15 / 79
15話 何となく楽しい
しおりを挟む
あれからというもの、リリィはまた紺色のゴスロリ風ワンピースを着るようになった。
彼女はワンピースが清潔になったことを喜んでいた。それが何より嬉しかった。リリィが喜んでいること、リリィが嬉しそうな表情になっていること、それらが私にとっては最高の幸せである。
ただ、学校にいる間はリリィに会えないという問題だけは深刻だ。
しかしこればかりはどうしようもない。
生徒でないリリィを学校に同行させるなんてことはできない。それは当然のこと。誰かに相談したら解決する、というような問題でもない。
会いたくても、我慢するしかない。
「……まさん……浅間さん!」
「あ」
「急にごめんね」
話しかけてきたのは夢見さん。
以前はほとんど交流がないクラスメイトに過ぎなかったのだが、最近は時折喋ることもある。
夢見さんは大人しめな雰囲気をまとっているし、容姿も落ち着いた控え目な感じだ。クラスには茶髪気味になるよう髪を染めている生徒もいるが、彼女は地毛のままで黒髪。制服も着崩さない。思えば、彼女が風紀関連の注意を受けているところは見たことがない。
「最近不審者には会ってない? 大丈夫?」
「え。あ、うん。あれからは特に会ってないよ」
不審者というのは、恐らく、かつてリリィの同僚だったというあの男性のことだろう。
「なら良かった。実はね、それを確認したかっただけなんだ」
「そう」
「あ、あの、なんか急にごめんね……」
「そんな! 謝らないで!」
彼女に非はない。彼女はただ私のことを心配してくれただけではないか。だから謝る必要なんてない。
刹那、あることをふと思いつく。
「そうだ。ついでにちょっといいかな」
「いいよ」
幸い今は元々の友達が周りにいない。
今なら気を使うことなく夢見さんとゆっくり話せる。
「連絡先交換しない?」
「え。わたしと……ってこと、だよね……?」
夢見さんは驚いた顔をしていた。
突然過ぎただろうか。
「駄目かな」
「ううん、大丈夫。じゃあ交換しよう」
「本当に大丈夫?」
「う、うん! 大丈夫! ごめん、わたしこういうの慣れてなくて……だから、嫌なわけじゃないんだ」
こうして私たちは連絡先を交換した。
その日の晩、私は試験的に夢見さんとやり取りしてみていた。
互いに教えあった連絡先に間違いがなかったかを確認するためである。
互いに送り合うメッセージは特別なことなんて何もない内容ばかり。踏み込んだこととか深刻なこととかは書かない。気楽に軽く触れ合う程度の文字列を送り合うばかり。
ただ、こういう経験は久々で、何となく楽しい。
中学生になった頃はこういうことをよくしていた。友達と連絡先交換ができたことが嬉しくて、やたらとやり取りしたりもしていた。それは一種の娯楽のようなもので。楽しみつつ時間を潰していた。
でもこの年になるともうそういう遊びも減る。どうでもいいことを送り合うような機会もほぼなくなる。それに、メッセージを送り合うとしても話しづらい内容ばかりだったりして、真っ直ぐには楽しめないことも少なくはない。
だからこそ、夢見さんとのやり取りは、純粋な感じがして楽しかった。
「……何してるの、日和」
「あ、リリィ。ごめん。何か用だった?」
「べつにー、用とかじゃないしー」
「そう」
「ふん、何だか楽しそうにしちゃって……」
彼女はワンピースが清潔になったことを喜んでいた。それが何より嬉しかった。リリィが喜んでいること、リリィが嬉しそうな表情になっていること、それらが私にとっては最高の幸せである。
ただ、学校にいる間はリリィに会えないという問題だけは深刻だ。
しかしこればかりはどうしようもない。
生徒でないリリィを学校に同行させるなんてことはできない。それは当然のこと。誰かに相談したら解決する、というような問題でもない。
会いたくても、我慢するしかない。
「……まさん……浅間さん!」
「あ」
「急にごめんね」
話しかけてきたのは夢見さん。
以前はほとんど交流がないクラスメイトに過ぎなかったのだが、最近は時折喋ることもある。
夢見さんは大人しめな雰囲気をまとっているし、容姿も落ち着いた控え目な感じだ。クラスには茶髪気味になるよう髪を染めている生徒もいるが、彼女は地毛のままで黒髪。制服も着崩さない。思えば、彼女が風紀関連の注意を受けているところは見たことがない。
「最近不審者には会ってない? 大丈夫?」
「え。あ、うん。あれからは特に会ってないよ」
不審者というのは、恐らく、かつてリリィの同僚だったというあの男性のことだろう。
「なら良かった。実はね、それを確認したかっただけなんだ」
「そう」
「あ、あの、なんか急にごめんね……」
「そんな! 謝らないで!」
彼女に非はない。彼女はただ私のことを心配してくれただけではないか。だから謝る必要なんてない。
刹那、あることをふと思いつく。
「そうだ。ついでにちょっといいかな」
「いいよ」
幸い今は元々の友達が周りにいない。
今なら気を使うことなく夢見さんとゆっくり話せる。
「連絡先交換しない?」
「え。わたしと……ってこと、だよね……?」
夢見さんは驚いた顔をしていた。
突然過ぎただろうか。
「駄目かな」
「ううん、大丈夫。じゃあ交換しよう」
「本当に大丈夫?」
「う、うん! 大丈夫! ごめん、わたしこういうの慣れてなくて……だから、嫌なわけじゃないんだ」
こうして私たちは連絡先を交換した。
その日の晩、私は試験的に夢見さんとやり取りしてみていた。
互いに教えあった連絡先に間違いがなかったかを確認するためである。
互いに送り合うメッセージは特別なことなんて何もない内容ばかり。踏み込んだこととか深刻なこととかは書かない。気楽に軽く触れ合う程度の文字列を送り合うばかり。
ただ、こういう経験は久々で、何となく楽しい。
中学生になった頃はこういうことをよくしていた。友達と連絡先交換ができたことが嬉しくて、やたらとやり取りしたりもしていた。それは一種の娯楽のようなもので。楽しみつつ時間を潰していた。
でもこの年になるともうそういう遊びも減る。どうでもいいことを送り合うような機会もほぼなくなる。それに、メッセージを送り合うとしても話しづらい内容ばかりだったりして、真っ直ぐには楽しめないことも少なくはない。
だからこそ、夢見さんとのやり取りは、純粋な感じがして楽しかった。
「……何してるの、日和」
「あ、リリィ。ごめん。何か用だった?」
「べつにー、用とかじゃないしー」
「そう」
「ふん、何だか楽しそうにしちゃって……」
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
あやかし温泉街、秋国
桜乱捕り
キャラ文芸
物心が付く前に両親を亡くした『秋風 花梨』は、過度な食べ歩きにより全財産が底を尽き、途方に暮れていた。
そんな中、とある小柄な老人と出会い、温泉旅館で働かないかと勧められる。
怪しく思うも、温泉旅館のご飯がタダで食べられると知るや否や、花梨は快諾をしてしまう。
そして、その小柄な老人に着いて行くと―――
着いた先は、妖怪しかいない永遠の秋に囲まれた温泉街であった。
そこで花梨は仕事の手伝いをしつつ、人間味のある妖怪達と仲良く過ごしていく。
ほんの少しずれた日常を、あなたにも。
ショタパパ ミハエルくん(耳の痛い話バージョン)あるいは、(とっ散らかったバージョン)
京衛武百十
キャラ文芸
もう収集つかないくらいにとっ散らかってしまって試行錯誤を続けて、ひたすら迷走したまま終わることになりました。その分、「マイルドバージョン」の方でなんとかまとめたいと思います。
なお、こちらのバージョンは、出だしと最新話とではまったく方向性が違ってしまっている上に<ネタバレ>はおおよそ関係ない構成になっていますので、まずは最新話を読んでから合う合わないを判断されることをお勧めします。
なろうとカクヨムにも掲載しています。
神に愛された子供たち
七星北斗
キャラ文芸
この世界は神が存在し、特殊能力を持つ人間が存在する。
しかし全ての人間が特殊能力を持つわけではない。
無能と呼ばれた主人公の戦いがここから始まる。
なろう↓
https://ncode.syosetu.com/n6645fm/
ノベルアップ↓
https://novelup.plus/story/503317569
カクヨム↓
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894599135
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
鬼面ソルジャーズ・神(Sin)
蓮實長治
キャラ文芸
1970年代に「変身ヒーロー」ブームの魁(さきがけ)になったTV番組「鬼面ソルジャーズ」。
しかし、その主演俳優だった五十嵐武(いらがし たける)は、その後、映画やTVに出る事はなく、舞台を中心に活動をし続けていた。
その原因は……「鬼面ソルジャーズ」の本来の主役で、五十嵐の親友だった金藤雄介の撮影中の事故死と、制作会社・TV局によるその隠蔽。
しかし、1990年代、金藤雄介の伯父である在日韓国人社会の大物から、ある驚くべき事実を知る。
「金藤雄介の国籍は日本でも韓国でもない」
「そして『鬼面ソルジャーズ』の必殺技の元になった金藤が得意とした蹴り技は、日本・韓国いずれの武道・武術の技でもない」
更に時は過ぎ、2020年代……かつて「正義の味方」だった男の心の時は意外な形で再び動き出す。
「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「Novel Days」「GALLERIA」「ノベルアップ+」に同じモノを投稿しています。(GALLERIAは掲載が後になります)
マッチョな料理人が送る、異世界のんびり生活。 〜強面、筋骨隆々、とても強い。 でもとっても優しい男が異世界でのんびり暮らすお話〜
かむら
ファンタジー
身長190センチ、筋骨隆々、彫りの深い強面という見た目をした男、舘野秀治(たてのしゅうじ)は、ある日、目を覚ますと、見知らぬ土地に降り立っていた。
そこは魔物や魔法が存在している異世界で、元の世界に帰る方法も分からず、行く当ても無い秀治は、偶然出会った者達に勧められ、ある冒険者ギルドで働くことになった。
これはそんな秀治と仲間達による、のんびりほのぼのとした異世界生活のお話。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる