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54話 週末、降り注ぐ光

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 刹那。

 視界の上の端で何かが煌めいた。



「危ない!」



 ローザは叫ぶのとほぼ同時に私の腹を押し突き飛ばした。



 後方へ数メートル飛び、そのまましりもちをつく。

 直後赤黒い光が降り注ぐ。



「え……」



 赤黒い柱状の光はローザを貫通し地面まで届く。

 私は何も言えなかった。



「あら、かわされちゃったわね」



 頭上から女性の声。声がした方へ視線を向けると、電信柱の上に一人の女性が立っていた。黄色に近い金髪を長く伸ばした、化粧濃いめの女性。三十代くらいだろうか。あくまで見た感じだが。



「ちょ、おま……」



 赤黒い柱状の光に突き刺され地面に伏せたまま、顔を上げて口を開くローザ。

 色々心配なところではあるが、取り敢えず、今のところ彼は死んでいないようだ。柱状のものは確かに刺さっているのだが血は出ていない。即死しそうな感じもない。



「ローザ。アンタ、どっかいったと思ったらこんなところにいたのね」



 女性はふわりと地面に降りてきた。

 電信柱から軽やかに飛び降りるとは、かなり人間離れした行動だ。



「アンタらしくないじゃない。誰かのため自分の身を犠牲にするなんて」

「何とでも言え……」

「あら、案外まだ元気そうね。もう一撃くらい加えた方が良いのかしら」



 その頃になって私はようやく立ち上がることができた。幸いしりもちをついただけだ、怪我はない。多少尻のあたりが痛いような気はするけれど。



 立ち上がった私の手を掴んだのはリリィ。

 何も言わず手を掴まれたので驚いて彼女の方を見ると、彼女はいつになく深刻そうな顔をしていた。



「リリィ?」

「逃げて」

「え?」

「逃げろって言ってるの。危ないから」

「待ってよ、意味が分からない……」



 小さい声でやり取りしていると、女性がこちらへ視線を向けてきた。



「ローザを変えたのはアナタなのね」

「え……」

「凡人一人に興味はないけど、アナタにはちょっと興味が湧いたわ」



 女性が片足を前へ出し歩き出す。視線も進行方向もこちら。明らかにこちらに寄ってきている。何をされるのか読めず、鳥肌が立つ。



 その時だ、リリィが間に入ったのは。



「それ以上寄らないで」



 リリィは自ら私と女性の間に入った。

 そして女性を睨みつける。



「あら、何の真似かしら」

「寄るなって言ってるの」

「アンタそんな言い方して許されると思ってるの? 呆れた。さすがに調子に乗り過ぎよ?」

「何とでも言えばいい!」



 リリィの目つきはいつになく鋭かった。

 完全に戦闘体勢に入っていると言っても過言ではない。



「勘違いしないで! もう上も下もないから!」

「随分生意気言うようになったじゃない」

「うるさい黙れ!」



 女性とリリィの睨み合いにはとても入っていけそうにない。あの間に入って行くとなると、ストレスで胃から火が出そうだし、心も折れそう。だから私はそちらへ入っていくのはやめた。アスファルトに伏せさせられたままのローザの方へ行き、声をかけてみる。



「大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、うん。でもアスファルト熱すぎ……熱中症になりそう……」

「そっちですか」

「燃えそう……」

「氷枕でも持ってきた方が良さそうですね」
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