上 下
58 / 79

58話 改めて

しおりを挟む
 あの女性が何をしに来たのかまったく読めないが、逃れられたから取り敢えずは良かった。



 ローザも無事だった。

 彼は女性の攻撃の直撃を受けていた。けれども、物体で刺されたわけではなかったからか、身体に穴は空いていなかったようだ。



 路上で隣り合って会話しているのだが、彼の気持ちを知ってしまったからかいつも以上に気まずい。



「……悪いね、忘れてもらっていいよ」



 すべてが終わってから、ローザはそんなことを言ってきた。

 彼は何もかもを諦めているような顔をしていた。



「助けていただいたこと、感謝しています」



 恋愛感情うんぬんはよく分からないけれど、今回彼に助けてもらったことは事実だ。感謝はしておくべきだろう。助けてもらって当たり前、などとは、さすがに捉えられない。



「……いえいえー」



 彼はそれだけしか返さなかった。



 訪れる沈黙。

 私もローザもリリィも口を開かない。



 せっかくの休日、のんびり楽しくリリィと一緒に遊びたかった。けれども、こんなことになっては、もはや純粋には楽しめない。それに疲れてしまった。もう家に帰りたい気分。



「今日はお世話になりました。では私はこれで失礼します」



 長い沈黙の後、一番に口を開いたのは私だった。



「あ、う、うんー。またー。さようならー」



 ローザは気まずそうに笑みを浮かべてそう返してくれた。



「気を取り直して。行こっか! リリィ」

「え」

「何かおかしかった?」



 リリィは「べつに」と小さく呟く。しかしそんな風に思っているとは思えないような顔をしている。というのも、何か言いたげな表情を浮かべているのだ。



「思ってることがあるなら言って? 本当のこと、聞かせてほしいな」

「べつにいい」

「お願ーい! 聞かせてー!」



 手のひらを合わせてお願いすると、リリィは呆れた表情になる。



「……中止かと思った」



 思わず「え?」と情けない声を漏らしてしまった。

 彼女の口からそんな言葉が出てくるとは思っていなかったから。



「もしかして! 中止かもなのを残念に思ってくれてたってこと!?」



 帰りたいとは思っていた。でもその理由はリリィと出掛けるのが嫌になったからではない。色々あって疲れたから、ただそれだけが理由だ。

 リリィが行きたいと言ってくれるなら、私は喜んで行く。

 彼女が私と一緒に行きたいと思ってくれているのだとしたら、四肢を荒ぶらせ踊り狂いたいくらい嬉しいから。



「うるさいってば」

「ごめーん。でもさ! リリィがそう言ってくれたことはすっごく嬉しいんだ!」

「はぁ……」



 リリィはわざとらしい溜め息をついた。

 そして少し間を空けて。



「で、今から行くワケ?」



 そんなことを言ってくれる。



「リリィは行きたい?」

「……できれば」

「よっし! じゃあ行こう!」



 こうして私は、気を取り直し、改めてリリィと出掛けることにした。



 一時はどうなることかと思ったが今回も生き延びられて良かった。天気は悪くないし、風もほどよく吹いていて心地よい。気温はやや高めだけれど。それでも、大好きな彼女が隣にいてくれるだけで、足取りは軽くなる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

彼氏の前でどんどんスカートがめくれていく

ヘロディア
恋愛
初めて彼氏をデートに誘った主人公。衣装もバッチリ、メイクもバッチリとしたところだったが、彼女を屈辱的な出来事が襲うー

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

結構な性欲で

ヘロディア
恋愛
美人の二十代の人妻である会社の先輩の一晩を独占することになった主人公。 執拗に責めまくるのであった。 彼女の喘ぎ声は官能的で…

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...