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前編

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 新しい朝が来た。

 それは、とても爽やかな朝。
 日射しも穏やかそのもの。
 歌って踊りたくなるような快適な日だ。

 だが、そんな気候とは対照的に、嬉しくない明るくいられない日となってしまったのだ――。

「お主とはもうやってゆけぬ、婚約は破棄とする」

 ――婚約者ワラノシにそう告げられたから。

 私とワラノシが出会ったのはいろんな国の人が集まるサロン。彼が私の服を褒めてくれ、そのことをきっかけとして親しくなった。彼は東国のそこそこ良い家の出だそうだ。そんな特別感のある出自の彼の話はとても興味深く、色々聞いているうちに仲良くなっていって。

 そして婚約したのだ。

 けれどもいざ婚約するとなかなか上手くいかない部分もあった。
 ただ、それでも一つずつ乗り越えていけるものと、少しも迷うことなく思っていた。
 乗り越えれば乗り越えるほど関係は深くなってゆく。
 そういうものと思っていたし信じていた。
 だから関係が壊れることなんて想像していなかった。

「やはり我らは気が合わぬよう。……もう終わりとしよう」
「そんな、どうして……」
「婚約破棄、だ。いいな? ではこれにて。さらば」

 こうして私はワラノシに切り捨てられてしまった。

 粘ろうとしたところ刀を煌めかされてしまったので――本当に斬られてしまいそうな気がして、急いで逃げた。

 ワラノシとの楽しかった時間はもう戻らない。

 過ぎ去ってしまった。
 終わってしまった。

 彼と重ねた時間は遥か過去のものとなってしまった。

 切ない……。


 ◆


 その後私は近所の本屋で働くようになった。

 特に意味はない。
 誰かに強要されたわけでもない。

 それでも働くことを選んだのは、婚約破棄された悲しみを掻き消してみたかったからだ。

「この列、もう並べられた?」
「あ、はい」
「整えも完了?」
「はい、終わってます!」

 動いていれば悲しみも痛みも薄れるものだ。
 完全に忘れることができずとも。
 それでも少しは救われるような気がする。

「じゃ、前に言った通り、あっちもね?」
「終わっています」

 今でもたまにワラノシと過ごした日々を思い出すこともある。

 けれどもそれに縛られはしない。
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