28 / 79
28話 見慣れない場所にいた
しおりを挟む
気づけば見慣れない場所にいた。
どうやら私は地面に倒れているようだ。
全身が重く感じられる。薬でも盛られたのだろうか? ……いや、さすがにそれはないか。とはいえ、この倦怠感は日常で感じるようなそれではない。となるとやはり何かされたのではないか? 根拠はないけれど……。
しかし辛うじて瞼は開く。
ここはどこだろう、などと考えつつ、静かに周辺を見回す。
部屋? 薄暗いけれど室内のように思う。しかし自室ではない。家の中のどこかの部屋でもない。それは確かだ。私の知らないところ? 牢屋? 監禁されている?
そんな風に思考を巡らせていた最中、ハッと思い出す。
私は車に乗せられて誘拐されたのだった !と。
「オメザメデスカ」
直後耳に飛び込んできたのは人工的な声。
そう、全身黒タイツの声だ。
「……ここは?」
「ソノトイニコタエルヒツヨウハアリマセン」
「困ります! こんな……」
「オトナシクシテクダサイ。デナケレバ、イタイメニアワセルコトニナリマス」
ゆっくりと上半身を縦にする。
まだだるい感じはあるが、動けないことはない。
「ごめんなさい、大人しくします」
「デハコチラヘ」
「え?」
「アンナイシマス。ツイテキテクダサイ」
私は全身黒タイツに命じられるがままにその人の後ろを歩く。
罪人にでもなったかのような気分だ。
私は何もやらかしていない。ただ高校生として生きていただけで。特別なことなんてしていないし、罪を犯したと言われるような行為に手を出してはいない。それなのにこんなことになるなんて。こんな風に罪人のように扱われることになるなんて。こんな未来、ちっとも想像してみなかった。
部屋を出て自動ドアを通り過ぎても薄暗い通路が続く。
横に並ぶとなると三人も並べないような幅の通路だ。
リリィはどうしているだろう? 心配していないだろうか。いや、彼女のことだから、帰りが遅いと怒っているだろうか? それならまだいい。怒っているだけなら、私が後できちんと説明する。ただ、悲しませるようにことがあったらと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
「ココデシバラクオマチクダサイ」
「はい……」
扉の前で待たされる。
いまのうちに逃げるのはどう? なんて考えるけれど、それを実行する勇気はない。
思いきったことをすることもできずその場に佇んでいた私の肩に、突如、ぽんと手を置くような感覚。何かと思い振り返ると、そこには見たことのある顔。
「やぁ、調子はどう?」
なぜ第一声がそれなのか。
もう少し何かなかったのだろうか。
「……ローザさん!」
「急に悪いねー、迎えに来ちゃった」
この状況でふざけられても、どんな反応を返せばいいのか分からず戸惑うばかり。
「どうしてここに。辞めたのでは……!?」
「偶然連れ去られるところを見かけて、ね」
「あ」
そういえば、自動車が出発する時、窓から人影が見えたような……。
「もしかして自動車の窓から見えた人影ですか?」
「あーうん、そんな感じー」
「あれがローザさんだったんですね。で、これから私をどうするおつもりですか」
「そう身構えないでよ。変なことなんてしないって」
どうやら私は地面に倒れているようだ。
全身が重く感じられる。薬でも盛られたのだろうか? ……いや、さすがにそれはないか。とはいえ、この倦怠感は日常で感じるようなそれではない。となるとやはり何かされたのではないか? 根拠はないけれど……。
しかし辛うじて瞼は開く。
ここはどこだろう、などと考えつつ、静かに周辺を見回す。
部屋? 薄暗いけれど室内のように思う。しかし自室ではない。家の中のどこかの部屋でもない。それは確かだ。私の知らないところ? 牢屋? 監禁されている?
