23 / 79
23話 冗談で言っただけだから
しおりを挟む
私は勉強机の正面に置かれた椅子に座り、リリィはパジャマ姿でベッドに寝転んでいる。
「ねぇリリィ」
「何」
「あのローザって人、本当は悪い人じゃないんじゃない?」
刹那、リリィは凄まじい勢いで起き上がる。
「はぁ!? 何言ってんの!?」
目を大きく開き、顔面を引きつらせながら、こちらを凝視している。
ローザは実は悪人ではないのでは? たったそれだけのことだ。そんなに驚くようなことだろうか。いや、もちろん、私よりリリィの方が彼を知っているということは事実なのだが。
けれども人は変わる。
リリィだってそうだったではないか。かつては悪の道に踏み込んでいたけれど、今はもう悪に生きてはいない。いたって普通の一般人のように生きている。
ならばローザだって変わる可能性はゼロではない。
「……ごめん大声出して」
叫んでから数秒、リリィは冷静さを取り戻したようだった。
「ううん。大丈夫。こちらこそごめん、いきなり変なこと言って」
「で? ……ローザが悪人でないのではないかって話?」
リリィはベッドの上で座った体勢のまま目を僅かに細める。
「うん。根拠とかはないんだけど、ふと思ったんだ。案外悪い人じゃないのかもしれないなーって」
言いながら、散らかっている勉強机の上を訳もなく整理する。
わりと使うペンは机の上のペン立てに入れる。滅多に使わないペンは引き出しにしまう。ノートやプリントはそれぞれ綺麗に揃えて一箇所にまとめておく。読了済みの本は勉強机のすぐ側にある本棚に戻す。
「……確かに前の職場辞めたとは言ってたケド」
「それってやっぱりそういう意味なんじゃない? 母がいたから悪の組織うんぬんとか言えなくて、それで、そういう言い方にしたんじゃない?」
思ったことを素直に話すと、リリィは呆れ顔。
「信じすぎ」
ばっさり言いきられてしまった。
「そう?」
「ちょっと聞いたらすぐ信じちゃって、馬鹿みたい」
リリィが本気で馬鹿にしているわけではないことくらい分かっている。
今までもそうだったから。
リリィは時に私を馬鹿のように呼ぶことがあるけれど、本心ではないと感じ取れるから、私はそれを悪く受け取ることはしない。
「えー! 馬鹿みたいは酷いよー!」
冗談交じりに返す。
するとリリィは面に気まずそうな表情を浮かべる。
「侮辱してるつもりじゃないケド。……ま、言い方が悪かったら……ごめん」
意外と真剣に受け取られてしまったみたいだ。
「待って! 違う! 違うって!」
「……ごめんって」
「そうじゃなくてそうじゃなくて……だから、その、ほら! 気にしてない!」
「え」
「さっきのは冗談! 冗談で言っただけだから!」
リリィの気持ちは分かってる。すべてではないだろうけど、ある程度理解しているつもりだ。だから責めるつもりはない。彼女が時に失礼なことを言うのも、彼女なりの優しさ。それを叩き壊すようなことをするつもりはない。
「ねぇリリィ」
「何」
「あのローザって人、本当は悪い人じゃないんじゃない?」
刹那、リリィは凄まじい勢いで起き上がる。
「はぁ!? 何言ってんの!?」
目を大きく開き、顔面を引きつらせながら、こちらを凝視している。
ローザは実は悪人ではないのでは? たったそれだけのことだ。そんなに驚くようなことだろうか。いや、もちろん、私よりリリィの方が彼を知っているということは事実なのだが。
けれども人は変わる。
リリィだってそうだったではないか。かつては悪の道に踏み込んでいたけれど、今はもう悪に生きてはいない。いたって普通の一般人のように生きている。
ならばローザだって変わる可能性はゼロではない。
「……ごめん大声出して」
叫んでから数秒、リリィは冷静さを取り戻したようだった。
「ううん。大丈夫。こちらこそごめん、いきなり変なこと言って」
「で? ……ローザが悪人でないのではないかって話?」
リリィはベッドの上で座った体勢のまま目を僅かに細める。
「うん。根拠とかはないんだけど、ふと思ったんだ。案外悪い人じゃないのかもしれないなーって」
言いながら、散らかっている勉強机の上を訳もなく整理する。
わりと使うペンは机の上のペン立てに入れる。滅多に使わないペンは引き出しにしまう。ノートやプリントはそれぞれ綺麗に揃えて一箇所にまとめておく。読了済みの本は勉強机のすぐ側にある本棚に戻す。
「……確かに前の職場辞めたとは言ってたケド」
「それってやっぱりそういう意味なんじゃない? 母がいたから悪の組織うんぬんとか言えなくて、それで、そういう言い方にしたんじゃない?」
思ったことを素直に話すと、リリィは呆れ顔。
「信じすぎ」
ばっさり言いきられてしまった。
「そう?」
「ちょっと聞いたらすぐ信じちゃって、馬鹿みたい」
リリィが本気で馬鹿にしているわけではないことくらい分かっている。
今までもそうだったから。
リリィは時に私を馬鹿のように呼ぶことがあるけれど、本心ではないと感じ取れるから、私はそれを悪く受け取ることはしない。
「えー! 馬鹿みたいは酷いよー!」
冗談交じりに返す。
するとリリィは面に気まずそうな表情を浮かべる。
「侮辱してるつもりじゃないケド。……ま、言い方が悪かったら……ごめん」
意外と真剣に受け取られてしまったみたいだ。
「待って! 違う! 違うって!」
「……ごめんって」
「そうじゃなくてそうじゃなくて……だから、その、ほら! 気にしてない!」
「え」
「さっきのは冗談! 冗談で言っただけだから!」
リリィの気持ちは分かってる。すべてではないだろうけど、ある程度理解しているつもりだ。だから責めるつもりはない。彼女が時に失礼なことを言うのも、彼女なりの優しさ。それを叩き壊すようなことをするつもりはない。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
鬼面ソルジャーズ・神(Sin)
蓮實長治
キャラ文芸
1970年代に「変身ヒーロー」ブームの魁(さきがけ)になったTV番組「鬼面ソルジャーズ」。
