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33話 初日から漢字練習
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夏休み初日、私は勉強机の前の椅子に腰を下ろす。机の横に掛けてある鞄から取り出すのは、ノートやテキスト、プリントなど。つまり、夏休みの宿題、というやつである。
夏休みの宿題は今年もそこそこ多く、科目も色々。
どれから手をつけるか悩むのがもはや恒例だ。
漢字練習ややたらと枚数が多い計算プリントはそれほど頭を使わないが、その代わり、量が多くてどうしても日数がかかってしまいがち。思い立った時に一気に仕上げるというのは難しい。それゆえ、少しずつでも、毎日着実に進めていく必要がある。
「それは何?」
リリィは早速興味を持っていた。
どうやら彼女は夏休みの宿題というものを知らないようだ。
「宿題で使うノートだよ!」
「ふーん……そう。で、そこに何を書くワケ」
「漢字を書くよ! このテキストに書かれてる漢字を一つずつここに写して……」
「何が楽しくてそんなことするの」
リリィは私が座っている椅子の真横に立って勉強机の上を眺めつつ話しかけてくる。彼女が放つ視線は机の上と私の顔面を何度も行き来していた。
「何が楽しくてーって、私だって同じ気持ち! 楽しいからやってるわけじゃないよ」
正直なところを明かすと、リリィは少し首を傾げる。
「……強制されてるってこと?」
この世のことにあまり親しみがないリリィにとっては、やりたくもない宿題をやらなくてはならないということ自体が理解できないのかもしれない。
「まぁそんな感じかなぁ。必要だからしなくちゃならないことではあるんだけど」
「ふーん」
「だから頑張る!」
「そ。じゃ、あっちで教科書読んどくから」
そう言って、リリィはベッドの方へ移動していった。
ちなみに教科書というのは私の昔の教科書である。彼女が最近気に入って読んでいるものだ。前に一度教科書を貸してから、彼女はことあるごとに教科書を読むようになった。
今やリリィの暇潰しのお供は私の過去の教科書だ。
私は改めて机に向かう。シャーペンを手に取れば、漢字練習開始。決められている漢字や漢字数文字の単語を、ノートへ、着実に書き写していく。もちろん一回ずつではない。一つにつき最低でも三回くらいは書かなくてはならない。かなり地道な作業である。
手首が痛くなりそう……。
始めた直後から嫌な予感がするが、だからといってさぼるわけにもいかないので、取り敢えず手を動かすことに集中するしかない。
ただ、この漢字練習に楽しさがまったくないかというと、案外そんなこともない。
少しずつではあるけれど確実にノートが埋まっていく感覚がたまらない。一枚めくるたび、特別な何かを得られたような気がして。独特の達成感がある。手が疲れていくことは確かでも、何かが満ちてゆくような心地よい感覚も味わえる。
それから一時間ほど、私は漢字練習の作業継続した。
その間リリィはベッドに伏せるようにして過去の教科書を熟読していた。
「一旦終わりっ!」
肩が痛だるく疲れたので、ひとまずここで終わることにした。
大きな背伸びをする。
「終わったの」
「うん! 一旦ね!」
「……そう」
「静かにしてくれてありがとっ」
「べつに。そのくらい礼は要らないから。……べつにたいしたことはしてないし」
夏休みの宿題は今年もそこそこ多く、科目も色々。
どれから手をつけるか悩むのがもはや恒例だ。
漢字練習ややたらと枚数が多い計算プリントはそれほど頭を使わないが、その代わり、量が多くてどうしても日数がかかってしまいがち。思い立った時に一気に仕上げるというのは難しい。それゆえ、少しずつでも、毎日着実に進めていく必要がある。
「それは何?」
リリィは早速興味を持っていた。
どうやら彼女は夏休みの宿題というものを知らないようだ。
「宿題で使うノートだよ!」
「ふーん……そう。で、そこに何を書くワケ」
「漢字を書くよ! このテキストに書かれてる漢字を一つずつここに写して……」
「何が楽しくてそんなことするの」
リリィは私が座っている椅子の真横に立って勉強机の上を眺めつつ話しかけてくる。彼女が放つ視線は机の上と私の顔面を何度も行き来していた。
「何が楽しくてーって、私だって同じ気持ち! 楽しいからやってるわけじゃないよ」
正直なところを明かすと、リリィは少し首を傾げる。
「……強制されてるってこと?」
この世のことにあまり親しみがないリリィにとっては、やりたくもない宿題をやらなくてはならないということ自体が理解できないのかもしれない。
「まぁそんな感じかなぁ。必要だからしなくちゃならないことではあるんだけど」
「ふーん」
「だから頑張る!」
「そ。じゃ、あっちで教科書読んどくから」
そう言って、リリィはベッドの方へ移動していった。
ちなみに教科書というのは私の昔の教科書である。彼女が最近気に入って読んでいるものだ。前に一度教科書を貸してから、彼女はことあるごとに教科書を読むようになった。
今やリリィの暇潰しのお供は私の過去の教科書だ。
私は改めて机に向かう。シャーペンを手に取れば、漢字練習開始。決められている漢字や漢字数文字の単語を、ノートへ、着実に書き写していく。もちろん一回ずつではない。一つにつき最低でも三回くらいは書かなくてはならない。かなり地道な作業である。
手首が痛くなりそう……。
始めた直後から嫌な予感がするが、だからといってさぼるわけにもいかないので、取り敢えず手を動かすことに集中するしかない。
ただ、この漢字練習に楽しさがまったくないかというと、案外そんなこともない。
少しずつではあるけれど確実にノートが埋まっていく感覚がたまらない。一枚めくるたび、特別な何かを得られたような気がして。独特の達成感がある。手が疲れていくことは確かでも、何かが満ちてゆくような心地よい感覚も味わえる。
それから一時間ほど、私は漢字練習の作業継続した。
その間リリィはベッドに伏せるようにして過去の教科書を熟読していた。
「一旦終わりっ!」
肩が痛だるく疲れたので、ひとまずここで終わることにした。
大きな背伸びをする。
「終わったの」
「うん! 一旦ね!」
「……そう」
「静かにしてくれてありがとっ」
「べつに。そのくらい礼は要らないから。……べつにたいしたことはしてないし」
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