そんな風に思考を巡らせていた最中、ハッと思い出す。
私は車に乗せられて誘拐されたのだった !と。
「オメザメデスカ」
直後耳に飛び込んできたのは人工的な声。
そう、全身黒タイツの声だ。
「……ここは?」
「ソノトイニコタエルヒツヨウハアリマセン」
「困ります! こんな……」
「オトナシクシテクダサイ。デナケレバ、イタイメニアワセルコトニナリマス」
ゆっくりと上半身を縦にする。
まだだるい感じはあるが、動けないことはない。
「ごめんなさい、大人しくします」
「デハコチラヘ」
「え?」
「アンナイシマス。ツイテキテクダサイ」
私は全身黒タイツに命じられるがままにその人の後ろを歩く。
罪人にでもなったかのような気分だ。
私は何もやらかしていない。ただ高校生として生きていただけで。特別なことなんてしていないし、罪を犯したと言われるような行為に手を出してはいない。それなのにこんなことになるなんて。こんな風に罪人のように扱われることになるなんて。こんな未来、ちっとも想像してみなかった。
部屋を出て自動ドアを通り過ぎても薄暗い通路が続く。
横に並ぶとなると三人も並べないような幅の通路だ。
リリィはどうしているだろう? 心配していないだろうか。いや、彼女のことだから、帰りが遅いと怒っているだろうか? それならまだいい。怒っているだけなら、私が後できちんと説明する。ただ、悲しませるようにことがあったらと思うと、申し訳なさでいっぱいになる。
「ココデシバラクオマチクダサイ」
「はい……」
扉の前で待たされる。
いまのうちに逃げるのはどう? なんて考えるけれど、それを実行する勇気はない。
思いきったことをすることもできずその場に佇んでいた私の肩に、突如、ぽんと手を置くような感覚。何かと思い振り返ると、そこには見たことのある顔。
「やぁ、調子はどう?」
なぜ第一声がそれなのか。
もう少し何かなかったのだろうか。
「……ローザさん!」
「急に悪いねー、迎えに来ちゃった」
この状況でふざけられても、どんな反応を返せばいいのか分からず戸惑うばかり。
「どうしてここに。辞めたのでは……!?」
「偶然連れ去られるところを見かけて、ね」
「あ」
そういえば、自動車が出発する時、窓から人影が見えたような……。
「もしかして自動車の窓から見えた人影ですか?」
「あーうん、そんな感じー」
「あれがローザさんだったんですね。で、これから私をどうするおつもりですか」
「そう身構えないでよ。変なことなんてしないって」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
大鳥居横あやかし宅配便~ワケアリ荷物お届けします~
シェリンカ
キャラ文芸
【第6回キャラ文芸大賞奨励賞受賞】
宅配便で働く瑞穂が、突然出向を命じられた出張所は、山の上の神社前……
営業は月水金の週三日
一日の来店客は数えるほど
暇を持て余しながら夕刻、ふと見つけた見慣れない扉は、違う世界への入り口だった――!?
『あちら』と『こちら』が交わる時間にだけ営業する、狭間の宅配便屋
荷物はあちらの世界から、こちらの世界で暮らす『あやかし』たち宛てのもの
従業員は、コミュ力高いチャラめの美青年(実は性悪?)白狐と、見た目クールな家事完璧美青年(かなり辛辣!)烏天狗
これまで知らなかった世界にうっかり足を踏み入れてしまった瑞穂の、驚きの日々――
【R15】お金で買われてほどかれて~社長と事務員のじれ甘婚約~【完結】
双真満月
恋愛
都雪生(みやこ ゆきな)の父が抱えた借金を肩代わり――
そんな救世主・広宮美土里(ひろみや みどり)が出した条件は、雪生との婚約だった。
お香の老舗の一人息子、美土里はどうやら両親にせっつかれ、偽りの婚約者として雪生に目をつけたらしい。
弟の氷雨(ひさめ)を守るため、条件を受け入れ、美土里が出すマッサージ店『プロタゴニスタ』で働くことになった雪生。
働いて約一年。
雪生には、人には言えぬ淫靡な夢を見ることがあった。それは、美土里と交わる夢。
意識をすることはあれど仕事をこなし、スタッフたちと接する内に、マッサージに興味も出てきたある日――
施術を教えてもらうという名目で、美土里と一夜を共にしてしまう。
好きなのか嫌いなのか、はっきりわからないまま、偽りの立場に苦しむ雪生だったが……。
※エブリスタにも掲載中
2022/01/29 完結しました!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ハレマ・ハレオは、ハーレまない!~億り人になった俺に美少女達が寄ってくる?だが俺は絶対にハーレムなんて作らない~
長月 鳥