しかし、その主演俳優だった五十嵐武(いらがし たける)は、その後、映画やTVに出る事はなく、舞台を中心に活動をし続けていた。
その原因は……「鬼面ソルジャーズ」の本来の主役で、五十嵐の親友だった金藤雄介の撮影中の事故死と、制作会社・TV局によるその隠蔽。
しかし、1990年代、金藤雄介の伯父である在日韓国人社会の大物から、ある驚くべき事実を知る。
「金藤雄介の国籍は日本でも韓国でもない」
「そして『鬼面ソルジャーズ』の必殺技の元になった金藤が得意とした蹴り技は、日本・韓国いずれの武道・武術の技でもない」
更に時は過ぎ、2020年代……かつて「正義の味方」だった男の心の時は意外な形で再び動き出す。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
美男薄命、恋せよ乙女!?王家の秘薬と引き換えに、タヌキな殿下と結婚します!
柊 一葉
恋愛
美男子ほど、寿命が短い世界。
なぜか男子だけが、
容姿が美しいほどに儚く散ってしまう。
王国きっての武闘派一族に生まれたロレーヌは、
双子の弟・ジェントをどうにかして生かしたいと思っていた。
しかし、生ける宝石と称えられる美しい双子の二人。
ジェントは、医師の見立てだと二十歳まで生きられない。
十七歳になったある日、
ロレーヌは王家の秘薬であれば
ジェントの命が救えるかもしれないと噂を耳にする。
「王太子殿下の妃に選ばれれば、
王家の秘薬を分けてもらえるのでは?」
運良く、始まった妃選び。
王太子妃の座を狙う娘は多いものの
タヌキに似ていると噂の王子様は
健康長寿が取り柄の人。
王子様の目の前で
婚約申込書を叩きつけたロレーヌは
武闘派一族の娘の名に恥じないよう
どストレートに交渉する。
そんな彼女を気に入ったタヌキな王子様と、
「あなたに恋をしてみせます!」と宣言したロレーヌのラブコメです。
言ノ葉怪盗部~八駒宙の喪失譚~
米釜らいす
キャラ文芸
――非公式の部活、言ノ葉怪盗部。彼らに頼めば、どんな言葉も盗んできてくれ、盗まれた人は楽になると言われている。しかしその正体は謎に包まれ、妖怪だとか子どもだとか噂は絶えない――。
八駒宙と会う約束をしたその日、彼は屋上から飛び降りた。
宙の死は紛れもなく自殺、誰もがそう信じた。たった一人を除いては――。
「宙は生きている」
そう断言する少女、有川笑九は言ノ葉怪盗部の存在を知る。
生存確認のため、宙の言ノ葉を盗むよう依頼。
宙の弟、さとりからも有力な情報を得るのだが……。
狂気なまでに信じ続ける人々のお話。
序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜
水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑
★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位!
★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント)
「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」
『醜い豚』
『最低のゴミクズ』
『無能の恥晒し』
18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。
優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。
魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。
ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。
プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。
そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。
ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。
「主人公は俺なのに……」
「うん。キミが主人公だ」
「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」
「理不尽すぎません?」
原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。
※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!
パーフェクトワールド
出っぱなし
キャラ文芸
どこにでもありそうで、どこにもない僕の世界。この記憶は現実か幻か?
『なぜ、こんなことになってしまったのだろう?』
主人公・僕の後悔の記憶を辿り、物語は語られる。
どこか壊れていて、大人になれない大人の主人公・僕は人生の真実を見つけようと記憶をたどることになる。
僕は彼女と出会い、愛を知り自我の再生、そして破滅への道を突き進んだ。
この物語の行き着く先はどこなのだろうか?
現実と虚構のカベが壊れる時、この世は完璧な世界となる。
※カクヨムでも公開しています。
神に愛された子供たち
七星北斗
キャラ文芸
この世界は神が存在し、特殊能力を持つ人間が存在する。
しかし全ての人間が特殊能力を持つわけではない。
無能と呼ばれた主人公の戦いがここから始まる。
なろう↓
https://ncode.syosetu.com/n6645fm/
ノベルアップ↓
https://novelup.plus/story/503317569
カクヨム↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894599135
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる