかいつも以上に気まずい。
「……悪いね、忘れてもらっていいよ」
すべてが終わってから、ローザはそんなことを言ってきた。
彼は何もかもを諦めているような顔をしていた。
「助けていただいたこと、感謝しています」
恋愛感情うんぬんはよく分からないけれど、今回彼に助けてもらったことは事実だ。感謝はしておくべきだろう。助けてもらって当たり前、などとは、さすがに捉えられない。
「……いえいえー」
彼はそれだけしか返さなかった。
訪れる沈黙。
私もローザもリリィも口を開かない。
せっかくの休日、のんびり楽しくリリィと一緒に遊びたかった。けれども、こんなことになっては、もはや純粋には楽しめない。それに疲れてしまった。もう家に帰りたい気分。
「今日はお世話になりました。では私はこれで失礼します」
長い沈黙の後、一番に口を開いたのは私だった。
「あ、う、うんー。またー。さようならー」
ローザは気まずそうに笑みを浮かべてそう返してくれた。
「気を取り直して。行こっか! リリィ」
「え」
「何かおかしかった?」
リリィは「べつに」と小さく呟く。しかしそんな風に思っているとは思えないような顔をしている。というのも、何か言いたげな表情を浮かべているのだ。
「思ってることがあるなら言って? 本当のこと、聞かせてほしいな」
「べつにいい」
「お願ーい! 聞かせてー!」
手のひらを合わせてお願いすると、リリィは呆れた表情になる。
「……中止かと思った」
思わず「え?」と情けない声を漏らしてしまった。
彼女の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから。
「もしかして! 中止かもなのを残念に思ってくれてたってこと!?」
帰りたいとは思っていた。でもその理由はリリィと出掛けるのが嫌になったからではない。色々あって疲れたから、ただそれだけが理由だ。
リリィが行きたいと言ってくれるなら、私は喜んで行く。
彼女が私と一緒に行きたいと思ってくれているのだとしたら、四肢を荒ぶらせ踊り狂いたいくらい嬉しいから。
「うるさいってば」
「ごめーん。でもさ! リリィがそう言ってくれたことはすっごく嬉しいんだ!」
「はぁ……」
リリィはわざとらしい溜め息をついた。
そして少し間を空けて。
「で、今から行くワケ?」
そんなことを言ってくれる。
「リリィは行きたい?」
「……できれば」
「よっし! じゃあ行こう!」
こうして私は、気を取り直し、改めてリリィと出掛けることにした。
一時はどうなることかと思ったが今回も生き延びられて良かった。天気は悪くないし、風もほどよく吹いていて心地よい。気温はやや高めだけれど。それでも、大好きな彼女が隣にいてくれるだけで、足取りは軽くなる。
ローザも無事だった。
彼は女性の攻撃の直撃を受けていた。けれども、物体で刺されたわけではなかったからか、身体に穴は空いていなかったようだ。
路上で隣り合って会話しているのだが、彼の気持ちを知ってしまったからかいつも以上に気まずい。
「……悪いね、忘れてもらっていいよ」
すべてが終わってから、ローザはそんなことを言ってきた。
彼は何もかもを諦めているような顔をしていた。
「助けていただいたこと、感謝しています」
恋愛感情うんぬんはよく分からないけれど、今回彼に助けてもらったことは事実だ。感謝はしておくべきだろう。助けてもらって当たり前、などとは、さすがに捉えられない。
「……いえいえー」
彼はそれだけしか返さなかった。
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「今日はお世話になりました。では私はこれで失礼します」
長い沈黙の後、一番に口を開いたのは私だった。
「あ、う、うんー。またー。さようならー」
ローザは気まずそうに笑みを浮かべてそう返してくれた。
「気を取り直して。行こっか! リリィ」
「え」
「何かおかしかった?」
リリィは「べつに」と小さく呟く。しかしそんな風に思っているとは思えないような顔をしている。というのも、何か言いたげな表情を浮かべているのだ。
「思ってることがあるなら言って? 本当のこと、聞かせてほしいな」
「べつにいい」
「お願ーい! 聞かせてー!」
手のひらを合わせてお願いすると、リリィは呆れた表情になる。
「……中止かと思った」
思わず「え?」と情けない声を漏らしてしまった。
彼女の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから。
「もしかして! 中止かもなのを残念に思ってくれてたってこと!?」
帰りたいとは思っていた。でもその理由はリリィと出掛けるのが嫌になったからではない。色々あって疲れたから、ただそれだけが理由だ。
リリィが行きたいと言ってくれるなら、私は喜んで行く。
彼女が私と一緒に行きたいと思ってくれているのだとしたら、四肢を荒ぶらせ踊り狂いたいくらい嬉しいから。
「うるさいってば」
「ごめーん。でもさ! リリィがそう言ってくれたことはすっごく嬉しいんだ!」
「はぁ……」
リリィはわざとらしい溜め息をついた。
そして少し間を空けて。
「で、今から行くワケ?」
そんなことを言ってくれる。
「リリィは行きたい?」
「……できれば」
「よっし! じゃあ行こう!」
こうして私は、気を取り直し、改めてリリィと出掛けることにした。
一時はどうなることかと思ったが今回も生き延びられて良かった。天気は悪くないし、風もほどよく吹いていて心地よい。気温はやや高めだけれど。それでも、大好きな彼女が隣にいてくれるだけで、足取りは軽くなる。
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