キャラ文芸
W高校1年生の晴間晴雄(ハレマハレオ)は、宝くじの当選で億り人となった。
だが、彼は喜ばない。
それは「日本にも一夫多妻制があればいいのになぁ」が口癖だった父親の存在が起因する。
株で儲け、一代で財を成した父親の晴間舘雄(ハレマダテオ)は、金と女に溺れた。特に女性関係は酷く、あらゆる国と地域に100名以上の愛人が居たと見られる。
以前は、ごく平凡で慎ましく幸せな3人家族だった……だが、大金を手にした父親は、都心に豪邸を構えると、金遣いが荒くなり態度も大きく変わり、妻のカエデに手を上げるようになった。いつしか住み家は、人目も憚らず愛人を何人も連れ込むハーレムと化し酒池肉林が繰り返された。やがて妻を追い出し、親権を手にしておきながら、一人息子のハレオまでも安アパートへと追いやった。
ハレオは、憎しみを抱きつつも父親からの家賃や生活面での援助を受け続けた。義務教育が終わるその日まで。
そして、高校入学のその日、父親は他界した。
死因は【腹上死】。
死因だけでも親族を騒然とさせたが、それだけでは無かった。
借金こそ無かったものの、父親ダテオの資産は0、一文無し。
愛人達に、その全てを注ぎ込み、果てたのだ。
それを聞いたハレオは誓う。
「金は人をダメにする、女は男をダメにする」
「金も女も信用しない、父親みたいになってたまるか」
「俺は絶対にハーレムなんて作らない、俺は絶対ハーレまない!!」
最後の誓いの意味は分からないが……。
この日より、ハレオと金、そして女達との戦いが始まった。
そんな思いとは裏腹に、ハレオの周りには、幼馴染やクラスの人気者、アイドルや複数の妹達が現れる。
果たして彼女たちの目的は、ハレオの当選金か、はたまた真実の愛か。
お金と女、数多の煩悩に翻弄されるハレマハレオの高校生活が、今、始まる。
【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド
まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。
事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。
一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。
その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。
そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。
ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。
そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。
第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。
表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。
人形の中の人の憂鬱
ジャン・幸田
キャラ文芸
等身大人形が動く時、中の人がいるはずだ! でも、いないとされる。いうだけ野暮であるから。そんな中の人に関するオムニバス物語である。
【アルバイト】昭和時代末期、それほど知られていなかった美少女着ぐるみヒロインショーをめぐる物語。
【少女人形店員】父親の思い付きで着ぐるみ美少女マスクを着けて営業させられる少女の運命は?
JOLENEジョリーン・鬼屋は人を許さない 『こわい』です。気を緩めると巻き込まれます。
尾駮アスマ(オブチアスマ おぶちあすま)
キャラ文芸
ホラー・ミステリー+ファンタジー作品です。残酷描写ありです。苦手な方は御注意ください。
完全フィクション作品です。
実在する個人・団体等とは一切関係ありません。
あらすじ
趣味で怪談を集めていた主人公は、ある取材で怪しい物件での出来事を知る。
そして、その建物について探り始める。
ほんの些細な調査のはずが大事件へと繋がってしまう・・・
やがて街を揺るがすほどの事件に主人公は巻き込まれ
特命・国家公務員たちと運命の「祭り」へと進み悪魔たちと対決することになる。
もう逃げ道は無い・・・・
読みやすいように、わざと行間を開けて執筆しています。
もしよければお気に入り登録・イイネ・感想など、よろしくお願いいたします。
大変励みになります。
ありがとうございます。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる