上 下
2 / 2

後編

しおりを挟む
 もしかしたら彼女が一番かもしれない、とそう思った時。

「でもこれさー、名前のところ『ジャシカ』になってるよー」

 ノアがそんな細かいところを指摘する。
 名前など間違えるはずがないとまったく気にしていなかったが、よく見ると確かに『ジャシカ』になっている。恐らく単純な入力ミスだろう。

「うわあぁぁ! やってしまったっ!」

 ジェシカは気づいていなかったようで、頭を抱えてショックを受ける。自信満々でほぼ完璧だっただけに、この入力ミスは痛い。

「入力ミス、減点一点だな」

 なぜかエリアスは嬉しそうだった。


 二番目はノア。

「見て見てー」

 彼は凄いのを出してきそうだと思いつつ画面に目をやり、つい叫んでしまった。

「えっ! 何これ!?」

 間違いが多すぎてどこから突っ込めばいいか分からないが、まず、女性になっている。

「王女様どうし……え、何で? ノア、これ女になってんじゃん。何で?」

 ジェシカは混乱していた。

「おかしいかなー?」
「いやいや、普通気づくでしょ。アンタ男じゃん」
「うん。好きなのを作るんじゃなかったのー?」
「……もういい」

 ジェシカは呆れ果てていた。
 髪が紫なこと以外すべてが間違っている。しかも職業がパン屋だし。パン屋って……。
 これは確実に決まりだろう。彼が最下位。つまり頬にキスされるのは彼だ。


「次は王女様っ」

 三番目は私か。じゃあ最後がエリアスね。

「上手くできてるか分からないけど……はいっ」

 恥ずかしさを感じながら画面をみんなへ見せ反応を待つ。
 私の髪型はなかったのでハーフアップで代用したが大丈夫だろうか。しかも職業も王女はなかったので魔法使いになっている。言葉の現実化能力を持っているので魔法使いで間違いではないかなー、と思って。

「完璧です、王女。貴女はやはり素晴らしい女王になられると思います」

 エリアスが目を潤ませながら手を握ってくる。

「感動しました。王女の作品は素晴らしいです! こんな難しいことを難なくこなしてしまわれるとは、凄すぎます!」
「落ち着いて、落ち着いて」

 そんなに感動しなくても。たかがゲームのキャラクター作りよ。

「でも確かにこれは完璧だなー。僕には何が足りなかったのかこの作品から学びとるよー」

 ノアは何が足りないとかいう問題じゃないと思う。

「この確実さは王女様の武器だよね。凄いなぁ」

 ジェシカはとても普通な感想を述べていた。


 最後はエリアス。
 さすがにこれは完璧でしょ。入力ミスさえなければ普通に一位……って、ちょっと待って。それはまずい。シュールなことになってしまう。

「王女、どうでしょうか……」

 そんなに赤面しなくてもいいのに。

「名前——え? エリアス! 名前が護衛隊長になってるけど!?」

 名前の欄が『護衛隊長』になっている。どうしてこうなった。

「はい。実はですね、職業の欄に護衛隊長がなかったのです。なので名前をそれにしました」

 そ、そうなんだ……。
 その他、外見などは特におかしくなかった。だが睫のパーツがないせいか、若干エリアスらしくない感じがする。ゲームで彼の神々しい雰囲気を醸し出すのは至難の業だ。

「隊長おかしいー。名前には名前を入れるんだよー」
「女を作ったノアには言われたくないな」

 エリアスは一瞬だけノアに鋭い殺気を向ける。おぉ怖い。

「もしかしてエリアス、ちょっと気にしてる?」

 半ば冗談で声をかけると、「私を心配して下さるのですか? 王女はお優しいですね」などと返ってきて少々困惑した。流れがおかしい、流れが。


「さて、それでは結果発表を始めまーすっ!」

 やはりジェシカが芯をとるらしい。もはや私に出る幕はない。

「第四位は……ノア!」

 そりゃそうよね。名前と髪色以外すべて違っていたもの。

「四位かー。嬉しいなー」

 最下位だけどね。

「残念賞三位は……エリアスだね」

 エリアスは首を傾げる。

「ジェシカ、それはおかしい。なぜ私には残念賞とつけた?」
「それはキスされることもすることもないからだよっ」

 なるほど、だから残念賞か。確かに何もなしは残念だわ。したいわけじゃないけど。

「くっ……そうか。惜しいな」

 でもこのイベント、参加者にノアがいる限り、恐らく最下位にはなれないわよね。ノアはおかしさじゃ最強だもの。

「続けてちょい残念賞の二位はあたし! でも悔しいな、一文字の間違いだもん」
「ジェシカさん凄く惜しかったものね」
「ホントだよ! 悔しすぎっ」

 でも彼女のそういうちょっとミスするところ、私は案外好きだったりする。完璧より可愛いげがあって魅力的だと思うの。

「そして第一位は……王女様! おめでとうございますっ!」

 まさかの一位。予想外だ。

「おめでとうございます。さすがです、王女」

 エリアスは安定の優しさで祝福してくれる。普通に嬉しい。

「さすがだねっ。でも次はあたしも負けない!」

 え、またやる予定? そんなの聞いてないけど。

「凄いなー」

 うん。貴方は次からもう少し話を聞こうね。

「じゃあ頬キスは、王女様からノアへだねっ」

 しまった、そんな難関が残っていた。しかもする方だなんて複雑な心境だ。


 こうして、このRPGゲームキャラクター作り大会は、私がノアの頬に軽くキスしたことで終わった。何だこのノリは、と思いつつ。でも意外と盛り上がった。面白かったわ。

 それに人間の文化って……なかなか興味深い。


◇終わり◇
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...